『怪談昇り竜』(石井輝男監督 1970年)             梶芽衣子×ホキ・徳田×佐藤允 | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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『怪談昇り竜』(監督・石井輝男 脚本・曽根義忠(中生)石井輝男 撮影・北泉成 音楽・鏑木創 1970年 日活 ダイニチ映配) 

 

出演・梶芽衣子、ホキ・徳田、佐藤允、砂塚秀夫、安部徹、内田良平、土方巽、加藤嘉、大辻伺郎、高樹蓉子、青木伸子、牧まさみ、原田千枝子 ほか。 

 

立花組二代目の娘明美(梶芽衣子)は、義理が絡んだ剛田組との出入りで止めに入った組長(加原武門)の妹・藍子(ホキ・徳田)の目をあやまって斬ってしまった。娘の滴る血を黒猫がぺろぺろと舐める。

 

刑務所で黒猫の夢にうなされ大声をあげる明美に同房の女が食って掛かったが、明美の背中に彫られた竜の刺青と肝の据わった仁義に一同は静まり返った。三年が過ぎ、出所した明美は立花組の跡目を継ぎ浅草の露店商を取り仕切っていた。ある日新興の愚連隊「青空一家」が繰り出して店をメチャメチャにしたが、明美と青空一家のボス(内田良平)が対峙している所に流れ者の男・谷正一(佐藤允)が現れてその場をおさめた。

 

谷を組に招いて礼を言い、謝礼金を渡そうとする明美に谷は「礼を言われるためにやったわけじゃねえ」と突っぱねて出ていく。谷と入れ替わるように刑務所で一緒だった女たちが明美を慕ってやって来た。立花組の幹部・達(大辻伺郎)は、「露店を荒らしたのは土橋組(安部徹)の回し者に違いねえ」と言って組員の久夫(桂小かん)と末吉(水川国也)をたきつけて土橋を襲わせる。霊柩車に乗って帰って来る久夫と末吉の遺体。裏で土橋と繋がっていたのは達だった・・・。

 

同じ石井輝男監督で前年に制作された『昇り竜鉄火肌』(扇ひろ子主演)の姉妹作のような一篇で、タイトルバックのスローモーションとストップモーションを使った土砂降りの雨の中の斬り合いシーンから引き込まれる。梶芽衣子と佐藤允が映画の中心だが、黒猫が乗り移ったような土方巽と盲目のホキ・徳田が作品全体を陰で支配。悪玉をやらせればおそらく日本一の安部徹が憎々しさと好色性を前面に押し出し、石井組の砂塚秀夫がコメディリリーフの役目を果たし、内田良平、大辻伺郎、加藤嘉らのベテランと日活組の長弘、柳瀬志郎、高橋明、青木伸子、牧まさみ、原田千枝子、新人高樹蓉子らが絶妙に融合している。

 

当初は扇ひろ子主演で予定されていたが、スキャンダルのため梶芽衣子に主演が代わり、加藤嘉の役はアラカンさん(嵐寛寿郎)の予定だったが病気のため変更になったようだ。復讐を誓って修練を積んだ藍子(ホキ・徳田)が、明美(梶芽衣子)の純粋な心に触れて五年の月日が徒労だったと悟る終幕もよく、黒猫の祟りと怪奇性も十二分に表現された映像美(撮影・北泉成)、殴り込みのあとのホキ・徳田と一対一の対決で梶芽衣子の背後に浮かぶ渦巻き模様の空(美術・佐谷晃能)、全編に流れる鏑木創の音楽もこの作品を一層魅力あるものにしている。冒頭とラストの斬り合いで五人衆が横に居並び背中に彫った昇り竜を完成させるシーンはある種のユーモアを醸し出してユニーク。今はなきダイニチ映配の名前も懐かしい、怪談・怪猫任侠映画の文句なしの傑作。☆☆☆☆☆(☆5が満点)