第1447作目・『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』 | 【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

いつの時代も名作は色褪せません。
ジャンル、時代いっさい問わず、オススメ映画をピックアップ。
映画で人生を考察してみました。
【注意】
・ネタバレあり
・通番は個人的な指標です。
・解説、感想は個人の見解のため、ご理解下さい。

テーマ:
『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』

(2021年・日本)

〈ジャンル〉アクション/コメディ



~オススメ値~

★★★★☆

・岡田准一の本格的で斬新なアクションがカッコいい。

殺さない殺し屋と、足の不自由な少女との出会いがドラマを生む。

・ハラハラドキドキしながら笑って楽しめる良作。


(オススメ値の基準)

★1つ…一度は見たい

★2つ…良作だと思う

★3つ…ぜひ人にオススメしたい

★4つ…かなりオススメ!

★5つ…人生の一本、殿堂入り

〜オススメ対象外は月毎の「ざっと書き」にて紹介



〈〈以下、ネタバレ注意!!〉〉



《あらすじ》


『少女に売春をさせていた組織の人間が次々に殺される。立体駐車場にいた組織の男も知らせを受けて逃げ出そうとするも、そこに目出し帽を被った男が現れ、組織の男は仕留められた。暴走する車内にいたのは佐羽ヒナコという家出少女だった。目出し帽の男はヒナコを助け出し、立ち去っていく。その男は伝説の殺し屋"ファブル"だった。4年後、NPO法人として子供を守る活動をしていた代表の宇津帆は、表向きの活動とは別に裏では腕利きの殺し屋の鈴木と共に金持ちの親を持つ若者から大金を巻き上げては殺害するという裏稼業に手を染めていた。4年前の事件で下半身が不自由となっていたヒナコも宇津帆の側で活動の補助をしていた。1年間誰も殺さないようにボスから指示されているファブルはデザイン会社の職員としてNPO法人の仕事の依頼を受ける。そんな中、ファブルはヒナコと再会し、相棒のヨウコの記憶を頼りに彼女が4年前の少女であることを知った。公園の鉄棒でリハビリをするヒナコを見て陰ながら応援するファブル。一方、宇津帆が次のターゲットに狙ったのは、偶然にもファブルの所属するデザイン会社の同僚の貝沼だった。』


〜最強の殺し屋、最大のミッションー誰も殺さず、希望を守れ。〜


《監督》江口カン

(「ガチ星」「めんたいぴりり」「ザ・ファブル」)

《脚本》山浦雄大、江口カン

《出演》岡田准一、木村文乃、平手友梨奈、安藤政信、黒瀬純、好井まさお、井之脇海、橋本マナミ、安田顕、宮川大輔、山本美月、佐藤二朗、堤真一、ほか





【派手で新しいアクションの数々】

えーー何これ面白いんですけど!前作より遥かに楽しめた。
平手友梨奈演じる足の不自由な少女、ヒナコとのドラマがストーリーに厚みを感じさせてくれたと思う。殺さない殺し屋と、人生に悲観している足の不自由な少女との出会い。ドラマが生まれないわけがない。
しかも、二人の縁は4年前まで遡るのだ。

まずは冒頭の、4年前の駐車場での暴走車シーンから迫力満点の素晴らしいアクションが披露される
ターゲットの運転手を殺したことで暴走した車から、家出少女を助け出すファブル。
暴走車にしがみついてすれ違う車の上を走ったり、間一髪で衝突を避けたりとかなりレベルの高いアクションが見られる。
最後は派手に屋上から飛び出した暴走車の墜落。ちゃんと車内カメラを含めて様々な角度から撮影しており、アクション映画で刺激的なシーンを求めている欲求をしっかり満たしてくれるのだ。冒頭のアクションからかなり満足度が高い
アクションが迫力満点で、思わずNetflixのスロー再生機能を駆使しながら見返してしまったものだ。

今回もう一つ目立っているアクションシーンが、団地で縦横無尽に駆け回る格闘シーンだろう。
上から下から横からと、あちこちからファブルを殺すために仕掛けられる暗殺者たち。ファブルは団地の廊下で銃弾を交わし、部屋の中で格闘し、ベランダを突き破って狙撃を交わす。
特にすごかったのが、壁と壁のわずかな隙間の中でゆっくり落ちながら格闘するアクションシーン。落下しながら敵と揉み合うなど、見たことのないアクションである。
あれも岡田准一本人によるスタントなのだろうか。そうじゃなくたって興奮するのは変わらない。
アクション映画の魅力は、私たちの"できないこと"を叶えてくれるところだろう。
あまり見た事がない斬新で刺激的なアクションの数々が、私の"できないこと"への憧れを満たしてくれた

アクションといえば今回は木村文乃演じる相棒ヨウコのアクションも冴え渡っていた。
ファブルと接触しようとヨウコの自宅まで押しかける宇津帆の部下の殺し屋、鈴木。銃を突きつける鈴木に臆せず、ヨウコは机を挟んで向き合う。
そして、「5秒でかたをつける」と宣言して強烈な蹴り&締め技。結果8秒かかったことにガッカリするヨウコ。煮込んでいた料理を煮詰めてしまったとがっかりするところまでカッコいい。
安藤政信演じる敵の殺し屋、鈴木はヨウコに押され、ファブルに物怖じしていて強敵感が足りなかった。

