読書『トラウマ映画館』『AV出演を強要された彼女たち』『図鑑 世界の文学者』2023、1月 | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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映画感想、読書感想を備忘録として書いてます。
三浦しをん氏のエッセイを愛読しています。
記憶に残る映画と1本でも多く出会えることを願っています。

キネマ旬報ベストテン号が発売されたので購入した。

日本映画の第1位は『ケイコ目を澄ませて』(監督・三宅唱)。邦画のベストテン上位作品には近年ボクシング関連の映画が多いと感じるが(数年前の菅田将暉主演の『あゝ、荒野』安藤サクラ主演の『百円の恋』同じ監督で2020年に森山未來主演の『アンダー・ドッグ』等々)この作品はこれまでのボクシング映画とは中身が大分違うようだ。3位『夜明けまでバス停で』高橋伴明監督の作品が久々にベストテン入り。観たい作品も、選評でラストシーンをネタバレしている選者がいてガッカリ。伴明監督は日本映画監督賞も受賞しており、そのインタビュー記事でネタバレしているのでこの選者を責めても仕方ないが。表紙の写真を見ると、主演男優賞のジュリー(沢田研二)は醒めている感じ。

 

『月刊シナリオ』に発掘シナリオとして『妖刀物語 花の吉原百人斬り』(監督・内田吐夢 脚本・依田義賢)が掲載されていたので買ったが、定価が1210円(税込み)だった。率直に言って高い。ブックオフで110円の文庫本が10冊買える値段。

諸物価高騰の折りこれも致し方なしか。

 

1月は映画鑑賞に費やした時間が多く、読んだ本は3冊だった。

 

『トラウマ映画館』 町山智浩著 集英社 

<内容説明>

人は誰しも特別な映画を心に抱えて生きている。呪われた映画、闇に葬られた映画、一線を超えてしまった映画など、著者に爪痕を残した26本の作品を紹介。幼い頃に観たそれらの猟奇性やフェティシズムの源泉をひもときながら、作品同士の繋がりやのちの作品への影響を見い出す。読んでから観るか、それとも観てから読むか。トラウマになること必至。映画好きのための一冊。

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感想)26本の作品は著者が小中学生の頃テレビ放送(東京12チャンネル、(現・テレビ東京)の昼の洋画劇場や深夜放送等)で放送された際に観た作品が主なようだ。あの頃(1970年代)にテレビ放映で『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』

『早春』(スコリモフスキー)『哀しみの街かど』のような作品がテレビで何度も放映されていたのだ。木村奈保子が解説をしていた東京12チャンネルの『木曜洋画劇場』は毎週欠かさず観ていたのだが、数年の違いで著者のような恩恵にあずかることは叶わなかった。日本ではビデオ化されず現在もDVD等で観る事が困難な作品が多く取り上げられている。メジャーな作品もあるが、初めてその存在を知るようないわゆるB級映画も多い。昼の時間帯や深夜放送枠で放映されたのは安い値段で買い叩かれたB級作品が多かったからではないかと著者は推測している。

観ている作品は、『尼僧ヨアンナ』『悪い種子(たね』『追想』『ある戦慄』『質屋』『愛すれど心さびしく』(『わが青春のマリアンヌ』は観たような観ていないような)などごくわずか。

1本の作品からそれと関連性のある作品、元ネタと思われる作品を次々に引用して行く映画知識の豊富さは町山智浩ならでは。

最初に紹介される『バニー・レークは行方不明』(監督・オットー・プレミンジャー 1965年)では、なんやかんやで、20作品も関連するタイトル名が出てくる。あらすじ紹介で読者を引き込んでいく文章の語り口も上手い。映画から脱線して出演俳優のゴシップに血道をあげている所などもこの著者らしいご愛敬。(『かわいい毒草』のチューズデイ・ウェルド)

最後に取り上げている『愛すれど心さびしく』(監督・ロバート・エリス・ミラー1968年)の原作と映画の違いはこの本を読んで初めて知った。その部分を少し長いが引用。

 

