『高校生の松崎海はコクリコ荘という下宿先に暮らす人々の面倒を見ていた。戦争で亡くなった父を悼み、毎朝海に向かって信号旗を掲げる海。彼女にとってそれは船乗りだった父に毎朝続けていた習慣でもあった。ある日、学校の文化部が集まる部室棟でもあるカルチェラタンと呼ばれる建物の取り壊しが計画される。学生たちは集まって、取り壊しの反対運動を起こすのだがその筆頭として率いているのが新聞部部長の風間だった。風間からカルチェラタンの魅力を聞くうちに次第に海も建物の存続を支持するようになる。海の提案で取り壊し前にカルチェラタンの一斉大掃除を始めることにした学生たちは、仲間を集めて大掃除を開始する。すっかり海と意気投合した風間がコクリコ荘で催されたパーティに訪れると、風間は驚愕の事実を知ってしまう。風間が見たのは、海の父親と小野寺、立花という3人の男性が写った写真だった。海が父だと指し示した男性は、風間が知っていた自分の本当の父親だったのである。育ての親から自分が預けられた子供だったという事実を知った風間は海との距離も空けるようになる。』
〜上を向いて歩こう。〜
《監督》 宮崎吾朗
(「ゲド戦記」「アーヤと魔女」)
《脚本》 宮崎駿、丹羽圭子
《声の出演》長澤まさみ、岡田准一、竹下景子、石田ゆり子、柊瑠美、風吹ジュン、内藤剛志、風間俊介、大森南朋、香川照之、ほか
昭和の青春。古き良き文化。
なんでも新しければいいってもんじゃないって言うのは、この作品でこの時代を舞台にしたことにも通じるのかもしれない。
文化とは、手付かずでいれば埃が溜まるもの。美しく磨き上げれば、輝きや新しいもの以上の価値を取り戻すもの。カルチェラタンの大掃除によって、学生たちは鈍っていた青春と文化の輝きを取り戻していた、
老朽化したカルチェラタンの取り壊し論争そのものが、文化をめぐる考え方に通じるのかもしれない。
風間と海が実の兄妹かもしれないという事実には若干引いてしまったが、その疑惑を二人が乗り越えようとしていく。このロマンスについてもやや古典的で、古き良き青春そのものだった。
第1487作目・『クレイジークルーズ』
『エーゲ海を巡る47日間のクルーズ船。バトラーを務める冲方優は客のクレーム対応にも全身全霊で応えていた。新しく船長になった矢淵も冲方のトラブル対処能力に関しては役に立つと考えていた。今度のクルーズで冲方のニュースキャスターの恋人が横浜から同乗する予定であった。ところが、その恋人からキャンセルの連絡が入る。仕方がないと諦めていたところに、盤石千弦という女性が乗船してきた。彼女は冲方を捕まえて、冲方の恋人と自分の恋人が浮気をしていることを明かした。なかなか信じられない冲方だったが、彼女の話を聞くうちに次第に不安が高まっていく。急いで下船しようとするも、船は出航してしまう。そんな中、船の中で殺人事件が発生する。殺害された医師・久留間宗平の遺産をめぐった事件であった。息子の道彦はタイミングを見て父の死を公表することで遺産を正当に受理しようと目論んだ。一方、冲方や千弦を含め乗客たち数人もまた、宗平の殺害現場を目撃していた。ところが矢淵船長を案内したところ、あるはずの遺体は消え失せ、一緒に目撃した乗客たちも事件を見ていないと嘘の証言するのだった。』
《監督》 瀧悠輔
《脚本》 坂元裕二
(「西遊記」「花束みたいな恋をした」「怪物」)
《出演》吉沢亮、宮崎あおい、吉田羊、菊地凛子、永山絢斗、泉澤祐希、蒔田彩珠、岡山天音、松井愛莉、近藤芳正、岡部たかし、光石研、長谷川初範、高岡早紀、安田顕、ほか
坂元裕二脚本の豪華客船を舞台にしたドラマ。
ミステリーと、コメディとラブストーリーを組み合わせたエンタメ感の強い作品である。
主演はバトラー役が吉沢亮で、千弦役が宮崎あおい。主演二人のキャスティングは最高だった。大河主演経験のある二人がカッコよくて可愛いコンビを見せてくれている。
豪華客船の雰囲気が終始素敵で、殺人現場になった夜のプールの照明も、冲方と千弦がずぶ濡れになって同じ目的のために結託するシーンになるととても雰囲気が出ている。
どこを走り回っても絵になる豪華な世界観。豪華客船というだけで夢のある舞台である。
坂元節も健在である。
冲方が「浮気したも、しかけたも同じです。」と諭すのに対し、恋人と寄りを戻そうとしている千弦は「ご飯炊けたと炊けかけは違います。炊けかけじゃ食べれません。」と反論する。
緊張感のあるシーンにクスリとしたセリフで笑いを付け足す坂元裕二の独特の台詞回し。しっかり楽しめた。
一方で、劇中のキャラクターがいまいちハマらない人が多かった印象もある。
セレブを気取っていて、バトラーにも他の客にも失礼な態度を取る映画プロデューサー。遺産相続が思うようにならず良くない企てを立てる夫婦。電波が通じないという理由でバトラーに土下座させるモンスターカスタマー。
乗客側が非常識で不道徳なのはまだストーリーとして受け入れても良いとして、問題は新人の女船長として着任した新しい船長である。お仕事密着ドキュメンタリーのクルーが取材しており、船長はとても見栄えの良い言葉を並び立てているのだが、いざという時、頼りにならないのだ。
問題から目を逸らし、事なかれ主義で済ましてしまう。普通こういうテレビクルーが密着するほどの新進気鋭の女性船長となったら、カリスマ性があって事件や事故に対しても責任感を持って指揮してくれそうなものなのだが、彼女が嘘の証言をした目撃者たちの証言だけを信じて何もなかったんじゃないかと判断してしまったから、一度は事件が闇に隠れてしまうのである。
意外なのが、この役を演じたのが吉田羊であること。普段のイメージからこの事なかれ主義の役に通じないからしっくり来なかった。
坂元裕二という脚本家はもう50代後半の良いおじ様である。『東京ラブストーリー』や『ラストクリスマス』などのヒット作を生み出してきたラブストーリーの名手だと思うが、それでもこの年齢で例えば二人で寄り添う影を写真に撮って付き合いたての恋愛を楽しむという感性を知っているのが若いと思う。いくつになってもその時代の感性に響かせる感覚を持ち合わせているのがすごい。
冲方と千弦の恋模様や、豪華客船の煌びやかな雰囲気、そして事件の裏で展開する少年少女の淡い恋模様。
ミステリーはそれほどシリアスに描かれず、むしろラブストーリー要素が満載で、軽い気持ちで楽しむことができる。
何よりオリジナルストーリーで坂元裕二の新作が見れたことはとても嬉しかった。
第1489作目・『パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー』