第1448作目・『トップガン マーヴェリック』 | 【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

いつの時代も名作は色褪せません。
ジャンル、時代いっさい問わず、オススメ映画をピックアップ。
映画で人生を考察してみました。
【注意】
・ネタバレあり
・通番は個人的な指標です。
・解説、感想は個人の見解のため、ご理解下さい。

『トップガン マーヴェリック』

(2022年・アメリカ)

〈ジャンル〉アクション



~オススメ値~

★★★☆☆

・36年経って戦闘機を乗り回す現役アクション。

・前作の悲劇の続きを描いたドラマ。

・限界なき人間の可能性を知り、勇気づけられる。


(オススメ値の基準)

★1つ…一度は見たい

★2つ…良作だと思う

★3つ…ぜひ人にオススメしたい

★4つ…かなりオススメ!

★5つ…人生の一本、殿堂入り

〜オススメ対象外は月毎の「ざっと書き」にて紹介



〈〈以下、ネタバレ注意!!〉〉



《あらすじ》


『海軍屈指の飛行技術を持つピート・ミッチェル大佐、通称"マーヴェリック"は最新戦闘機のテスト飛行を控えていた。軍から開発打ち切りの噂を耳にしたマーヴェリックは上層部が正式に伝達に来る前に戦闘機を発進させ、開発目標であったマッハ10を目指す。マーヴェリックは目標を上回る成果を求め過ぎ、期待は空中にて大破。結局、開発は中止となった。責任を追及されるマーヴェリックだが、海軍大将となった旧友"アイスマン"の要請により、マーヴェリックはエリートパイロット養成機関トップガンに特別任務の教官として赴任することになる。ある国が核兵器プラントを開発中であり、その稼働前に壊滅させるという任務だった。訓練生メンバーの中には亡き相棒グースの息子ルースターもおり、マーヴェリックは負い目を感じていた。かつてルースターが提出した海軍志願書をマーヴェリックは破り捨てており、その結果、ルースターは入隊が遅れたことがあってマーヴェリックのことを恨んでいたのだ。初日から訓練生とドッグファイトを繰り広げるマーヴェリックだったが、彼の圧倒的な実力にエリート訓練生たちも手も足も出ない。短期間で非常に難易度の高いミッションをクリアしなければならず、訓練生たちに焦りが見え始める。そんな中、後ろ盾だったアイスマンが亡くなり、無謀な訓練を強いるマーヴェリックは解任されてしまう。ところが、代わりに任務遂行を担当する中将が多少の犠牲を生めば実現可能な作戦を説明している最中、マーヴェリックは自身が提示した無謀と言われるミッションの模擬演習をやってのける。』


〜誇りをかけて、飛ぶ。〜


《監督》ジョセフ・コシンスキー

(「トロン:レガシー」「オブリビオン」「オンリー・ザ・ブレイブ」)

《脚本》アーレン・クルーガー、エリック・ウォーレン・シンガー、クリストファー・マッカリー

《出演》トム・クルーズ、マイルズ・テラー、ジェニファー・コネリー、ジョン・ハム、グレン・パウエル、モニカ・バルバロ、ヴァル・キルマー、エド・ハリス、ほか





【36年もの間、現役を貫く伝説の男】

36年も経って同じ主演で続編が作られるというのは、それだけですごい奇跡だと思う。
1986年公開の前作はとっくに過去の「名作」として数えられるものだ。リメイク作品や別主人公でというパターンはあっても、同じ主人公でその後を描くという可能性はなかなか期待していた人は少なかったはずだ。
それが実現できたのは、トム・クルーズがいまだに現役のアクション俳優として出演できる肉体とスキルを持っていたから。カッコ良い。
しかも、自身でもアクションをこなすトム・クルーズが求めたのは、共演者も同様に実際の戦闘機に乗ることだった。

