ファッションは時代とともにあり、社会経済環境にあわせて発展を遂げてきた。そんな時代のうねりになかにあるファッションの有り様の変遷を、デザイナー10人をピックアップして論じているのが本書である。本書で取り上げるのは次の10人だ。
・チャールズ・ワース
・ポール・ポワレ
・シャネル
・エルザ・スキャパレッリ
・クレア・マッカ―デル
・クリスチャン・ディオール
・マリー・クワント
・ヴィヴィアン・ウエストウッド
・コム・デ・ギャルソン
・マルタン・マルジェラ
エルザ・スキャパレッリはイタリア・ローマのデザイナーで、母親も貴族の家柄で、父は王立図書館長の学者で、仕事である図書館のあるコルシーニ宮殿で幼少期を過ごしたそうだ(別れているが旦那は伯爵)。豊かな教養を身に着け、様々な美的刺激を受けるには素晴らしい環境だったと推察される。その後、ファッションに関心を持ち、ポール・ポワレに見いだされてデザイナーになる。様々な芸術家との友好を通して刺激を受けて、前衛芸術などを取り入れたデザインを生み出したそうだ。いまでは珍しくないショッキング・ピンクのファッションは、彼女が初めて生み出したという。新しい取り組みや発想を好むアメリカにおいて彼女のアバンギャルドなファッションは受け入れられ人気を博す。彼女のメゾンで働いていたピエール・カルダン、ユベール・ジバンシィはその後、有名になるが、彼女自身のメゾンは世界大戦後に低迷し閉鎖となっている。ちなみに、調べたところ、2007年にイタリア人のDiego Della Valleがブランドを獲得して、2013年にラクロワを迎えて再デビューしているようで、現在でもコレクションが発表されているようだ。
クレア・マッカ―デルについてはあまり知らなかったが、プレタポルテ(既製品服)においてアメリカンカジュアルを確立した人物である。第二次世界大戦でフランスが打撃を受け、アメリカのアパレル業界は自国でプレタポルテを売り出すようになる。そこでシンプルで機能的で、スタイリッシュな中流の女性向けのファッションを確立したのが、クレアだという。その後、大戦後にフランスは急速に復興し、ファッションの中心としてパリは返り咲くが、アメリカンカジュアルはしっかりと庶民の生活に根付いた。ジーンズ、Tシャツ、スニーカーというカジュアルなスタイルは、たしかに世界中の人の身体を規定するスタイルとして確立している。
戦後、プレタポルテが台頭し、エレガントな服が主流だった時代は終わりをつげ、ストリートから新たらしい流行が生まれ始める。その頃に一般化したジーンズなどが良い例である。マリー・クワントはそんなファッション史の転換期に、イギリスでミニスカートを流行らせたデザイナーである。また、彼女自身、ヴィダルサスーンによるショートボブのヘアスタイルで登場し、アイコンとして人気を集めた。これは従前の文化的なヒエラルキーの解体であり、またミニスカートを着ることで伝統に対峙するということで女性の主体化を促した。しかし、その後のファッションの流行を見ると、反社会的なヒッピースタイルもただの大衆消費社会ではただの消費物と化してしまった。ミニスカートは、記号的消費の先鞭だったのかもしれないと著者はいう。
その他、シャネルにディオールは言わずもがな、やはりデザイナーの嚆矢となったワース、オリエンタリズムを取り入れたポワレも非常に興味深かった。現代においても、著者が「記号的ゲリラ」と呼ぶヴィヴィン・ウェストウッド(ちなみに、日本のヴィヴィアンの製品はライセンス品が多い)、ファッションを脱構築したコムデギャルソン、マーケティングに還元されないリアルクロースを求めたマルジェラなどについて興味深く紹介している。
学術的な視座から、歴史的潮流、各時代の芸術・社会・経済状況の脈絡でファッションを把握し、消費社会論等にも触れられており、とてもよく書かれている一冊である。著者は、イギリスの大学院でも社会学を学び、パルコ勤務を経て京都女子大教授。やはり学術的知見がある人の本は、読みごたえがある。





