第1496作目・『ARGYLLE/アーガイル』 | 【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

いつの時代も名作は色褪せません。
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映画で人生を考察してみました。
【注意】
・ネタバレあり
・通番は個人的な指標です。
・解説、感想は個人の見解のため、ご理解下さい。

『ARGYLLE/アーガイル』

(2024年・イギリス/アメリカ)

〈ジャンル〉アクション/サスペンス



~オススメ値~

★★★☆☆

・マシュー・ヴォーン監督による奇想天外な新たなスパイ映画。

・二転三転する先の読めない展開。

・「キングスマン」との繋がりにも期待。


(オススメ値の基準)

★1つ…一度は見たい

★2つ…良作だと思う

★3つ…ぜひ人にオススメしたい

★4つ…かなりオススメ!

★5つ…人生の一本、殿堂入り

〜オススメ対象外は月毎の「ざっと書き」にて紹介



〈〈以下、ネタバレ注意!!〉〉



《あらすじ》


『世界を股にかける凄腕エージェント、アーガイルの活躍を描いたスパイ小説を手がける作家のエリー・コンウェイ。愛猫のアルフィーと共に実家へ帰省している列車の中で、エリーは本物のスパイ、エイダンに出会う。エイダンの予告通り、数分後に襲撃に遭うエリー。事態も飲み込めぬままにエイダンと共に逃げ出したエリーは、自分が手掛けた小説のストーリーが実際のスパイ達の行動を言い当てており、闇堕ちしたスパイ組織"ディヴィジョン"が彼女の命を狙っていることを知る。ディヴィジョンの秘密を記録したデータファイルが有名なハッカー、バクーニンによって隠されていると知った二人は、ロンドンまでデータを探しに向かった。バクーニンが隠していた貴重なログファイルを見つけ出した二人だが、すぐにそこにディヴィジョンの追っ手が現れた。二人は窮地に追い込まれてしまう。』


〜一流スパイは 世界をダマす。〜


《監督》マシュー・ヴォーン

(「キック・アス」「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」「キングスマン」)

《脚本》ジェイソン・フュークス

(「PAN〜ネバーランド、夢のはじまり〜」「ザ・メッセージ」)

《出演》ヘンリー・カヴィル、ブライス・ダラス・ハワード、サム・ロックウェル、ブライアン・クランストン、キャサリン・オハラ、サミュエル・L・ジャクソン、ほか




【二転三転するスパイの顔】

キングスマン』のマシュー・ヴォーン監督が描く、新たなスパイ映画である。

同シリーズと完全に違うのは、アクションシーンにも血生臭い演出がなくなったこと。
およそアクションらしくないポップな音楽と激しい戦闘とのマッチングとか、ありえない派手な演出とかは相変わらず健在なのだが、グロさが完全に無くなった。
人が撃たれているのに血の一つも出ないのは違和感があるのだが、その分、誰でも安心して見られるスパイアクション映画となっている。

"アーガイル"は凄腕のスパイを描いた小説の主人公である。
スパイ小説作家のエリーは作成中の新作の終わらせ方に悩んでいた。そんな中、ある日突然、謎のスパイ組織に命を狙われることになる
それはエリーが作り出す小説があまりにも真実に迫り過ぎていたから。現実のスパイ組織"ディヴィジョン"は闇落ちしており、ディヴィジョンの組織のトップ、リッターは彼女が次の続編に書き記すであろう組織の秘密を記録したデータを取り戻すべく、彼女を狙っていたのだ。
組織の手からエリーを守るために敵対する組織から派遣された本物のスパイがエイダンである。

エリーが創作したアーガイルとは見た目も程遠いエイダンだが、彼の本物の戦闘能力でエリーはすんでのところで何度も命を助けられるのだ。
走行する特急内でのエイダンの緊張感に欠けたアクションがユニークで面白い。時折、エリーがまばたきをするとエイダンの姿にアーガイルの幻影が重なるのだ。

