18th Chopin Competition - jurors' scoring
3日前にショパンコンクールの採点結果が公開された。ファイナルは審査員の協議で決定したので非公開であるが、1~3次の予選について、各審査員のスコアが公開されている。25点満点で、Points averageが審査員の平均点、Index YはYESの割合である。各審査員は、次の審査に進めるか否かを、スコアとは別にYES・NOで判定しており、それの比率である。YESが半分を割ると次の審査には進めない。一次予選は人数が多いので飛ばして、二次予選からみてみよう。
なお、事前に書いておくが、審査員でもかなり点数が分かれるので、聴衆の我々も順位なんて気にしなくていい。大切なのは自信をもって「このピアニストが好きだ!」といえる自分の価値観である。例えば、美人・イケメンのコンテストがあって、優勝者が自分の好みと合致するとは限らない。美人・イケメンコンテストが容姿の絶対的な基準ではないように、ピアノコンクールも絶対の基準なんてありえないのだ。自分にとっての最高を見つけられればいい。コンクールの順位予想もあるが、結局、ケインズのいう「美人投票」に過ぎず、個人の審美眼とはあまり関係がない。
【二次予選】
二次の結果で気になったのは、やはり上位入賞を期待されながらも二次予選で敗退した牛田智大さん。Index Yの比率は0.35(つまり、35%の審査員しか次審査に進めることにYESとしなかった)。平均点は18.33点。審査員のフィリップ・ジュジアーノ が14点とかなり辛口の採点。パレチニは21点をつけているが、結果的にYESの数は半分に満たなかった。私の師事しているピアノ先生に聞いたところ、「ブラームスとかベートーヴェンでも弾いてるかって思うぐらいにガッツリした演奏だったから、ショパンコンクールとしてはハイスコアはつけられなかったんじゃない?それに左右の音を微妙にズラす技巧があまりに多くて気に名ちゃったし」と。なるほど。。マイクで拾った音だと悪くないと思ったが、名のあるピアニストや研究者の過半数がNOというからには、”ショパンコンクール”としては評価が難しかったのだろう(ショパンコンクールはショパンの曲しか演奏しないが、演奏家によって得意な作曲家は分かれるので別にショパンコンクールで落選したから悪いというわけではない)。
ブルース・リウはINDEX Yは1.00で満場一致で三次に進んでおり、平均点は23.03点で、二次予選唯一の23点代である。それでもディーナ・ヨッフェは19点とやや低めの評価であるから、音楽の感じ方は人それぞれである。第2位入賞の反田恭平さんはINDEX Yは0.88、平均点21.50点。アルトゥール・モレイラ・リマ、ディーナ・ヨッフェが満点の25点を出している。一方でエヴァ・ポブウォツカは17点と辛口。繰り返しになるが、審査員でもこれだけ評価が分かれるので、聴衆は順位なんて気にしなくていい。
さらに評価が分かれるのは同じく第2位のアレクサンダー・ガジェブである。INDEX Y0.76で、平均点21.41と好調で、海老 彰子が満点の25点(海老さんが二次予選で満点をつけたのは彼だけである)、ネルソン・ゲルナーとディーナ・ヨッフェが24点のハイスコア。この一方で、ケヴィン・ケナー16点、さらにはアルトゥール・モレイラ・リマが12点と酷評している。独創性、ショパンらしさ、技巧面、総合的な演奏の印象など、どこに重きを置くかによって評価が変わる好例であろう。
第3位の若きスペインの情熱マルティン・ガルシア・ガルシアはINDEX Y0.76で、平均点20.14であり、3人が23点の高得点をつけているが、ダイ・タイ・ソンは15点とかなりの辛口評価。6人が20点未満の評価をつけている。一方で、第5位に入賞したイタリアの女流ピアニスト、レオノーラ・アルメリーニは、INDEX Y0.71で、平均点20.60。ケヴィン・コナーとアルトゥール・モレイラ・リマが24点と高得点をつけており、これはガルシアの最高評価の23点を上回り、20点未満の低評価も5名にとどまっている。ただ総合的にみるとINDEX Yと、平均点だとガルシアが勝っている。いかに比較が難しいかを示している。
