うちの大学の教授陣の中には、なぜか日本語を話せる人が多数存在する。
初級からお仕事レベル(ほぼ母国語)まで、レベルは様々だが、日本人以外で私が知る限り合計十人弱。
この数には、日本語学科の人は入っていないので、おそらくそれを合わせれば十人以上。
話せる理由も履歴も様々で、日本が好きで奥さんも日本人、という定番理由から、昔日本の大学で教えていた、学生や研究員時代に少し日本に滞在した(って数年滞在した程度でどうして習得できるのか私にはミステリー)という理由まで。
まあ、全般的にスイス人は語学が達者で、そもそもモノリンガルが少数派である。
うちの子供達ですら4か国語(日独英仏)にプラスしてラテン語まで学校で習っているし、おそらく平均しても3−4ヶ国語に触れている人たちである。
このような状況で、その一つに日本語が入るというのもさほど不思議は無いのかもしれない。
そのような日本語堪能な教授陣のトップに君臨するのが、我が大学の副学長である(スイス日本協会会長も兼任)。
この副学長が、去年の秋の受勲で日本から勲章を授与された。
以前日本の大学で教鞭を執っていらしたことや、日本とスイスの大学間研究交流への尽力の功績が認められ、今回の受勲と相成った。
大学ではすわ一大事とばかりに企画が立ち上がり、チューリッヒ大学やその他関係者が招かれて、先月受勲記念パーティが開かれた。
ありがたいことに、我々も一応大学関係者の関係者兼日本代表枠(?我々の大学着任依頼ずっとお世話になっているのは確か)ということで、夫婦揃って招いていただいた。
場所は大学本部ご自慢のレストラン、Uni Turm。
本部建物についている塔の上に10年ほど前だったかに作られたレストランで、市内を一望できて眺めよし、どういうわけだか味もよし(たぶんシェフが優秀)の素晴らしいロケーションである。(友人のETH教授も羨ましがるレストラン)
駐スイス日本国大使ご夫妻やら学長やらVIPの方々ご臨席の下に盛大に開かれた。
お招きをいただいてまず考えたのは、何を着ていこう?ということである。
夫はスーツだが、基本私は洋装の正装・盛装は持っていない。
大学なんてジーンズにシャツで十分なので普段そんなものはいらないので、実はちゃんとしたジャケットすらもっていない。
こういうときこそ、アレの出番、私の正装は、和装一本槍である。
今回の受勲は日本から、オケージョンを考えてもこれ以上の選択肢はない。
何を着ていこう?というのは、つまりどの着物を着ていこう?ということである。
このパーティはもちろん副学長が主役、授与なさる大使ご夫妻や学長などはVIP招待客、私などは引き立て役である。
主役より目立ってはいけないので、いつもの好みの柄満載の派手な訪問着に帯などはダメだろう。
かといって小紋で行く場所でもないし。
(好みのままに購入しているので、セレクションに偏りあり。。。)
と思ったら、良いものがあるのを思い出した!
10年以上前に呉服屋がこれはまだあなたには地味過ぎて早い、というのを押し切って買っておいた江戸小紋。
ブルーブレーの鮫小紋で、少し光沢と菊の地紋が入ったきれいな生地、10年後に絶対着るから!といって押し切って購入したものである。
たしかにその当時の自分には全く似合っていなかったのが、あまりに生地が美しくて購入せずにはいられず、今はダメでも歳さえいけばそのうち着られると思ったのだ。
格からしても柄からしても、今回ちょうどいいはず。
そろそろ時効だし、と思いつつ引っ張り出してあててみたら、なんとピッタリ!
恐るべし年月、いや、よる年波か笑、何にせよ備えておいて(=寝かせておいて)良かった。
でかした10年前の自分、である。
ちょうどこれに合う青と深緑の色合いの間道縞に鯉がはねる荒磯のおめでたい柄の帯もある。
鮫小紋は格式高く、荒磯は立身出世を象徴する柄、受勲パーティには、格としても、副学長のますますのご活躍を願う意味でもふさわしい。
よし、この組み合わせで行くべし。
当日は大使からの授与式、来賓の方々の祝辞などに続き、立食ではあるがコース仕立てでいろいろなお料理まで堪能させていただいた。
お寿司やら鮭の照り焼きやら、和風の要素がふんだんに取り入れられており、やっぱりここのシェフはすごいなと関心。
副学長に「勲章よくお似合いですよ、かっこいい!」と言ったら、「まだまだこれからもっとよ!」とのこと。
ますますのご活躍をお祈りしたい。