千夏
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、…」
ソファーの上で千夏は息を整えていた。
私と乃花はその向かいに座り、部屋にあった…というか、
千夏が用意していたであろうスナック菓子をポリポリと食べていた。
時刻は夕方の18時頃。
春も終わりに近づき、日は長くなったものの、
徐々にオレンジ色の空が薄暗くなってくるくらいの時刻だ。
沈みかかった太陽の光が、
先程よりもより一層強いオレンジの光となってカーテンの隙間から溢れていた。
未来
「千夏ちゃんって、ほんっとにくすぐり弱いんだねw」
乃花
「そうそう、それに『こちょばい』って言うのが可愛かったw」
千夏
「…アンタら、ウチで遊んどるやろ?//」
千夏は目の下辺りをピンク色にして、
私たちに向かって言った。
先程のくすぐりが余程効いた様子で、
お団子ヘアの髪も、なんだかくたっとしていた。
未来
「千夏ちゃん、髪が崩れてるよ??」
千夏
「…うん、ちょっと直す……。」
千夏はそう言ってすっと立ち上がり、
部屋の奥にあるスタンドミラーの前に行った。
そして、肩よりも長い髪が「フワッ」と解かれた。
未来
(綺麗な髪してる…。)
千夏の後ろ姿を見ながら、私はそう思った。
そして慣れた手つきで、髪を結い始めた。
いつも思うのだが、千夏は立ち姿も綺麗だ。
身長は自分とほとんど変わらないが、
なんか背筋がすっと伸びてて、見ていて気持ちが良い。
顔立ちも綺麗だし、
もっと背が高ければモデルさんみたいになるかも知れない。
…そんな綺麗な子を、私は今、散々くすぐりまくったのかと思うと、
なんとも言えない高揚感があった。
そしてこれからも尚、『こちょこちょ特訓』の口実のもと、
彼女をくすぐり責めにしようとしている。
私は髪を直している千夏の背後へフゥッと近づいて行った。
未来
「千夏ちゃん?」
千夏
「んん??」
未来
「えいっ!//」
髪を直していたことで、
やはりガラ空きになっていた千夏の脇を
私は『ツンッ』とつついた。
千夏
「ひゃあぁんっ!!!//
もう邪魔せんでっ!!!///」
未来
「ゴメンゴメン、ついさ、www」
この時には、もう彼女の過去に対する偏見や変なジェラシーも無くなっていた。
むしろメグミに次ぐ『くすぐりフレンド』が出来たような気さえしていた。
私は乃花の隣に戻り、再びお菓子を頬張った。
乃花
「でもさ、さっき、未来ちゃんもくすぐり効いてたね?w」
未来
「そんなっ!千夏ちゃんほどじゃないからっ!!//」
乃花
「どうかなー??w」
未来
「そうだよっ!それに今は千夏の『こちょこちょ特訓』が先でしょ!?//」
乃花
「はいはいw」
私はそう言って話をはぐらかせた。
なんだか乃花もすっかり「くすぐりの魅力」にハマった感じだった。
妄想癖があって、ちょっと危険な乃花。
くすぐり合いで敵に回すと、ある意味一番怖いかも知れないと思った。
そうこうしてると、千夏が鏡の前からソファーへ戻ってきた。
千夏
「お待たせっ!」
未来
「よし、じゃあ再開しよっか!!」
千夏
「えぇっ!!まだやるん?!」
未来
「当たり前でしょっ!w
さっきは我慢どころか、爆笑して大変だったじゃん!//」
千夏
「それは、未来達が本気出しすぎやったけんやろっ!!//」
未来
「でも、我慢する練習しないと、くすぐりに強くはならないと思うよ?」
千夏
「ううぅ…………。。」
すると乃花が、置き去りにしていた二本の筆を握って、私たちに見せた。
乃花
「やっぱさ、指じゃキツそうだから、これ使わない?w」
未来
「そうだね。その代わり、我慢するように頑張ってね??」
千夏
「…うん、分かったよ。//」
未来
「素直でよろしいww」
再び私たち3人は千夏を真ん中にして
ソファーの上に座った。
そして、「指」は使わないという条件の元、
「こちょこちょ特訓」を再開するのだった。
未来
「じゃあ、いくよ?出来るだけ笑わないようにしてね?w」
千夏
「…うん。。//」
髪を結い直したことで、
千夏のうなじから首筋辺りが綺麗に見えていた。
温暖な土地で育ったためか、
千夏はやや褐色の肌の色をしている。
そんな千夏の素肌の首筋を
私は筆で「サワサワ」とくすぐり始めた。
千夏
「ひゃぁっっ!!!//」
未来