「最後に彼女はシンガーの墓に語りかける。「シンガーさん、聴こえますか?あなたを愛していました」彼女の呼びかけは、天に昇っていく。テレビでこの映画を観た後、何年も経ってから新潮文庫の原作を読んで驚いた。シンガーさんはスピロスに宛てた手紙にこう書いていたのだ。「みんなぼくの部屋にやって来るのですが、よくもあんなにあきもせず、口を開けたり閉じたりできるものだと感心してしまいます・・・・・」 なんと、彼は人々の訴えをまるで聞いちゃいなかった! 訳者の河野一郎氏が解説に書くように、「シンガーの中に、あるいはキリストのイメージを見、あるいはドストエフスキーの『白痴』のムイシュキン公爵との類似を考えはじめた読者は、ここでいきなり足をすくわれ」てしまう。結局、誰の気持ちも誰にも届いていなかった。これで筆者はまたも打ちのめされた。原作のシンガーはミックの思いにも気づかず、スピロスに同性愛的に執着した挙句に自殺する。マッカラーズ自身も結婚していながらグレタ・ガルボやジプシー・ローズ・リーなどの女性に恋をし続け、夫はついに自殺した。マッカラーズの代表作『黄金の眼に映るもの』『悲しき酒場の唄』はどれも男女の愛が絶望的にすれ違って行く悲劇を描いている。孤独な狩人たちは永遠に孤独だ。愛すれど心さびしく。」

 

この作品を観てから原作を読んだ映画ファンは著者と同じような衝撃で打ちのめされたのではないだろうか。シンガーはミックやそのほかの関わり会った人々に対して理解や深い同情の思いを寄せていた訳ではなく、それは相手の好意的な思い違いに過ぎなかった。マッカラーズは映画で描かれているようには人間に信頼を寄せたり人生を楽観的に考えることは出来なかったと考えられる。映画が原作に忠実に作られていればどんな映画になっていたろう。観客は映画の余韻に浸りながらではなく、現実に打ちのめされる思いで映画館をあとにしたのだろうか。原作と映画の関係で言えば、著者は『妖精たちの森』(監督・マイケル・ウィナー1971年)という作品で、原作者(ヘンリー・ジェイムズ)が読者の想像力に委ねた主人公(マーロン・ブランド)の魔物の正体を、映画では具体的な人間として矮小化してしまったと指摘している。「トラウマ」として残るような映画を著者のように小中学生時代に浴びるように観てしまうことは果たして幸か不幸か。

人間性の複雑怪奇を小中学生時代に映画を通して体験することは、その後に待っている人生の辛酸を思えば決してマイナスにはならないと考えたい。『トラウマ映画』は人生の最高の教科書?

 

 

 

  <私の厳選トラウマ映画15選>

 

洋画篇

『質屋』シドニー・ルメット

          

 

 

『ペルーの鳥』ロマンギャリー

 

『誘惑』ジョルジュ・スカレナキス

 

『女体の神秘』

エリック・F・ベンデル『何がジェーンに起こったか?』ロバート・アルドリッチ

 

『豚小屋』パゾリーニ

 

 

『ソドムの市』パゾリーニ

 

『最後の晩餐』

マルコ・フェレーリ

 

『地獄に堕ちた勇者ども』ルキノ・ヴィスコンティ

 

『愛の嵐』

リリアーナ・カヴァーニ

 

 

邦画篇

『天使の欲望』関本郁夫

 

ある色魔の告白色欲の果て』

         江崎実生

 

『猟人日記』中平康

 

『花を喰う蟲』西村昭五郎

 

『裏切りの季節』大和屋竺

 

『みな殺しの霊歌』加藤泰

 

『吸血鬼ゴケミドロ』佐藤肇

 

鑑賞は自己責任でお願いします。

人格崩壊の恐れがあるため小学生は絶対鑑賞しないで下さい。

 

 

『AV出演を強要された彼女たち』 宮本節子著 ちくま新書

 

【内容】

モデルにならないか、とスカウトされ契約書にサイン、いざ撮影となって現場に行ってみたらAVだった。嫌だと訴えても、契約不履行で違約金がかかるぞ、親にバラすぞ、と脅され、仕方なく撮影に応じると、以後、次々に撮影を強要される・・・・・

「AV出演を強要された」女性からの生の声を聞き支援するなかで見えてきた、驚くべき実態を報告する。

 この本では、支援団体に寄せられた女性の生の声を中心に ”娯楽”として生産されているアダルトビデオの制作過程で、生身の女性にどのようなことが起きているかを伝え、さらにこうした女性への性暴力がAV産業の商品生産構造の一部として組み入れられている実態を明らかにする。(本紙カバーより)

