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KOTOMUKEのブログ

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音が動きだすよ
違うな
音が回り出して
いや、違う



布団から起き上がって一度男は背中を掻いた

湿気た布団が敷かれ布団の周りには
飲み食いしたゴミが散乱して
服も脱ぎ散らかっている

トランクスにランニング
風呂もあんまり入っていなさそうな
無精髭を生やした男は布団から出ると
しばらく正座して眼球だけ天井に向け呟いた

電気代

アクビをしながらコンビニのATMにカードを突っ込み残高照会を押す
627円

おお、どうしようもない
電話は

そう言って取り出したスマホはまだ使えた

アクビをしながらコンビニを出ると急に息苦しくなり震えながら安アパートの202号
徒歩3分の距離にある自分の部屋へどうにかたどり着くと口に薬を放り込み頭から布団をかぶった


パニック症候群…ですか?

そうですね

何ですそれ?
夏目漱石とか芥川龍之介が患ってた病気ですか?

んー、いや芥川は統合失調症でだいぶ違いますね
夏目漱石は神経症と言う大きな括りだったようなあんまり定かな記憶じゃないんですけど
今、何でも病名ついてますし性格とだけで考えられてた時代もありましたから
まあ、要は自分に厳しい人
と言うか自己嫌悪だったりね
それから来る焦燥感に駆られる人とか
育った環境で他人が苦手になった人とかね
まあ、なる人はなるみたいで
私もね内科なんで深くは解らないから
この近くの


パニックですね

ああ、やっぱりそうなんですか

そうです
それとやや弱めのうつ病ですね
パニック症候群って完治、根治ですね
そう言う物は正直に言ってないんです
好不調だとか、季節の変わり目だとか
急にふっと出て来たりする病気なんで
とにかく焦らずに上手く付き合いましょう
昔と違って今はある程度、心をコントロール出来る良いお薬がありますから
いつの間にか気付かないように必ずなります
えぇ心配しないようにして下さい
それまで発作が出るとスゴく苦しくなると思います
その時は発作用のお薬も出しますんで1日何回、飲んでも構いません
我慢しないで飲んで下さい
それとうつ病にも効果のあるお薬出しますから
ゆっくり頑張らないようにやりましょう
そしたら一週間後、この時間にまた
それまでに何かあったらいつでも来て下さい

岡田崇 おかだたかし さんですね
じゃあお薬の説明をさせて頂きます


彼が病気と診断されたのは20代前半の頃
もう10年以上、病気が出たり引っ込んだりで定職にも就かずアルバイトしても長続き出来ないので日雇いだったりその場しのぎに暮らしていた

唯一、彼を支えたのは歌だった
バイト先の歓迎会などは発作が出るので余り行かなかったもののカラオケは個室なのでお呼びがかかれば2、3曲歌って盛り上げた
一般の人に比べ歌が上手く自信もあった

親と呼ばれる存在があった頃、父はところ構わず歌い、母は流行り歌を聞かせてくれた
父は誰とでも明るく丁寧に接したが
酒が入ると豹変し誰彼となく暴力を振るい
ある時、収監され自身の将来や家族の未来を悩んだ末、檻の中で自殺した
あんたの父親は逃げたとその日から母は言い続け崇が14歳になる頃、母と言う存在はどこかに前触れもなく消えた

何にも出来なかった少年は不良たちに混じって飯やタバコを貰い年齢を偽ってアルバイトをするなどして希望もなく生きた

歌手を目指して東京に出た事もあったが
顔が良くない、スタイルが良くない、また生来、引っ込み思案で緊張し易い性格であったのも良くなかった
路上で歌うにせよ、スタジオを借りて歌うにせよ本来の声が出せないまま早々に東京を諦め群馬の今、住んでいる場所に落ち着いた

その頃から時折、発作のように息苦しくなる、足の裏の冷や汗が異常に出る、不眠などに悩まされ、医者にかかった


布団の中、崇の震えは止んでいた
スマホを取って14時と呟いた彼はどうやら眠っていたようだ

仰向けになって天井の染みや木目をぼんやり見つめながら

音が震えるよ
新しいな、これ

と呟いた崇は夢を諦め切れず30歳を超えた今も歌を作っていた