![]() | 東京の地霊(ゲニウス・ロキ) (ちくま学芸文庫) 1,188円 Amazon |
以前、鈴木博之の本を読んで、感銘を受けたため、鈴木氏の別の本を読んでみた。地霊はゲニウス・ロキの訳であり、各場所に存在する歴史と、蓄積された文化のことをいい、土地柄やその土地らしさという意味合いともいえる。本書は、東京の13か所を取り上げ、その土地に眠るゲニウス・ロキを考察している。1990年の本なので(私が生まれた年)、内容はやや古い箇所もあるが、東京という都市の発展を感じられる - 上記のAmazonの本は文庫版であるが、私が読んだのは初版。
私は上野が好きである。美術館・博物館・音楽ホールがあり、緑も多く、散歩していて非常に気持ちが良い。上野には寛永寺があるが、これは江戸城からみて上野が鬼門に当たるので、鎮護のために置かれたという。上野は台地であるが、これを比叡山、不忍池を琵琶湖に擬することで、江戸に欠けていたを京都の格式を補おうとしていたという。不忍池の弁財天は、琵琶湖の竹生島の島の模倣なのだという。上野に芸術施設が多いというのは、明治政府の上野という鎮護の土地への敬意のあらわれなのだという。
また、柄ではないが、六本木周辺もハイソな感じがして好きである。もともとは林野庁の土地であり、これが民間に払い下げられ、森ビルがこれを購入したのである。さらに遡れば宮家、時代に翻弄された皇女和宮様(その後の、静寛院宮)も住んでいたという由緒ある土地である。GHQが皇室財産を国有化した際にこの土地も国有化されたのである。かつて静寛院宮も通ったであろう、東京と江戸を時代を超えてつないでくれるような趣のある小暗い小路は1980年代にはすべて消滅したという。
また、私は建築が好きであるが、特に歴史ある名建築が密集しているのは東京だと東京大学本郷キャンパスであると思われる。本郷キャンパスの建築は、「内田ゴシック」とも呼ばれる様式に統一されている。完成当初から、こういう建築なのだと勝手に思っていたのだが、違うという。最初は建てられる時期によって様式が異なり、擬洋風・ヴィクトリアンゴシック・古典・改良型ゴシック(ロマネスクを加味したようなゴシック)が混在していたという。しかし、それが関東大震災にて大破したため、東大等学部教授の内田祥三であった。彼は自身の出自の東大工学系の建物の建築様式である改良型ゴシックで、東大の建築を復興したのである。そのため、内田ゴシック建築で統一されているのだという。それにしても、なぜ大学にはