『雨のしのび逢い』『OL日記 牝猫の情事』『ウエスタン』他、2023.1月 | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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映画感想、読書感想を備忘録として書いてます。
三浦しをん氏のエッセイを愛読しています。
記憶に残る映画と1本でも多く出会えることを願っています。

 

 

『雨のしのび逢い』1960年

監督・脚本・ピーター・ブルック 原作・脚本・マルグリット・

      デュラス 脚本・ジェラール・ジャロル(仏語版)

   撮影・アルマン・ティラール 音楽・アントニオ・ディア 

      ベリ

   出演 ジャンヌ・モロー ジャン=ポール・ベルモンド

      パスカル・ド・ボワッソン ほか。

 

 海辺の田舎町(フランスのブレー)。アンヌ・デパレード(ジャンヌ・モロー)は裕福な夫(製鉄所所長)と幼い息子(ピアノの個人レッスンを受けている)とともに檻のような鉄柵で囲われた豪邸で暮らしていた。そんなある日、町で痴情のもつれと思われる殺人事件が起きる(息子のピアノレッスン中に女の悲鳴が聞こえ、窓をあける)。事件現場(ピアノレッスンをしていた建物のすぐ階下のカフェバー)を覗いたアンヌは死んだ女を愛おしく抱きしめる殺人犯の男に衝撃をうける。事件が気になるアンヌは翌日事件の起きたバーに行く。そこで夫の工場で働いているという青年ショーヴァン(ジャン=ポール・ベルモンド)に声をかけられる。(Wikipediaより( )内は任意に加筆)

 

原作と映画の原題は『モデラート・カンタービレ』(普通の速さで(中くらいの速さで)歌うように」という意味のイタリア語。

「モデラート」には「控えめな、節度ある、ほどよい」という意味があり、名流夫人のアンヌは夫の地位にふさわしいような節度ある暮らしをしてきたが、ある日目撃した殺した女に縋りつく男の激しい愛の姿に衝撃をうけ、声をかけてきた青年ショーヴァンと事件の真相について語りあう。ショーヴァンに惹かれるものを感じながら、ある一線を越えられないアンヌを「君は死んだ方がいい」と言い残し去って行くショーヴァン。暗いバーに取り残されたアンヌは事件が起きた日聞いた女の叫び声と同じように絶叫するしかなかった。退屈なブルジョア階級の生活に倦怠感を抱きながら夫の工場で働く労働者階級の青年と一線を越えられず節度ある生活に甘んじる事しか出来ないアンヌの苦しみ。

 

アンヌは今の生活に充足している訳ではないが、息子を愛していて全てを棄ててショーヴァンとの暮らしを選ぶことにも迷いがある。アンヌやショーヴァンの気持ちをより分かり易くするにはモノローグで表現する方法もあるが、ピーター・ブルックやデュラス(脚本)は映像を信頼し、観客がそれぞれの想像力で補足することを選んでいる。ピーター・ブルックの抑制の効いた演出。

この作品を理解するには高い推理力や想像力が求められる。

日本語字幕のないイタリア語バージョンで鑑賞したため(フランス語版では主演以外の俳優に異動がある模様)

台詞の内容が分からず映像と音楽以外はあらすじで補足。

★★★★(★5が満点 ☆は0.5点)

 

 

 

『身体を売ったらサヨウナラ』2017年

監督・脚本・内田英治 原作・鈴木涼美 脚本・伊藤秀裕

   音楽・小野川浩之

 

出演 柴田千紘、小西キス、久保田悠来、内田慈、冨手麻沙、

   川上奈々子、筒井真理子、原田篤、品川祐 ほか。

 

有名大学から東大大学院修士課程に進んだ後、大手新聞社で記者をしている29歳の鈴木リョウコ(柴田千紘)。彼女はAVに出演していた過去があった。夜になると友人のケイコ(内田慈)やお金持ちの彼氏、光ちゃん(原田篤)らとホスト通いの日々。

さらに一向に目が出ないミュージシャンの玲(久保田悠来)という恋人がいた。(シネマトゥデイ)

 

芥川賞や直木賞の候補にもなっている作家鈴木涼美の原作の映画化。映画ではリョウコになっている名前を涼美に変えれば、実話に近い作品のようにも感じられる。AV女優、元AV女優、AV男優AV監督へのインタビューなどが挿入され、その中に原作者の