「もう、声だしちゃダメっ!//」
千夏
「そんなこと言ったって!!//」
すると今度は乃花が、耳の辺りを
筆で「サワサワ」し始めた。
千夏
「くひゃはははっはっ!!!//」
未来
「もー、我慢は??w」
千夏
「無理やーっ!!//」
なんとか千夏に『我慢』させたい私と、
それを無理だと言い張る千夏の押し問答が何度が続いた後、
乃花は何か思いついた様な顔をしてテーブルの上を見た。
未来
「のんちゃん?どうかしたの??」
乃花
「いや、要は千夏ちゃんに笑わないで耐えさせたいんでしょ?」
未来
「そうだけど…?」
そう言って乃花はテーブルに向かって指をさした。
その指の先には、千夏がコンビニで購入したペットボトルのジュースがあった。
乃花
「…なんかさ、それを口に含むとか…、どうかな??ww
それなら、嫌でも我慢できそうじゃない??」
未来
「なるほど、そのルール良いかも!!ww」
千夏
「良くないっ!!本当にウチが吹き出したら、二人ともビショビショばい?!!」
未来
「だから、そうならないように我慢するのっ!!ww」
千夏
「無理やんっ、そんなのーー!!!」
未来
「強くなりたいんでしょ!!?」
千夏
「、、、、そうやけど……、、」
乃花はテーブルの上にあったペットボトルを手に取った。
千夏
「ちょっ、ちょっと待って!!」
乃花
「なに??w」
千夏
「その……、、…何秒?」
未来
「何秒くすぐるのかってこと??」
千夏
「…そう。//」
未来
「じゃあ…、そうだな、30秒くらいにしてあげる。//」
千夏
「本当に、それで止めてくれる??」
未来
「ホントだよっ!w
それだったら耐えられそうでしょ?」
千夏
「うん、やってみる……。//」
乃花
「途中で口の中のジュース飲ん込んだり、吹き出したりしたら
本気でコチョコチョするからねっ!!w」
千夏
「分かったけんっ!!もう早くやろう!!」
私はカバンの中にあった携帯を取り出して時刻を見た。
時刻は18時05分40秒を示している。
未来
「私の携帯で、もうすぐ6時6分になるから、
そしたらそこから30秒ね♪」
千夏
「…うん。」
千夏は返事をして、乃花が差し出していたペットボトルを手に取り、
口の中にジュースを含んだ。
ソファーの上で座る私たち三人。
千夏を真ん中に、右側に乃花、左側に私。
そして真ん中の千夏はジュースを口に含んで、
なんだかとても不安そうな表情を浮かべながら下を俯いていた。
そして、いよいよ開始の時刻に近づいていく。
未来
「…………はじめ!!」
私の合図を聞いて、
千夏は『来るぅっ!!』という感じで目を閉じ、
肩を『きゅっ』とすくませた。
乃花は待ってましたと言わんばかりに、
千夏の右耳を『モゾモゾ』と筆でくすぐり始めた。
私も遅れまじと、
再び彼女の首筋を、耳の下辺りから鎖骨くらいまでにかけて
優しく『フゥゥッ』と筆で撫でた。
千夏
「……~~~~っっっっっっっっっっっっ!!!!///」
…堪えてる。
…めっちゃ堪えてる。。
頬を思いっきり膨らませて、
今にも口から飛び出そうなジュースを必死になって抑えている。
未来
「すごいすごいっ!!ww」
乃花
「その調子、その調子!!ww」
…やっぱり、こうしてくすぐりに無理やり
我慢させてるシュチュエーションは楽しい。
千夏の『こちょばい!』が聞けないのは少し寂しいが、
くすぐりに我慢している時の千夏がなんとも形容できない絶妙な表情を浮かべており、
それをのぞき込むように見ているのはとても楽しかった。
面白くなってきた私と乃花は、
くすぐりの場所を更に変えていくことにした。
未来
「ねぇ、脚の方は??w」
乃花
「いいねw やってみよう!//」
千夏
「ん、んーーっ!!、、うんん~~~~ーーー!!」
嫌がる様子の千夏をよそに、
私と乃花は筆の先を千夏の膝の上に乗せた。
千夏
「んん~~~~、ん、んんんーーー~~~~!!!//」
千夏は首を横に振りながら両手で膝の上を隠し、
『イヤイヤッ!』のアピールをしてみせた。
でもそんなこと、今の私と乃花が許すはずもなかった。
未来
「動いちゃダメッ!!//」
乃花
「そう、じっとしてて!!//」
私と乃花は、筆を持っていない方の手で千夏の両腕をそれぞれ抑え、
千夏の敏感そうな膝から内腿にかけてを
『ツツゥーーー』となぞった。
千夏
「ッッッッッッッッッッッッッーーー~~~~!!!!//
んくぅぅっ、、、ーーーーーー~~~~~~~~~~!!!!//」
凄く大きな反応に私は興奮した。
未来
(千夏、全身弱いんだ…。//)
千夏は両足を小刻みに『パタパタ』と動かしながら、必死に堪えた。
もっと見たい、もっと千夏の我慢してる様子、見てみたい。。
私は思い切って、
…もう口の中のジュースを吹き出される事を覚悟して、
千夏のブラウスをめくり、素肌のお腹辺りを『さわさわさわ』とくすぐり始めた。
千夏
「・・・・・・・・……………………………!!!!///
ッーーー~~~~!!!!//、、ッーーー~~~~!!!!//」
お腹を『ふるふる』と震わせながら、
千夏は尚続くくすぐったさに堪えている。
さらに乃花も、今度は千夏の背中に
大きな円を描くように筆を『スス~ッ』を滑らせて行った。
千夏
「きっっっっ………………………!!!//
ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ~~~~~~~~!!!!///」
今、千夏の口の隙間から、一瞬ジュースが『ピュッ』と漏れたように見えた。
寸前のところで堪えた様子だ。
未来
(これは、もう限界かも………www)
私は服を濡らされるのを覚悟して、
敏感な千夏の最大の弱点である腋の下を目指す事にした。
お腹のくすぐりを一旦中断し、
筆を逆さまに持ち替え、あの敏感な腋の下をつついてやろうと思った。
…これじゃあ、さすがに我慢できないはず。
もし我慢できたら、その時の千夏はどんな顔を浮かべてるのだろう。
得体の知れない好奇心が私を支配した。
そして、千夏の腋の下へ、ゆっくり筆の先を近づけて行った。
…その時。
千夏の喉の当たりから、『ゴクンッ!!』という音が聞こえた。
千夏
「…お、終わりぃ!!!
も、もう30秒たったからぁーーー!!!//」
私は慌てて自分の携帯を見た。
確かに、開始から30秒は経過していた。
乃花もようやく背中をなぞるのを止めた。
千夏
「私、ちゃんと数えとったもん!!//
二人とも数えてなかったやろぉっ!?」
未来
「…っち、ばれたか。//」
乃花
「もうちょっとやりたかったなぁww」
千夏
「ちょっと、どんだけなんっ!!//」
『こちょこちょ特訓』の我慢編は、あっけなく時間切れとなって終わってしまった。
よっぽど脚やお腹やくすぐったがったのか、
千夏は慌てて上着を直し、体育座りのように両足をかかえ、
膝をすりすりと撫で始めた。
きっとくすぐったい余韻が皮膚の上に残っていて、
それがムズムズして気持ち悪いんだろうと思った。
未来
「千夏さん、根性あるんっすねw」
乃花
「そうすね、ちゃんと30秒、我慢できましたねww」
千夏
「だって吹いたら汚れるやろっ!!
てかなんで敬語なんっ!!?ww」
乃花
「千夏さん、我慢できそうっすから、もっと時間増やしますか、姉さん?w」
未来
「そうすね、10分でいきましょうw」
千夏
「だけん、それは長すぎっ!!
もう特訓はこれで終わりっ!!ww」
未来
「それでいいのぉ?w」
千夏
「今日は!これをずっと続ければ、その内……。」
乃花
「本当に強くなるのかなぁ…。」
未来
「我慢できればねぇw」
乃花
「でも今のでギリギリだったら、先は長いよ??」
千夏
「……………。。
んー………、、そうやけど。。。//
でもこちょこちょに強くなるには、このくらいしか方法が……。」
…確かに。
くすぐりに強くなる方法って、一体どんなのがあるんだろう。
そもそも、そんなことが可能なのだろうか。
自分の事でもないのに、なんだか真剣に考えてしまっている私がいた。
未来
「…要は、メグミちゃんとのくすぐり対決に勝ちたいんでしょ?」
千夏
「まぁ、そうやけど………。。」
未来
「…じゃあ、くすぐられる事に強くなるよりも、
くすぐりを上手くして、
メグミちゃんをギブアップさせちゃえば良いんじゃない?」
千夏
「んー、未来みたいにこちょこちょ上手く成れれば、
それも良いかも知れんけど、
実際にくすぐらせてくれる子なんかおるんかなぁ。」
未来
「え、だからそれは…、、、」
千夏
「…え?」
私と千夏は、ほぼ同時にある人物へと視線を向けた。
乃花
「……………へ??」