ファブルとヨウコは前作に引き続き、ボスから人を殺さない"一般人"として生きるようミッションを与えられていた。
今回二人は、表向きはNPO団体として子供を守る活動に力を注ぎながらも、裏では金持ちの親を持ちながら社会に甘い考えを持って生きている若者たちを狙って、金を巻き上げながら若者達を殺すという闇稼業に手を染める宇津帆に出会い、彼らと衝突することになっていくのだ。

宇津帆を演じたのは堤真一
表向きは人々から好かれている善良な活動家で、裏ではニコニコ笑いながら平然と人を殺す悪魔の顔を持つ宇津帆。
スーツを着こなしている間は人当たりも良いのだが、その実は背中にびっしりと入れ墨が入っており、表と裏の顔を使い分けて社会内に溶け込んでいる悪人である。
悪事のためなら何者をも利用するクズ人間で、善悪両方の顔を使い分けられる堤真一の名演技が光っていた。笑い方も絶妙に気味が悪くて上手い。

なるべく面倒事を避けてきたファブルが過去に因縁のある宇津帆と衝突せざるを得なくなったのは、ファブルが働くデザイン事務所の同僚が彼らのターゲットとなって殺されてしまったから
被害者は前作でも本作のヒロインを盗撮していたストーカーの貝沼である。前作でも問題になっていた同僚の盗撮行為が仇となり、宇津帆に隙を狙われた。
前作でももっと悔い改めさせてほしい…などと個人的にも思っていたが、こうして同僚が実際に殺されてしまうと複雑な気持ちである。
死に方も呆気なかったし。



【奇跡を起こすヒーロー】

宇津帆らはファブルの力量を知っているため、入念な計画を立てて主戦場となる団地へ誘い込んだ。
相手は多くの武器と殺し屋を使ってファブルを襲う。それに対してファブルは相手を殺せない
『るろうに剣心』の不殺の誓いもそうだったが、力ある者が自らの力を封じて相手の殺傷能力を下回る力で応戦し、相手を負かすのはすごくカッコ良いのだがハラハラドキドキもする
人を殺さないどころか、タンポポ一つも踏み潰さないように気を付けるファブル。崩れゆく足場から少女を助け出し、怖くて泣き出す少女を自分が大好きな滑り芸人の一発ギャグで笑わせるファブル。
強すぎる!猛者すぎる!そして面白い命懸けの戦いの最中でも弱き者への配慮を欠かさないのが伝説の殺し屋の余裕とも感じられる。

ファブルはヒナコと出会い、彼女が4年前に暴走車から救出した家出少女であることに気付いた。
そして、下半身付随となって公園の鉄棒で必死にリハビリしている彼女を影ながら応援しているのだ。
遠くから見守っていたため一度はストーカー扱いされるファブルだが、ヒナコのリハビリを直接的に支えたりはしない。彼女が転べば、それを遠くから見守っているだけなのだ。
「コケるの分かってるなら助けてよ」とヒナコは言うが、ファブルは彼女が再び自力で立てると確信しているから自分の手で助けるようなことはしないのである。

そんなファブルが最後にヒナコの救出に向かった時、彼女が転倒する前に後ろから救い出したのは、震え上がる伏線回収だった。
まぁいつかは手を貸して支えるのだろうという伏線は見えていたが、ヒーローが現れるには絶妙なタイミングである。
決して優しさを振り撒くのではなく、愚直で不器用だからこそ頼りになるのだ。

最後の地雷爆破シーンのヒナコの走馬灯も演出が良かった。そのシーンになるまで描かれていなかったヒナコの過去が走馬灯となって一気にめぐっていく。
たった一瞬のハイライトシーンのために、平手友梨奈もヒナコの人生を演じて生きてきたのだと感じる。
走馬灯を必要以上に感傷的にせず、早回しで見せてくれたためリアルに感じて良かった

ファブルが宣言していた通り、ヒナコは再び立ち上がった。両親を強盗に殺されたヒナコはずっと憎しみだけを生き甲斐に生きてきたのだ。
そんな彼女が対峙した両親を殺した真犯人。それは宇津帆本人だった。
4年前、ファブルに組織の人間を次々と消された宇津帆は、売春の事実を隠し通すためにヒナコの両親を殺して、強盗の仕業に見せかけることで真実を知るヒナコの口を封じたのだ。しかもその後、自身が両親殺しの犯人であることを隠したまま、親身になって世話をする宇津帆としてヒナコを側に置き続け、時には肉体関係すら強要していた。鬼畜の所業である。
ヒナコは激しく湧き上がる憎悪の力をエネルギーに変えて立ち上がるのだ。

奇跡を起こすには、祈るのではなくイメージすること
ファブルはずっとそうやってヒナコに教えてきていた。筋力、血流、バランス。足が立つためのイメージをリアルに膨らませることがコツだと言うのだ。
運任せの神頼みではなく、肉体と感覚を武器にして活動してきたファブルらしい教えである。
一度は憎しみのエネルギーで立ち上がることのできたヒナコは、きっとこれからもファブルの教えを活かしてリハビリを続けてゆくことだろう。

彼女は確かに立てるはずだ。
立つためのイメージが湧いてきて、あれほど悲観的だったヒナコが未来に希望を抱いているのだから。
本作のファブルは人を殺さない"一般人"を超えて、一人の少女の人生を変えた立派なヒーローとなった。

(131分)