１月の映画鑑賞記録第５回です。
『ケイコ目を澄ませて』２０２２年
監督 三宅唱
原案 小笠原恵子（『負けないで！』（創出版））
感想）先天性の聴覚障害を持つ小河ケイコ（岸井ゆきの）は、昼はホテルの客室清掃員として働き、夜はボクシングジムに通って練習に励んでいた。初めての試合で勝利を収め、聴覚障害というボクサーにとって大きなハンデを克服して頑張る姿は新聞にも取り上げられる。ジムの会長荒川（三浦友和）は自身の病気やジムの老朽化により、ジムを閉鎖することを決意する。
ジムのトレーナーはケイコに新しい移籍先を紹介しようとするが・・・
闘うことの恐怖、厳しいトレーニング、自分自身の弱さとの戦い。傍目には分からないケイコの内面的葛藤は岸井ゆきのの目力によってサイレント映画にしても観客に伝わりそうだ。映画を観ながらクリント・イーストウッドが監督した『ミリオンダラー・ベイビー』という黒人女性ボクサーの物語を思い出した。
キネマ旬報ベストテン第１位 岸井ゆきのが主演女優賞
★★★★☆
『こちらあみ子』２０２２年
監督 森井勇佑
原作 今村夏子
感想）ほかの女の子とはどこか違い、天真爛漫も度が過ぎる小学５年生のあみ子。周りはそんなあみ子に手を焼いている。
妊娠していた母（尾野真千子）が死産のショックで精神を病んでしまい、兄の考太は不良仲間に入り荒れ放題で家にも寄り付かない。高校生になったあみ子は父（井浦新）と一緒に祖母の家に身を寄せることになるが・・・
オーディションで選ばれ主役を演じた大沢一菜（かな）はこの映画のあみ子役にピッタリ。広島弁の方言指導もしっかりされていて好感が持てる。森井勇佑の監督デビュー作でキネ旬ベストテン第４位 ★★★★☆
『スクロール』２０２２年
監督 清水康彦
原作 橋爪駿輝
感想）キネマ旬報の「REVIEW/日本映画」では３人の評者が軒並み☆１つか２つの評価（☆５つが満点）だったが、それほど酷い映画ではなかった。松岡茉優や古川琴音の演技も悪くない。
キネマ旬報という映画ファンに影響力のある映画雑誌で紹介される新作映画に対して自分の趣味（感性）に合わない作品を酷評し見下す映画評論家（映画ライター）に「映画愛」は感じられず、寂しい限り。淀川長治氏や双葉十三郎氏、水野晴郎氏のような「映画愛」にあふれた映画評論家は今いずこ。★★★★ 
『千夜、一夜』２０２２年
監督 久保田直
感想））佐渡ヶ島で水産加工の仕事をしている登美子（田中裕子）は３０年前に失踪した夫の帰りを今も待ち続けている。
東京からやって来た看護師の奈美（尾野真千子）は２年前に夫が行方不明になり同じ境遇の登美子からアドバイスを受け夫探しに奔走する。知人の葬儀のため本土に渡った登美子は街中で奈美の夫に似た男（安藤政信）を偶然見かけ声をかけるが・・・
日本の年間行方不明者の数は約８万人を超えるという現実と、
北朝鮮による拉致疑惑問題も絡みあわせて佐渡ヶ島が映画の舞台に設定されたのだと推測されるが、佐渡で生まれ育ったと思われる登美子が佐渡弁ではなく常に標準語で話しているのが奇異に感じられた。監督や脚本家やプロデューサーは方言についてどう考えていたのだろうか。テーマには今日的な問題が含まれ興味深かっただけに、方言の手抜き？で興がそがれてしまったのが惜しまれる。キネ旬ベストテン第９位 ★★★★
『土を喰らう十二ヵ月』２０２２年
監督 中江裕司
原案 水上勉 「土を喰らう日々 わが精進十二ヵ月」
感想）四季の自然と「食と自然」の関わりが、信州の山里の自然の移ろいと共に爽やかに描かれている。自給自足の一人暮らしをしている作家のツトムさん（沢田研二）を気遣う歳の離れた恋人で担当編集者でもある真知子（松たか子）。真知子は東京から車でやって来て、ツトムの手料理に舌鼓をうつ。ある日、ツトムに「ここで一緒に暮らさないか」と誘われ、しばらくして承諾するが、今度はツトムの方が「人間はひとりで生まれ、ひとりで死んでいくものだ」と言って真知子の申し出を断る。
ツトムのそんなわがままをなじる真知子。ツトムが真知子に言う。「明日もあさってもと思うから生きるのが面倒になる。今日一日暮らせればそれでいい」人生の名言だと思った。
エンディングに流れるジュリーの歌声はのびやかで若々しい。
キネマ旬報ベストテン第６位 沢田研二が主演男優賞
★★★★★
