『新宿泥棒日記』(大島渚監督 1969年)    | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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『新宿泥棒日記』(監督・大島渚 脚本田村猛・佐々木守・足立正生、大島渚 撮影・吉岡康弘 仙元誠三 創造社+ATG提携作品 1969年) 

 

出演・横尾忠則、横山リエ、唐十郎、田辺茂一、渡辺文雄、佐藤慶、戸浦六宏、高橋鐡、麿赤児、大久保鷹、李礼仙、松田政男、小松方正、佐藤重臣 他。 

 

新宿、1968年夏、土曜日午后5時半。紀伊國屋書店で本を探している岡ノ上鳥男(横尾忠則)。混雑する客の中を数冊の本を持ったままレジを通り抜け、階段を下りて行くと手を押さえられる。鈴木ウメ子(横山リエ)は紀伊國屋の社長田辺茂一の部屋へ鳥男を連れて行く。「三回・・・」「何が?」「警察に捕まらない限界」「明日また」

 

翌日も鳥男がやって来て、本を万引きしているのをウメ子が捕まえ社長の所に連れて行く。「私もそう暇じゃないんでね。いちいち私の所に連れてこなくてもいいよ」と言われ5千円を渡される。男とこれからセックスをするというウメ子に「それじゃあ、ホテル代にでもすれば」と言って鳥男は万引きした本を路上に放り出したまま去って行く。

 

二人を気遣った田辺氏は性科学者の高橋鐡氏の所へ連れて行き、高橋氏は「君たちは身も心も裸にならなければいけない」と忠告するが、「裸になれって言われたって、すぐに裸になることなんて出来るものか」と鳥男は内心反発する。

 

次に田辺氏は創造社の俳優や映画評論家たちの集まりに連れて行き、俳優諸氏のセックス談義を聞かせるが二人にはピンとこない。田辺氏の著作「夜の市長」の濡れ場シーンを戸浦六宏が実演し、それを物陰から見ている鳥男とウメ子。高橋氏の所から盗んできたというナイフをウメ子に見せる鳥男。ウメ子が逃げ鳥男が追いかける。鳥男の後ろから手ぬぐいを頭から被った二人の男がやって来て鳥男を殴りウメ子に襲い掛かった。

 

1968年夏の新宿を舞台に、鳥男とウメ子が真のセックスの歓びに至るまでを虚構とドキュメントの間を縦横に行き交いながら描いている。ジャン・ジュネの『泥棒日記』、吉本隆明、萩原朔太郎、富岡多恵子、田村隆一、ヘンリー・ミラー、ウィリアム・フォークナー、魯迅等々のコラージュ。新宿花園神社の状況劇場の公演中止に端を発した新宿駅前交番投石事件の実写映像。パリでは五月革命でゴダールやトリュフォーなどヌーヴェル・ヴァーグの僚友だった映画人たちが分裂、日本でも政治、社会、映画界も混沌として先の見えない時代だった。そんな時代状況の中で作られ、難解と言われる本作だが、そういう時代背景を踏まえて観るならば娯楽的要素はほぼ皆無とは言え映画的興味は尽きない作品である。

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