予告編的に勝手にホラー映画と思い込んで観に行ったら、朝鮮王朝時代の記録物「仁祖実録」に記録された史実にインスパイアされたサスペンスだった^_^;。シリアスな感じかと思ったら、冒頭はコミカルなシーンも多くかなり観やすかった。

それにしても本作は歴史的な背景を知っておいた方がより面白いだろう。

もともと朝鮮は「明王朝」に朝貢していたが、「清王朝」(当時は「後金」といったが)が勢力を拡大し、清王朝は兄・朝鮮は弟という兄弟国の関係であるとする和議を結ばされる。しかし、朝鮮は清王朝を”蛮夷”と考えており、その後、清王朝による臣従要求を拒絶。激怒した清王朝が朝鮮侵攻を行い、圧倒的な軍事力で朝鮮を制圧し、服従を強いたのだ(丙子の乱)。この様子は映画「天命の城」に描かれているのでぜひ観てほしい。

 

映画中で何度か出てくる「南漢山城」というのは、この丙子の乱の際に、朝鮮王が立てこもった山城のことである。この丙子の乱では、映画にも出てくる朝鮮王の仁祖が、清王朝の皇太極(皇太子)のホンタイジに、平服で「三跪九叩頭の礼」による臣下の礼を行い、許しを懇願し、不平等な和議を飲まされている。映画で言及される「屈辱」とはこの歴史である。この戦乱の和議の結果、朝鮮王は長男を人質として清王朝に渡していたのだ。映画で、世子(王の跡継ぎ)が戻ってくるというのは人質として清王朝に送っていた息子が帰還するということだ。

映画の朝鮮王が清王朝を嫌っているのはこのような背景がある。よく聞いていると、家来が朝鮮王を「陛下」ではなく「殿下」と呼んでいたと思うが、清王朝の皇帝が「陛下」であり、その下なので「殿下」ということである。朝鮮王が”粗末な服”などと憤っているのも、国王といえど格下の服しか着用を許さない、清王朝の圧政を示唆している。

 

さて、映画でのこの謀殺というのも、清王朝に染まった世子と、清王朝を嫌う国王という対立軸から生じている。そして、国王も猜疑心が強いが、この国王がクーデターにより官僚の一派により擁立されたためである。

本作はこうした清という強大な王朝に翻弄され、隷従を強いられる小国朝鮮を舞台に、その内部の権力抗争などを交えつつ、フィクションを加え、見事なサスペンス映画に仕上がっている。二転三転する展開に始終釘付け。お薦めの一本。

 

★ 4.2 / 5.0

ロンドン・ロスチャイルド家の末裔で、銀行家や慈善事業家として著名だったジェイコブ・ロスチャイルド氏が死去したことが26日、分かった。87歳だった。英国を代表する美術館の1つであるナショナル・ギャラリーの理事長などを務めた。- 日経新聞

 

英国ロスチャイルド家のジェイコブ・ロスチャイルド卿がなくなったそうだ。ご冥福をお祈り申し上げる。ロスチャイルド家は、フランクフルト発の世界的な大富豪一族であるが、初代が息子5人をフランクフルト・パリ・ロンドン・ナポリ・ウィーンに配置して欧州を跨ぐ金融ネットワークを構築し、巨万の富を築いた。ナポリ・ウィーン・フランクフルトのロスチャイルド家は途絶えており、現在はロンドンとパリにロスチャイルド家が残っている。

 

ロンドンのロスチャイルド家は男爵位を有する貴族であり、ジェイコブ・ロスチャイルド卿も貴族院議員を務めている。日経新聞は、ジェイコブ・ロスチャイルド卿を、ジェイコブ・ロスチャイルド”氏”と書いているが、あまりに不遜で遺憾である。爵位を有する英国貴族である以上は、「卿」(又は「閣下」)と敬称をつけるべきである。なお、ジェイコブ・ロスチャイルド卿は、連合王国准男爵位(5th Baronet "Rothschild of Grosvenor Place")、第6代ロートシルト男爵(オーストリア貴族爵位)も有している。

 

なお、1811年にロスチャイルド家のマイアー・アムシェル・ロートシルトおよび息子のネイサン・メイアー・ロスチャイルドにより設立された「N・M・ロスチャイルド&サンズ」という会社は、英国ロスチャイルド家の分家のサー・エヴェリン・ロバート・ド・ロスチャイルド(騎士爵を叙されているので敬称は”Sir”)が経営権を握っていたが、現在は同族経営ではなくなっている。

 

ジェイコブ・ロスチャイルド卿の逝去により、ロスチャイルド男爵位は、ナサナエル・ロスチャイルド卿が相続している。彼はイートン校で学び、父と同じくオックスフォード大を卒業している。金融業界で勤務し、ロスチャイルド系の企業の大株主でもあるようだ。総資産は数千億を下らないだろう。

 

日本では上流階級が戦後に解体されたので意識されないが、欧州では上流階級はそれなりに温存されている。そんなことを感じるニュースだったが、日本の日本の新聞記事の見識の無さ、内容の無さには驚かされる。日本も階級社会だったが戦後にGHQの政策の影響もあり、華族解体もあり、総中流社会化したが、その総中流の夢想も瓦解し、再び階級社会化が進行している。金融資産・学歴(教養)・社会関係資本で厳然たる格差が進行しているのが現実だ。マスコミも新たな階級社会の訪れを報道すべきだ。まして、海外の階級社会を感じさせるニュースで、貴族をあたかも一般人のように「ジェイコブ・ロスチャイルド」などと報道するのはやめるべきだ。

 

 