物語は、かつて一匹狼だった海軍パイロットのマーヴェリックがプロジェクトチームの仲間のために懲罰覚悟でマッハ10のミッションに挑んでいるシーンから始まる。
チームワークを大切にしつつ、挑戦的な姿勢も残っているマーヴェリック。抱えている責任や覚悟もかつてとは違う。
しかし無鉄砲なのは変わらないようで、昇進や退官は拒んで大佐であり続けながら自分の信念を貫いて現役を続けているのだ。
上からの命令に枠にはまって従うことや、政治的な駆け引きなどしない。大切なのはあれこれ考えるのではなく、自分で感じた方に向かって「行動」すること

そんなマーヴェリックがかつてライバルだった海軍大将アイスマンの推薦により、教官として後進を育てることになる。
その背景には、ある国がウラン濃縮プラントを建設している事実が発覚したため、稼働前に破壊する特殊ミッションが課されていたのだ。
トップガンの卒業生から選抜された若い後輩たちがミッション参加候補者であり、マーヴェリックはミッションを成功へと導くための教官として推薦されたのである。

現実世界でも、若い俳優たちにとってトム・クルーズは名作「トップガン」に主演していた伝説的スターである。
そんな彼が後進に求めたのは自身と同じようにスタントやCGを使わずに戦闘機に乗ること。操縦は別で行っているが、彼らは何ヶ月にも渡る訓練を経て、本物の映像作りのための準備をしてきたのだ。
本物の重力やスピードを体感している彼らのリアクションは、演技の枠を超えていたと思う。

続編の本作にはもう一つ大きなドラマがある。
前作でマーヴェリックが挫折したのは、飛行中に相棒グースの命を事故で失ったことだった。自分のせいではないかと責め、いつもの得意げな自信が消失してしまったマーヴェリック。
前作ではそんな自責の念を乗り越えてパイロットとして復活したのだが、今回、候補生の中にグースの息子・ルースターがいたのだ。

おまけに顔の形や口髭の感じまで父親に瓜二つ。マーヴェリックもまたグースやルースターに対する罪悪感が再燃していく。
マーヴェリックはかつて、ルースターが海軍を志願した時にその志願書を破棄して諦めさせようとしたことがあった。実はそれがルースターの母の願いでもあったから。
それでも彼は海軍に入り、そして父と同じく優秀な成績を収めてここまで辿り着いたのだ。

マーヴェリックは負い目を感じているのだが、ルースターもまたマーヴェリックにトゲトゲしく接している。二人の間には深い因縁が感じられる
おまけにチーム内には、この手のハリウッド映画の寄せ集めチームに描かれがちな自信過剰で挑発的なメンバー・ハングマンがいたりして、メンバー同士が終始ギスギスしている。
それなりに実力もある自信過剰な連中だからチームワークも一筋縄ではいかない。すぐ口論や喧嘩になり、任務開始日まで時間がない中で、雰囲気は最悪である。

このミッションには人並外れた高度な技術だけでなく、チームワークが不可欠だった。
ミッションを成功させるためには高速で飛行する機体から小さな地下道に向けて、ミサイルを立て続けに2発打ち込む奇跡を起こさなければならないこと。そのためには正確な指示を出す仲間が必要なこと。そして、ミッション後、直ちに敵ミサイルの自動迎撃を受けるためそれを回避する空中戦が必要となること。
作戦や指示だけでなく、その場の状況に応じて柔軟に攻防を繰り広げるチームワークが欠かせないのだ。
卓越した技術だけでは乗り越えられない。メンバー同士で協力することで初めて成功するミッションなのである。



【人類の進歩は最新機器に劣らない】

海軍上層部はミッション成功のためなら確実な作戦を遂行し、多少の犠牲はやむを得ないと考えている。
しかし、マーヴェリックはグースの経験から犠牲を生むことなど決して許さない。大胆な作戦を遂行してでも、必ず全員生きて帰還することを考えているのだ。