なお、ブルース・リウと同じくINDEX Y 1.00をたたき出したのが、第6位入賞のジェイ・ジェイ・ジュン・リー・ブイである。平均点も22.91で、ブルース・リウに次いでおり、二次の結果だけだと、彼は第2位入賞でもおかしくはなかったということだ。ちなみに、この2名に次ぐINDEX Yだったのは、シモン・ネーリングとミシェル・カンドッティであるが、三次予選敗退であるからコンクールというのは分からない。
【三次予選】
結果だけをみてみると、第2位入賞の反田恭平さんのIndex Yの比率は0.8、平均点は21.57。満点は0人。一方で、第4位入賞の小林愛実さんについては、Index Yの比率は0.81で、平均点22.36である。おまけにエヴァ・ポブウォツカ、ジョン・リンク、ディーナ・ヨッフェが満点の25点をつけている。平均点では小林愛実さんは優勝者のブルース・リウに次いでおり、三次予選の平均スコアだけみると小林愛実さんが第2位でもおかしくはない。やはりコンチェルトを踏まえて、小林愛実さんの儚くも華麗な弱音より、反田恭平さんのほうが高位に据えたのだろう。
そして、これも採点の難しさであるが、小林愛実さんと同じく第4位のヤコブ・コシュリクは22.0点で小林愛実さんよりは平均点は低く、満点をつけた人もいないが、Index Y(つまりYESの割合)でみると0.93でYESの数は小林愛実さんを上回っている。最終結果の順位だけみて、より高い順位のピアニストが良い演奏をするというのは大変ナンセンスである。
第2位のアレクサンダー・ガジェブは、やはり評価が分かれており、満点の25点が4名、24点も2名つけているが、フィリップ・ジュジアーノは19点、アルトゥール・モレイラ・リマは18点とやや辛口。二次で16点と低評価をつけていたケヴィン・ケナーだが、三次の演奏には20点と穏当な点数を与えている。
二次でINDEX Yが1.0(満場一致)だったジェイ・ジェイ・ジュン・リー・ブイは三次予選では失速しており、Index Yだと0.67で、3分の1が彼にNOを出しているから、曲目とその時の演奏によって評価は変わるのである。実際、人気ピアニストでも、この曲は名演だが、この曲の演奏はちょっと・・・という場合もある。しかし、ブルース・リウは、INDEX Y 1.00で、平均点23.22で評価が高いから、彼の優勝は必然だったようだ。
【総評】
コンクールでは上位入賞なのに、その後、人気を得られないピアニストがいる。そこそこ良い演奏であり、低評価もつけられないが、高評価も得にくく熱狂的なファンも持ちにくい優等生型ピアニストは、コンクールの評価点においては上位になるのだろうが、しかし、コンサートでは特に熱狂的なファンもいないので飽きられてしまうからだろう。一方で、個性が強く評価が分かれるピアニストは、一部に嫌われても、一部の熱狂的なファンに支えられてコンサートピアニストとして活躍し続けることがある。私は一見すると保守的と言われるが、リベラルにも理解があり、極端にも理解を示しつつ、結局は中道を好む人間である。正統派ピアニストも好きだが、一方で個性的なユジャ・ワン、ファジル・サイも好きだったりする。彼らはクラシックの正統派からは邪道だろうが、私は好きなのでとやかく言われる筋合いはない。
個性的で、一部に最高評価を受けても、一部に最低評価をつけられて、平均すると平凡な評価のピアニストと、全員から平凡な評価の平凡なピアニストの場合、圧倒的に前者のほうがコンサートピアニストとしては生き残りやすい。平凡な演奏なんて飽きてしまうからだ。コンクールでは上位入賞者に目が行きがちだが、あくまでコンクールの結果は審査員の評価に過ぎない。予選で落選した人でもお気に入りピアニストがいれば、その人のファンになればいい。コンクールは審査員の総合評価で順位が出るが、その順位に個人の価値観を従属させる必要はない。「個人ファースト」でいいのだ。音楽を聴衆する場合、聴衆の個人それぞれが主役なのだ。