好き嫌いがかなり分かれる怪作。鬼才ヨルゴス・ランティモスの最新作にしてヴェネツィア映画祭金獅子賞受賞作品。

ヨルゴス・ランティモス監督はギリシャ人であるが、母親に育てられたこともあり、強い女性像を持っているように思われ、それゆえ家族をテーマにすることが多いように思われる。そして閉じ込められた欲望・感情が徐々に発露したりする様を描いたり、理路整然としたものがグニャリと歪んでみえることを視覚的に表現するために魚眼レンズを用いたり、人間とは何かを追求するために動物を対比として出したりすることなどに作品の特徴がある。

とにかくエマ・ストーンの吹っ切れた演技は必見であるが、絵本から飛び出したような舞台・衣装も素晴らしい。主人公の女性の自立が、幻想的描写と交わりながら描かれていく傑作。本作はR18指定されているが、人体解剖やら性描写などが露骨でややグロテスクで、かなり好き嫌いは分かれるだろう。

それにしても本作は女性版「フランケンシュタイン」である。もともと小説「フランケンシュタイン」は、英国の女流作家メアリー・シェリーによって書かれた作品である(ちなみに、フランケンシュタインは怪物を創り出した博士の名前であって、怪物には名前がない)。主人公ベラを創り出した外科医は”ゴッドウィン”・バクスターであるが、メアリー・シェリーのお父さんの姓がまさに”ゴッドウィン”なのである。そして、本作は女性の自立を描いているが、メアリー・シェリーのお母さんは、先駆的なフェミニストだったメアリ・ウルストンクラフトだった。さらにいうと、メアリ・ウルストンクラフトは、未遂に終わるが、テムズ川に投身自殺を図っている(まさに本作の主人公と同様に)。フランケンシュタインの女性版を主人公に、著者シェリーの両親の人生や思想にインスパイアされつつ、モダンなタッチで創作された作品と考えて間違いない。なお、「フランケンシュタイン」に出てくる怪物は男で、創造者すら愛されないが、ベラは女性でみなに愛される存在であり、主人公の設定は対比的な構図となっている。

さて、幼稚な脳を持つベラが徐々に成長していくが、奇想天外にもみえるストーリーであるが、主人公ベラが身体的自由、経済的自由、精神的自由を獲得していく様としてみると、法則性がみえてくるだろう。

それにしてもラストは痛快だが、凄まじく悪趣味でもある。この点、ベラは、悪敵すらも殺さずに発展させるという発言をしている。これは科学の発展が必ずしも倫理的に正しいものとなるわけではないことを示唆しつつ、ただ、ロクデナシの”ザマーミロ”と言いたくなる末路に、ついついほくそ笑んでしまうという上級ブラックユーモアなのだろう。

本作は本当に様々な視点から多様な考察ができそうだが、何も考えずに絵本のような世界観に浸って鑑賞するのもいいだろう。ただそれにしてはやや性描写が露骨で個人的にはあまり人にオススメは難しい類の作品(;^ω^) ただとても興味深いので、耐性がある方は楽しめるだろう。

 

★ 4.5 / 5.0

 

 

METライブビューイングで、ヴェルディの「ナブッコ」を観てきた若きヴェルディが失意の中で、三作目のオペラとして完成させて一世を風靡した名作である。

紀元前6世紀頃、バビロニア王のナブッコ(ネブカドネザル)に連れ去られたヘブライ人たちの運命を描いた傑作オペラである。モチーフは旧約聖書のエレミヤ書とダニエル書にある「バビロンの捕囚」である。劇中に登場する「行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って」はイタリアの第二の国歌と言われるほどに親しまれている名曲である。

 

 

指揮はダニエレ・カッレガーリ。ソプラノのL・モナスティルスカと、パワフルなヴェルディ・バリトンG・ギャグニッザは名演。

途中休憩などを挟むので3時間ほどの上映時間になっているが、オペラ自体は2時間ちょっどの作品で、ストーリーも分かりやすいが。若干時代背景の知識がないと理解が進まないかもしれないが、ストーリーの理解を阻むほどではないと思う。ナブッコの回心はキリスト教国のオペラだからご愛敬だろう。荘厳なオペラが気軽に劇場で堪能できるのでおすすめである。

 

★ 4.5 / 5.0

さて、この前、週末に京都旅行へ行ってきた。

 

東本願寺。真宗大谷派の本山寺院である。いやぁ、何度来ても本当に壮麗。

 

こちらは東本願寺の飛地境内地の庭園である渉成園。回遊庭園や複数の茶室などがある広い瀟洒な日本庭園である。国の名勝。

 

さて、お次は旧三井家下鴨別邸。三井家は豪商と知られた名家である。その三井家11家の共有の別邸として建築された。三井家は、北家当主が1896年、南家当主が1910年、室町家当主が1915年に男爵を叙爵し華族に列した。日本三大財閥となり日本経済を支えたが、戦後に財閥解体されている。本邸宅は大正期までに整えられた近代和風建築として重要文化財に指定されている。

 

慈照寺。銀閣寺である。有名なこちらの建物は観音殿である。国宝。

 

慈照寺。池の向こうに見えるのは東求堂で、国宝である。わびさびを感じる。金閣寺よりも和を感じる。

 

京都国立博物館。ジョサイア・コンドルの弟子の片山東熊の設計である。フレンチルネサンス様式とバロック様式が取り入れられたレンガ造りの建築である。ペディメントには、美術・工芸を司るである「毘首羯磨(びしゅかつま)」と「技芸天」を配するなど日本的なモチーフも取り入れられている。辰野金吾の重厚で堅牢な表情のデザインとは違い、片山東熊はフランス建築の影響を受けて、優美なタッチとなっている。

 

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お宿は定宿の「エクシブ京都 八瀬離宮」。