本物のスパイのエイダンを演じたのは、サム・ロックウェル。登場時は髭モジャの姿で誰だか分からなかった。
エイダンが飛行機恐怖症のエリーに語っていた、困難を乗り越えるコツがなるほどと感じさせられた。
何百メートルもある高い崖を登る時、誰だって不安や恐怖を感じる。しかし、「とにかく1メートルを登ろう」と、目の前の目標に集中し、それを繰り返しているといつの間にか頂上に辿り着いていると言うのだ。
このエイダンの話に夢中になって聞いているうちに、あれほど怖がっていたエリーはいつの間にか搭乗する飛行機が上空に着いていることに気付く。
恐怖や不安を克服する最良の方法は、今目の前で行われていることに集中することなのだろう。遠い先を見ても、過ぎ去った過去を見ても、不安や恐怖は増幅するばかりなのである。

作中の設定のリアルさが売りの作家エリーの想像力と直感で、本物のデータファイルの行方を追う二人。
いくらスパイの知識に長けた才能溢れる人物とはいえ、作家は作家。ミステリー作家に本物の殺人事件の捜査を任せるようなあり得ない展開なのだが、エリーの直感は見事に的中しており、遂にデータの在処を示すログまで辿り着く。
もちろんこの一見すると不思議なスパイ活動には裏があるのだが、この時点では真実はまだ分からない。

本作がスピード感のある怒涛の展開なのはここからで、この先、物語は二転三転して真実の行方が分からなくなっていくのだ。
エイダンに信頼を寄せ始めた頃、エリーは宿泊先のホテルでエイダンが自分の命を狙っているかのような電話を誰かとしているところを立ち聞きしてしまう。

やはり敵だったのかもしれないと、エイダンから身を隠して逃げ出すエリーは、唯一信頼できる両親に会いに、別のホテルへと向かった。
両親と落ち合うエリー。母親はいつもビデオ通話していたので我々もよく知る人物だったのだが、なんとそこに現れた父親は、まさしくエリーの命を狙っていたディヴィジョンのリッター本人だったのだ。

リッターはエリーが持ち出してきたログファイルをさりげなく取り出して分析している。
そこへ急いでエイダンが駆けつけて、母を撃ち、父を気絶させて入手したログファイルを奪還してエリーを連れて逃げ出すのだ。
え、どういうこと?と一回目のパニックである。
エイダンは敵?敵ではない?両親は本当はディヴィジョンのスパイだったということ?それとも敵組織の整形かマスク変装?

混乱するエリーと観客に多くは語らないままエイダンが連れてきたのは、サミュエル・L・ジャクソンが演じる元CIA副長官のアルフレッドがいる小さなスパイ組織である。
サミュエル・L・ジャクソンがマシュー・ヴォーン監督作品に出てくると胡散臭さが増すのだが、それこそ監督の狙い目なのかもしれない。
裏がありそうに見えて、本作では良い人だった

そこで二つ目のサプライズが語られる。
なんとエリーは元々アルフレッドの部下で、エイダンとタッグを組んで活躍していた腕利きのスパイだったのである。
元の名を、レイチェル・カイル。
R・カイル、すなわち、"アーガイル"なのだ!
彼女が作家として世間に発表していたのは、なんと彼女の頭に眠っていた本物の記憶だったのである。任務中に記憶を失ってしまったレイチェルはディヴィジョンのリッターに拾われ、洗脳によって記憶を改竄されていた
両親の記憶は記憶喪失後に、彼らによって植え付けられたもの。母親だと思って慕っていた相手はディヴィジョンの心理分析官であり、エリーとして小説に記憶を記し続けることによって、ディヴィジョンはレイチェルだけが知るデータの行方を追っていたのだ。
エイダンもまた彼女が無理なくゆっくりと記憶を取り戻せるように、彼女が実際に経過した道のりを彼女の直感(すなわち記憶)に従って辿っていたのだ。

真実を聞いてにわかには信じられないレイチェルだが、急にエイダンから殴られそうになった時、咄嗟に格闘術を繰り出す。自分でも無意識に反射的に反応していた。
それならばここまでの逃亡劇の中で何度も身体が反応するシーンもあったような気がするのだが、エイダンが屋上に逃げ出した時、そこに鉄の棒があって屋上までの扉を塞ぐつっかえ棒をした時に「都合良すぎ」と呟いたように、エンタメスパイ作品なのだから都合が良くてよいのだ。