鈴木涼美も登場してインタビューを受けている。

大手新聞社の記者として働きながら、過去のAV出演が露見することに不安も感じているリョウコの現在と過去、AV関係者へのインタビュー、リョウコ自身の思い、本音がモノローグを交えてつづられて行く。映画は自分の書いたAV女優に関する著作を出版社にプレゼンする現在から、過去の出来事が回想的に描かれ、その著作に関係するAV関係者のインタビューが挿入され現在に戻るという構成のため全体的に主人公の内面はモノローグによる説明に頼り過ぎているように感じられた。

主演の柴田千紘は川島なお美と竹田かほりを足して割ったような顔立ちで演技は悪くないが、モノローグに滑舌の悪さがあり言葉が聴き取れない箇所があるのが気になった。

部分的に魅力あるシーンもありながら構成は上手く機能していない。インタビューを入れることで流れが分断され、映画の中に入っていけない。主人公の感情、心理をモノローグで表現するのは観ている側にとって理解は容易になっても深みにはつながらず、かえって底の浅い作品になってしまう要素も持っていることを感じる作品だった。★★★☆

 

 

 

『OL日記・牝猫の情事』1972年

監督・脚本・加藤彰 撮影・姫田真佐久 音楽・月見里太一

     (鏑木 創)

 

出演 中川梨絵、宮下順子、絵沢萠子、山田克朗、織田俊彦、

   葵三津子、五條博、児玉謙次 ほか。

 

商社に勤めるOL桐野しのぶ(中川梨絵)は、上司である織部(山田克朗)の紹介でお見合いをする。お見合いの相手は織部の知人である青年、楠見(織田俊彦)だが、楠見がしのぶを彼女のマンションに送った日、そこで誰かが投身自殺する。楠見が愛する恋人英子(宮下順子)と別れられない一方、しのぶは職場を何日も欠勤する。織部がしのぶのマンションに行くと、しのぶは彼に妻(絵沢萠子)がいても織部のことを愛していると言い、玄関に鍵をかけ織部を逃げられないようにするが・・・(WOWOW)

 

監督の加藤彰はロマンポルノの監督としてシュールな作風で知られている。この作品にも加藤彰監督らしさが見られ、虚言癖を持つある種の色情狂の女性を主人公にして、浅川マキの歌などを挿入しながら都会に生きるOLの狂おしいまでに錯乱した心理をシュールな映像によって捉えよういう挑戦的な作品になっている。作品を支えているのは主演のしのぶに扮した中川梨絵の演技力。

 

中川梨絵の芸歴は古く5歳で初舞台を踏み、NHKの人気番組『ホームラン教室』『お笑い三人組』などに出演、1967年成瀬巳喜男監督の『乱れ雲』で映画デビューを果たしている。その後、加山雄三主演の『ゴー!ゴー!若大将』や内藤洋子主演の『年ごろ』に出演も芽が出ず、東宝から71年に日活に移籍芸名を中川さかゆから中川梨絵に変えロマンポルノでブレイクした。(Wikipedia参照)。

 

芸名を変えて成功するケースは歌手などにも多く見られるが中川梨絵の場合もそれに当てはまりそう。中川さかゆでは(さゆかにあらず)映画女優としてブレイクするようには思えず、文字から受ける女優のイメージの重要性を再認識させられた。

(梶芽衣子は太田雅子から改名して大成功)本作で共演している絵沢萠子も、松田友絵から72年に絵沢萠子に改名、ロマンポルノで人気女優になった経歴を持つ。絵沢萠子はロマンポルノのみならず、一般映画を含め103本の映画に出演(中川梨絵は18本)、テレビもNHKの大河ドラマを含め膨大な数の作品に出演している。

 

ロマンポルノは10分に1回の絡み(性的シーン、裸のシーンなど)があればどんなストーリーや演出も自由という状況の中で(時間は70分程度)作家性を持った加藤彰のような監督にとって、ロマンポルノは自分の考えるイメージを作品内で自由に創作することが出来る格好の舞台だったのではないだろうか。★★★★

 

 

『ウエスタン』1968年

監督・脚本 セルジオ・レオーネ 脚本・セルジオ・ドナティ

      ミッキー・ノックス(英語版台詞)

   撮影 トニーノ・デリ・コリ 音楽エンニオ・モリコーネ

 

出演 ヘンリー・フォンダ、チャールズ・ブロンソン

   クラウディア・カルディナーレ ジェイソン・ロバーズ

   ガブリエル・フェルゼッティ ライオネル・スタンダー

 

殺された農場主の妻(カルディナーレ)が流れ者のガンマンの手を借りて鉄道会社の陰謀と戦う。ヘンリー・フォンダが冷酷なガンマンを演じる西部劇。兄の敵を追う主人公にチャールズ・ブロンソン。(シネマトゥディ)

 

原案にベルナルド・ベルトルッチとイタリアのホラー映画の巨匠ダリオ・アルジェントが参加。2019年に日本で再公開された際のタイトルは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』で上映時間は日本初公開時(1969年)は141分。

 

オープニングから従来の西部劇には見られないほどのゆったりしたテンポで映画が進んで行く。閑散とした駅に怯えたような顔の老駅員、正体不明の三人組、現実音だけによる異様な緊張感。

列車が到着し目当ての男が現れなかったと知り戻ろうとすると、聞えてくるハーモニカのメロディー。列車が走り過ぎると現れるハーモニカの男(チャールズ・ブロンソン)。ハーモニカの男はあっという間の早射ちで三人組を倒す・・・・

 

DVDで『ウエスタン』というタイトルで発売されているものは、165分版、ほかにDVD発売されているかは未確認だが175分のロングバージョン版、229分版(レオーネ自身の編集による再編集完全版)があるようだ。今回鑑賞したのは165分版。

西部劇映画史上に残る大傑作という映画ファンもいる。日本で初公開された際の141分版では映画評論家には黙殺、映画ファンの間でひそかに支持されたような記憶もない。『ウエスタン』の評価が上がったのはタランティーノ、スコセッシ、ベルトルッチなどの大物監督の絶賛評価が少なからず影響しているようにも思える。映画サイトを読むと「確かにそういう見方もできるな」と思える感想も多くあり、観る人の感性や映画観に合うかどうかが評価の分かれ目のように感じる。『大砂塵』『捜索者』をはじめとする名作西部劇の引用(DVDのオーディオコメンタリー参照)も多くある作品で、その辺も含めてどう感じるかは映画ファン次第の所がある。

 

エンニオ・モリコーネの音楽が素晴らしいという感想も多く見かけたが、映像の効果を高めるという意味では音楽が独立してしまいむしろ映像との乖離を感じた。音楽自体は素晴らしいとしてもそれが映像にうまく溶け込み、映像表現としての効果を高めるものでなければ本末転倒。撮影は凝っていて見どころの一つ。

『ウエスタン』のようなゆったりしたテンポの作品は、(バレーのようなスローな展開はレオーネ自身が意識的にやったようだ)速いテンポやリズム感のある映画を好むファンには苦痛かも知れず、西部開拓時代の鉄道敷設の映画としてはジョン・フォードの『アイアン・ホース』、滅びゆく西部への挽歌というテーマでは『リバティバランスを射った男』(監督ジョン・フォード)『砂漠の流れ者(『ケーブル・ホーグのバラード』』(監督サム・ペキンパー)のような名作も存在する。

『ウエスタン』がそれらを超える大傑作かどうか。

最後は自分自身の評価に委ねられる。

★★★☆

 

 

 

『2046』2004年

監督・脚本ウォン・カーウァイ 撮影・クリストファー・ドイル

   音楽・ベール・ラーベン 梅林茂

 

出演 トニー・レオン チャン・ツィイー フェイ・ウォン

   木村拓哉 コン・リー カリーナ・ラウ マギー・チャン

 

 心の底から愛した女性と結ばれなかったチャン(トニー・レオン)は、「2046」というタイトルの小説を書き始める。

それは”失われた愛”を取り戻そうと”2046”という場所を目指してミステリートレインに乗り込んだ男女を描いた小説だった。

                    (シネマトゥデイ)

 

ウォン・カーウァイの『1960年代シリーズ』3作目。

『花様年華』(2000年)の続編にあたる作品で、同じ時期に撮影が開始されたが、予定通りに進まない監督のスタイルによるキャストのスケジュール調整の難航やSARSの影響による海外渡航制限、レスリー・チャンの自殺などがあって完成に5年の歳月が費やされた作品(Wikipedia)。

 

道理で『花様年華』のような作品だなと思ったのも思い違いではなかった。1967年の激動の香港を舞台にしたトニー・レオン主演の恋愛映画。既視感があり、内容的にも『花様年華』のような切なさを感じることがなかった。映像や音楽だけでは内容の薄さをカバーするにも自ずと限界がありそう。それにしても、ウォン・カーウァイの映像の凝りようは並大抵ではない。ブロ友さんの記事を拝読して、無性にウォン・カーウァイが観たくなったが、レンタル店に置いてあったのは『2046』1本だった。

今どき街のレンタル店を利用しているのは少数派の映画ファンだとは思うが、アジア映画香港映画の棚にはせめて『欲望の翼』『花様年華』は置いて欲しい。

★★★★