『甘い夜の果て』『鏡の女たち』『河内カルメン』『紅い花』他、2021・12月 | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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映画感想、読書感想を備忘録として書いてます。
三浦しをん氏のエッセイを愛読しています。
記憶に残る映画と1本でも多く出会えることを願っています。

鑑賞本数が多くなると備忘録としてブログに書くにも基本情報の検索や画像の取り込みなど煩雑になるので、鑑賞本数は週10本程度を目安にしていますが、今週はテレビドラマも1本入りました。作品評価は主観的、恣意的なもので客観性はありませんので、皆様の評価と異なる際は御容赦下さい。☆5が満点 ★は0.5点    

 

 

『道』(監督・蔵原惟繕 原作・セルジュ・グルッサール 

脚本・松田寛夫 1983年) 

 

フランス映画『ヘッドライト』(監督・アンリ・ヴェルヌイユ 主演・ジャン・ギャバン フランソワーズ・アルヌール 1958年)のリメーク作品。完成作品を観た岡田茂東映社長(当時)は「泣ける映画を期待していたが泣けなかった」と答えたそうだが、ギャバン主演のオリジナルが101分、蔵原監督のリメーク版が133分で時間は長くなったが、中味はかえって薄味になってしまった。これが営業戦略的なものかどうか分からないが、

仲代達矢と藤谷美和子のメインのストーリーに仲代の同僚運転手・柴田恭兵と元の彼女・三田佳子の話が入り込み過ぎているの感じをうけた。当初は高倉健主演で企画されていたが、出演料の高騰で主役が変更になったそうで、主演俳優の『ヘッドライト』との比較ではなく、せっかく蔵原監督を起用しながら原作の日本的な翻案として脚本に独自な味付けが感じられなかったのは残念。(☆☆☆☆)                                                                                 

 

 

『にごりえ』(監督・今井正 原作・樋口一葉 脚本・水木洋子 井出俊郎 1953年) 

樋口一葉の短編『十三夜』『大つごもり』『にごりえ』を原作にしたオムニバス形式の作品で、それぞれ丹阿弥谷津子、久我美子、淡島千景が主演、脚本の力と今井正の演出力による緊張感のある映像で魅了される、第二話『大つごもり』のラストのどんでん返し、第三話『にごりえ』の淡島千景が圧巻。☆☆☆☆☆                                                     

 

 

『煙突の見える場所』(監督・五所平之助 原作・椎名麟三 脚本・小國英雄 1953年) 

千葉から小学校の遠足や中学の修学旅行で東京方面へ行くとバスガイドの案内で必ず紹介されていたのが北千住にあった「おばけ煙突」。4本ある煙突が見る角度によって2本や3本に見える。人生も見る角度によって様々に色やかたちが変わっていく所がこの作品のテーマでもある。『にごりえ』が作られた同じ年に日本では五所平之助によって小津作品とはまた違う市井の人間模様を描いた傑作が作られていた。☆☆☆☆☆                                                                                              

 

 

『甘い夜の果て』(監督・吉田喜重 脚本・前田陽一 吉田喜重 1961年) 

新興工業都市のデパート店員の青年(津川雅彦)が、女たちを使って野望の実現をめざすが・・・。嵯峨三智子(美智子)が妖艶な社長令嬢のクラブママを演じて圧倒される。松竹ヌーヴェル・ヴァーグ末期に作られた出世の見込みがない貧乏生活からのし上がろうとする青年のあがきが鮮烈な作品。☆☆☆☆★                                                                   

 

 

『狼 RANNING is SEX 』(監督・高橋伴明 脚本・宮田諭 1982年 ) 

ディレクターズカンパニーの旗揚げとして作られたピンク映画『ピンク、朱に染まれ』の三本の中で高橋伴明が監督したのがこの作品。ほかに宇崎竜童監督『さらば相棒』 泉谷しげる監督『ハーレムバレンタインデイ』が作られ、いずれも60分前後の長さの作品でピンク映画的な要素は薄く、どの作品も監督の個性、メッセージ性が強く出ている。

『狼 RANNINNG is SEX』では、都会の片隅に裸で逼塞している若者(戸井十月)が早朝の街に飛び出して若い女を襲い、

土方作業で日銭を稼ぎ夜の街を走り回り警官の拳銃を奪って若い女(紗貴めぐみ)と知り合い言葉もないままSEXに没入する。

アパートには保険外交員(野上正義)新聞勧誘員(下元史郎)

栄養食品販売員、聖書普及協会の女(関根恵子)コンドーム販売員などがやって来るが、裸の男に恐れをなして逃げてゆく。

金がなくなりスーパーで万引きした男は追いかけてきた善良な市民?の手によって激しい制裁が加えられる。☆☆☆★                          

 