ここまでで十分本作の「裏切り」的展開が繰り広げられているのだが、本作では更にその先が訪れる
ディヴィジョンの秘密を明かすデータを見つけ出したエリーは、そのデータの中に驚くべき人物を見つけ出した。
なんとレイチェルは元々ディヴィジョンの組織のスパイであり、潜入捜査としてアルフレッドの元でエイダンと共に活動していたというのだ。
自分は記憶を失った裏切り者だったのだ。

さてさて、立場がこんがらがってきた。
組織に狙われていたエリー(元レイチェル)は、元々ディヴィジョンの人間で、記憶を改竄されて小説家として眠っていた記憶を呼び起こされていたということになる。

ディヴィジョンの組織に捉えられた先でレイチェルは完全にディヴィジョンの手先としての使命を取り戻す。
拘束されているエイダンを一発で仕留め、いよいよレイチェルがかつての姿を取り戻したのかと絶望するのだが、ここで更なる反転が起こった。
記憶を取り戻したレイチェルは闇落ちした演技をしており、記憶を取り戻してもやはり心中はエイダンの味方だったのだ。

エイダンを撃ったのも、カモフラージュで見事に急所を外した狙撃であった。小説家時代にファンが送ってくれたあるアイデアから得た狙撃術で、実はこれにも一つの秘密が明らかになる。
元々エイダンとレイチェルにはもう一人の仲間がいて、その彼女をモデルにしたキャラクターはエリーの作中で命を落としていた
実際の彼女も任務中に狙撃されていたのだが、実は急所が外れていたことで生存しており、エイダンとレイチェルはそのことを知らされないままだった。彼女はディヴィジョンに潜入捜査し、エリーにファンとしてメールを送ってヒントを与えていたのだ。
そんな秘密裏に生きていた彼女が、ディヴィジョン壊滅をめぐる最後の決闘の最中に窮地を救いに現れる。



【煙幕に包まれて新たな名シーンが生まれる】

ボーッとしていると見失ってしまい、筋書きが行方不明になってしまうかもしれない。
本作は頭空っぽにして見たいエンタメ作品だと思っていたので、そこまで複雑な設定が入ってくるのは予想外であった。不意打ちに近い。
個人的にはもっとシンプルな構造でも楽しめたのかなぁなどと感じるが、裏切りの連鎖によって予想のつかないストーリーが好みの人にはとても楽しめるスパイ作品となっていると思う。

また、ストーリーとは別にアクションシーンのマシュー・ヴォーンらしさは健在である。
ノリの良いポップな音楽の中で繰り広げられる激しい戦闘はもちろん、煙幕での銃撃戦はマシュー・ヴォーン監督がまた新たな名シーンを生み出したと思った。
『キングスマン』での頭吹っ飛び演出は今も伝説的名(迷?)シーンであるが、本作では記憶を完全に取り戻したレイチェルとエイダンがダンスを舞いながら、カラフルな煙幕の中で追っ手の敵を薙ぎ倒していく

カラフルな煙幕の演出は過去作にも通じるオマージュであろうか。既視感はあるけれども、清々しいほど二人が幸せそうで笑えてしまう。
同時に本作は前述したように血生臭さは一切ない。夥しい死体が生まれていく様子が、まるで美しいシンフォニーの一つであるかのよう。クレイジーである。

それからレイチェルによるスケーティングアクションシーンも印象深いシーンであった。
石油まみれになったフロアで銃が使えなくなり、レイチェルとエイダンは追い詰められてしまう。
しかし、スケートが上手かったという記憶を取り戻したレイチェルは靴裏にナイフを突き刺してシューズ代わりとし、足下がぬかるんで身動きが取れなくなっている敵をスケートのように滑ってバッタバッタと切り倒すのだ。
華麗で美しいスケーティングである。およそ戦闘とは似つかわしくない芸術的な戦い方で敵を一掃してしまう。
あり得ないけど、娯楽的に痺れるのがマシュー・ヴォーン監督の作り出すアクションシーンではないだろうか。

同じ監督のスパイ映画なので「キングスマン」シリーズとの関連もなきにしもあらずか、それとも全く新しい世界観で再始動するのかと思っていたら、ほんの少しだけキングスマンを感じる要素を最後に入れ込んでいた
理解できたのは、"アーガイル“という人物もまた実在していたということ、そして若き日のアーガイルはスパイ組織「キングスマン」と何らかの関わりがあったということである。
続編でその辺りの展開が描かれることも期待したい。


(139分)