またこの季節が巡ってきた | 生物学者ママの実験的スイス生活

生物学者ママの実験的スイス生活

スイスドイツ語圏最大の都市で、仕事と子育てに奮闘中の研究者ワーママ。人生の3分の1以上をすでにスイスで過ごし、すっかり現地に同化中。
夫ともはやチビではない息子たちとの家族4人の日々の生活を、生物学者としての視点で(独断と偏見も交えつつ)考察します。

今年もまた、新学年が始まった。

9月下旬から始まる秋学期、この時期キャンパスは一年のうちに最も人が多い時期だ。

スイスの大学には(一部の学部を除き)入試がなく、とりあえず全員入学させ、1,2年生の基礎科目の単位を取り切れなかったら、ハイ退学、というシステムである。

うちの理学部では平均して50%が卒業、あとは途中で脱落する。

そのためもあり、新入生は私に言わせると無駄に多い。

 

正直、このシステムは公平なようでいて、実は全員に不利益をもたらしていると私は感じている。

人数がおおすぎるため、常に講義室は満員状態で質問もままならない。

しかも一番問題なのは、学生が多すぎて実習が全く行き届いていないことだ。

 

日本の我が母校では、あれだけの人数の学生(理系は2000人ほど)がいたにも関わらず、1−2年生の教養課程で毎週の各種理系科目の実習が必修とされていた。

キャンパスには体育館のようなサイズの実験室(二人に一台の実験台、何十人か百人以上が一緒に実習を行える)が完備されていた。

さらに生物学の専門課程では、ほとんど毎日午後は各研究室に配属されての実習(各種の生物学の実験)、さらに長期休みには専門家が引率する野外実習という、半分座学、半分実習という充実したカリキュラムが行われていた。

今になって(教える身になって)考えると、このように実習が充実していたのは、ひとえに実習を担当する教員のおかげ(とインフラに投資した大学側の配慮)だったと思う。(特に教養課程の助教は実習の業務が非常に重いので有名でもある)

本当にありがたいことであり、この経験はその後の研究者人生に非常に役に立ったと思う。

 

最近うちの大学入学者は以前よりも多く、講義室はもちろん、実験室だって全く足りていない。

そのためかどうか、実習は一応カリキュラムの一部に組み込まれてはいるが、必修ではなく自由参加らしい。

(参加してもなにかもらえるわけでもないので参加者は少数派らしい)

そのため3年生になって初めて実験らしきことをする学生は非常に多く、しかも、全く実習の経験がなくても、座学の講義の単位だけで卒業できてしまう。

 

生物学者として、それでいいのか。

(学部を出たくらいではどうせ専門家とまでは言えないが)だとしても、座学をやっただけでは高校生物とほとんど変わらないのではないか。

そのためか、3年半の学部を終えたあとに修士課程(1年半)に進む学生は多い。

自分でも、なんかやり残した感が残るのだろう。

修士課程は半年感のthesis work、つまり修論を書くための実習が必要である、しかし半年間は決して長くはない。。。

 

私が思うに、大学に入学してくる学生は増えているのに、インフラを含め大学側のやっていることが昔のままなのが問題なのではないだろうか。

少人数であるがために、大学側が放っておいてもなんとなく教育が行き渡っていた時代は終わったんじゃないだろうか。

しかもここ5年以上、州の財政が悪いためか、大学の予算は年々減るという、需要とは真逆なことを州はやっている。

 

毎年秋には学部生を見ていてそんなことを考える。

 

 

 

 

 

もうちょっと