そんな中、マーヴェリックの独特かつ実戦的な訓練を経て最初はバラバラだったチームメンバーたちが、いつしか結束を固くしていく。
出会った当初は教官マーヴェリックを過去の人として見下していた候補生たちだったが、彼が実際に模範となって訓練を再現し、彼らよりも実力が上であることを見せつけると候補生たちはマーヴェリックへ伝説のパイロットとしての信頼を寄せていくのだ。
口だけの指導者でなく、行動で示す指導者には生徒たちは付いていく。どんなに偉そうに反論しても、口だけになるのが自分たちの側になってしまうからだ。

一番結束が固まったのは本人も言う通り、砂浜でアメフトゲームをした時ではないだろうか。
あのゲームだけで結束が固まるというのは都合が良いような気もするが、そんなことよりも若い生徒たちと混ざって上半身裸で筋肉美を晒すトム・クルーズがやはりすごい。ほぼ還暦男の素晴らしい努力と根性である。

結束力が高まったことでミッション中もそのチームワークが存分に発揮された。
ミッション直後、敵の迎撃ミサイルを受けたルースターを庇うようにマーヴェリックの機体が身代わりになって飛び出して直撃する
敵地に墜落したマーヴェリックを助けに来たのは、帰艦命令を無視して駆け付けたルースターだった。
マーヴェリックが助けられたのも、ルースターが彼のことを許し、マーヴェリックの教えを受け入れたから。
指示や命令を無視してまでも救助に向かったのは、頭でとやかく考えるのではなく「行動」に従ったのである。

そして、そんな二人が敵機に襲われながら無事に帰還できたのは、あれほど衝突していたハングマンとのチームワークが結ばれたからであろう。一度帰艦したハングマンが命令に背き、敵機に囲まれて絶体絶命の二人を助けに来たのだ。
それぞれの行動によって命が繋がれた。

かつては助けられなかった相棒の代わりに、その息子ルースターがマーヴェリックの命を救ってくれたということが胸を熱くさせる
マーヴェリックの後悔が報われた瞬間であり、かつて最高の相棒を失ったマーヴェリックが、最高の相棒と再会したのだと感じるのだった。

本作は本物の映像にこだわった結果、確かに映画のクオリティを超えた映像を見ることができたと思う。
機体の窓から見える風景が上も下も分からなくなるほど天地が逆転し、大きな負荷がかかっている俳優たちの苦しそうな呼吸や表情が見てとれる。
空中戦も手に汗握る戦いであった。ミサイルやフレアがなくなったりして、どうやって追っ手から生き延びられるのだろうとヒヤヒヤしたものだ。

マーヴェリックは敵機のF-14を使って、敵の第5世代戦闘機と空中戦を繰り広げる。これまでの戦闘機ではなしえなかった動きをする新型戦闘機に翻弄されるマーヴェリックだったが、マーヴェリックはその操縦テクで新型を撃ち落とす。
物語の序盤、海軍上層部はこれからはパイロットも不要になる時代だと語っていた。ドローンやAIが発達したおかげで、指示を無視して判断するマーヴェリックのような意思を持つパイロットは扱いづらい存在だったのだ。
それに対してマーヴェリックは、パイロットの技術さえあればどんな新型戦闘機でも敵わないことはないと信じている。ルースターも同じある。
そんなマーヴェリックが過去の化石にも等しい旧型戦闘機を駆使して、無理だと言われた第5世代戦闘機を撃ち落とすのだ。

これは、まさにトム・クルーズを体現するエピソードだと思う。
あの年齢になっても若い俳優たちと何ら劣らない、あるいは上回る肉体やアクションを披露するトム・クルーズ本人が、自分を磨き続けていることに通じるではないだろうか。
どんなに新しいものが有能で、最先端の技術を有していても、人間が自分自身をアップグレードし続ける限り、負けることや劣ることはない
そんなAIの脅威に晒されている人類が勇気の持てるエピソードだった。


(131分)