 

『鏡の女たち』(監督・脚本 吉田喜重 2002年) 

20歳の頃失踪した自分の娘らしき女性(田中好子)を発見した女(岡田茉莉子)を軸にして、アメリカから帰国した孫娘(一色紗英)を加えた三世代の女たちの心のさまよいを描く。

アラン・レネ監督『二十四時間の情事』(『ヒロシマ、わが愛』『ヒロシマ・モナムール』)の吉田喜重的アプローチのようにも感じる。室田日出男氏が出演していて声がかすれて台詞が苦しそうに感じたが、病状はかなり進んでいたのかもしれない。

この作品が遺作になった。合掌。☆☆☆☆                                     

 

 

『戦争と人間 完結編』(監督・山本薩夫 原作・五味川純平 脚本・山田信夫 武田敦 1973年) 

張作霖爆殺事件(1928年 昭和3年)前夜からノモンハン事件(1939年 昭和14年)までを背景にして 新興財閥伍代一族と軍部が結んだ侵略戦争と一族の息子、娘たちの結婚、恋愛などを巨視的な角度から描いた群像劇三部作の完結編。この当時、日活ではロマンポルノと並行する形で児童映画や一般作の大作が製作されていたため、完結篇では浅丘ルリ子、吉永小百合、夏純子らに加えロマンポルノで活躍中の絵沢萠子、片桐夕子、山科ゆり、二條朱美、市川亜矢子らが出演しているのも見どころの一つ。☆☆☆☆★                              

 

 

『河内カルメン』(監督・鈴木清順 原作・今東光 脚本・三木克巳 1966年) 

セクシーな河内娘(野川由美子)が村の若い衆に強姦されたことをきっかけに大阪に出てホステスやモデルとして様々な男たちと出会い、別れ成長してゆく姿を鈴木清順監督らしいユニークな演出で描く。脚本がそこそこでも主演女優と演出次第でこれだけ面白い作品に仕上がることを実証している。伊藤るり子はかなり損な役回り? ☆☆☆☆★                                                 

 

 

『懲役太郎 まむしの兄弟』(監督・中島貞夫 脚本・高田宏治 1971年)

 作品作りにあたって脚本の高田宏治は「ヤクザ映画にコメディの要素を取り入れてみたかった」と語っているが、第一作目のヒットでシリーズ化され、脚本家も代わりながら『まむしの兄弟』シリーズとして第9作まで作られたのはすばらしい。

戦災孤児で懲役帰りのゴロ政(菅原文太)が同じく戦災孤児で孤児院育ちの弟分・勝(カツ)(川地民夫)と組んでヤクザ組織相手に大暴れ。任侠道に生きるやくざ(安藤昇)と非道のゴキブリヤクザ(天津敏)に少年課の婦人警官(佐藤友美)が絡み、貧しい少女の姉弟の面倒をゴロ政が引き受ける。『狂熱の季節』『黒い太陽』の若者メイ(川地民夫)が成長したカツにダブった。

冒頭の『現金に手を出すな』を思い起こさせる音楽、ラストの雨に濡れてはげ落ちていく刺青が物哀しい。☆☆☆☆★                                     

 

 

『紅い花』(監督・佐々木昭一郎 原作・つげ義春 脚本・大野靖子 1976年) 

NHK土曜ドラマ劇画シリーズとして制作された作品で、つげ義春の『ねじ式』『沼』『古本と少女』がつなぎ合わされ、テレビドラマという制約と1時間弱という放送時間から考えるとかなり頑張って作られた作品だろう。映画作品では石井輝男監督の『ゲンセンカン主人』という同種の作品があり、そちらと比べると物足りなさはあるものの、テレビドラマという限られた予算枠で作られた作品としては大健闘だろう。同世代に沢井桃子というこんな魅力的な女優がいたとは。☆☆☆☆★                   

                                              

 

『ジョゼと虎と魚たち』(監督・犬童一心 原作・田辺聖子 脚本・渡辺あや 2005年) 

祖母に面倒を見てもらっている身体障碍者の娘(池脇千鶴)と就職を控えたアルバイト大学生(妻夫木聡)の恋愛模様。

「同情からする結婚ほど不幸なものはない」という言葉を若いころ何かで聞いたか読んだかしてずっと心に残っていたが、この作品はその言葉をよみがえらせた。久しぶりに再見して娘の養護施設時代の幼馴染で新井浩文が登場し、妻夫木が付き合っている女子大生役で江口のり子(徳子)が登場してヌードシーンがあり、妻夫木をめぐって池脇千鶴とビンタの応酬をする女子大生・上野樹里が当時17歳だったことにも驚いた。犬童一心監督の代表作? ☆☆☆☆★