「白昼の死角」村川透監督 1979年 | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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三浦しをん氏のエッセイを愛読しています。
記憶に残る映画と1本でも多く出会えることを願っています。

 学生貸し金融業「太陽クラブ」の社長で東大法学部の学生隅田光一(岸田森)が闇金融の疑いで警察の捜査を受けた後、焼身自殺した。同じ東大生の仲間・鶴岡七郎(夏八木勲)は隅田の焼身自殺に衝撃を受け、犯罪者として生きる事を決意する。

敗戦後の東条英機や天皇の戦争責任を自分たちの手で処断出来なかった大衆を豚と断じ、大衆(豚)を食い物にする狼(企業)を狙った完全犯罪に手を染める。

 

「太陽クラブ」の残党木島良助(竜崎勝)、九鬼善司(中尾彬)、知り合いになったやくざの太田(千葉真一)らを率いて、周到な計画で次々に手形詐欺で大金を手に入れる。

やがて警察の捜査も厳しくなったことを察した鶴岡はエルバドル共和国(映画上の架空の国)の公使付きの秘書ゴンザレスを使い最後の賭けに出るが・・・。

 

アプレゲールの犯罪者鶴岡七郎を愛してしまった情婦(島田陽子)妻(丘みつ子)、東大生の仲間木島良助、九鬼善司、鶴岡に手を貸すやくざの太田、田舎役者(藤岡琢也)、手形パクリの被害者(長門勇)、(佐藤慶)、(成田三樹夫)、鶴岡の犯罪を追及する検事(天地茂)ら多彩な人物が登場し、それらの人物像を的確に捉え緊迫感と時にユーモアを交えて描いた村川透の演出と神波史男の脚本が見事。

 

鶴岡を愛した両極端の女、鶴岡の悪の魅力に惚れた情婦の綾香、鶴岡を真っ当な道に引き戻したかった妻のたか子。二人の女の悲しき運命。冒頭で次の言葉がタイプライターの音と共に打ち出される「法ハ正義デハナイ 法ハ力(チカラ)デアル 私ハソレヲ証明シテミセル 従ッテ人ハコレヲ悪意ニ満チタ物語ト言フデアロウ 神も悪魔も恐れざる男 鶴岡七郎」

 

金融界の大ボス金森(内田朝雄)の誘いを受けた鶴岡が答える。「私は常識外れの狂った世代、アプレゲールのただの犯罪者ですよ」「アプレゲールか。もう戦後は終わったんだよ。一匹狼の時代はもうとっくに過ぎたんだ」「そうですかね」。

 

亡くなった妻や情婦、犠牲になって死んだ男たちの亡霊を見ながら鶴岡は、神も悪魔も恐れざる男として生きる事を選ぶ。

ヤクザの太田の面接で登場するカトウ・ガタロウ(佐藤蛾次郎)イシマツ・ケイスケ(ガッツ石松)小指が無いタカギ・アキミツ(高木彬光)太田の配下でいつも学生帽を被っている沢田浩二(「網走番外地」シリーズのキバ)、田舎芝居の役者市之丞(藤岡琢也)が可笑しい。高木彬光の原作(角川文庫)は二十代の頃、余りの面白さに途中で読むのを止められず徹夜で読破した思い出の作品。原作の面白さと映画は別物だが、映画化されて良かった。☆☆☆☆(☆5が満点)