 

感想)成人男性でAV(アダルトビデオ)を見たことのない人は例外で、ほとんどの人は鑑賞経験があると思われるが、そのAV作品に出演している女優の中には上記の解説にあるように、心ならずも強要や脅しによってAVに出演せざるを得なかった女性が少なからず存在している。2016年6月に大手AVプロダクション「マークスジャパン」の社長ら3人が労働者派遣法違反容疑で逮捕された事がテレビ等のマスコミで報道されて以来(それ以前にもAV出演強要、ビデオ発売、配信停止を要求するなどの相談はNPOの支援団体などに寄せられていた)この問題がニュースやマスメディアでも多く取り上げられ、2017年10月にはAV業界の改善を目指して、「AV人権倫理機構」なども発足している。2022年9月にはNHKでもこの問題を扱った番組が制作、放送され、AV業界全体の問題として今後も注視されなければならない問題であることを発信している。この本は「AV出演を強要された彼女たち」の被害の実態、街でスカウトに声を掛けられてから契約に至るまでのプロセス、被害にあった女性たちの生の声が聞けリアルな実情を知る意味でも貴重な記録。

 

 

『図鑑 世界の文学者』 ピーター・ヒューム監修 東京書籍

 

【内容】

 計198名の偉大な文学者と、約800年の文学史が一目でわかる。13世紀以降現在まで約800年の間に活躍した文学者に焦点を当て、6つの時代に分けて編年的に配列。取り上げるのはダンテから村上春樹までの世界の文学者198名と代表作。

毎年注目されるノーベル文学賞受賞者も約40名掲載。20世紀後半以降のポストモダン、ポストコロニアル時代の文学者も多数収録。文学史の全容を知ることが出来るのはもちろん、ページを眺めるだけで楽しく文学的素養も身につくビジュアル大図鑑。(東京書籍ウェブサイト)                       

 

感想)発行元はイギリスの出版会社DK社(1974年にロンドンにて創業。世界最大の出版グループPenguin Random House

の一員。子供から大人まで幅広い世代に向けた本を数多く出版しており、そのビジュアルの美しさと内容の面白さで高い評価を受けている。(東京書籍紹介文より))

国際共同印刷のため、原書と日本語版(齋藤孝監修)の図版、レイアウトには原則的に異同がないのも本書の特色の一つ。

B型変型判(百科事典のようなサイズ)で360ページあり、図書館の貸し出し期限2週間では読み切れないと思っていたが面白く5日ほどで読み終えた。内容解説にもあるように、13世紀以降現在までが6つの時代に区分されているので読みやすく、写真や図版も多く掲載されていて視覚的な満足度も高い。

値段も4200円(税別)と良心的な価格。作家ごとにページ数も異なり、それによって作家の格のようなものも自ずと理解できる。一読して感じたのは、やはりと言うか、数度に及ぶ結婚、離婚、不倫、愛人、情人、投獄、亡命、同性愛者、梅毒罹患経験者の作家が多いこと。

この本で取り上げられた文学者の多くはこのうちのどれかに該当しているのではないか。その作家の作品中の有名な文章も引用されており、作家の思想の一端を知ると同時に人生観、人間観、文学観を垣間見ることも出来る。

ガブリエル・ガルシア=マルケス、サミュエル・ベケットの紹介ページでは特に印象に残る言葉があり、今後の読書の選択、ブログ記事を書く際の参考になった。強いて言えば、出版元の社風、執筆者(10名が寄稿)レイアウト等の事情からか、エドガー・アラン・ポー、レイモンド・チャンドラー、ルイス・キャロル、遠藤周作らが紹介されている一方、ジョルジュ・シムノン、アガサ・クリスティ、ダシール・ハメット、アントニオ・タブッキ、ヘンリー・ミラー、谷崎潤一郎などが取り上げられていないのがやや残念に感じられた。

 

”何にもまして大切なのは、目を光らせ、観察し、全力で取り組み、すべてを5回書き直し、凝縮したりすることです”

            (兄、アレクサンドルへの手紙より)

 

”書けるだけ書きなさい!書いて、書いて、指が折れるまで書くのです!” (マリア・キセリョーワへの手紙』より)

                   アントン・チェーホフ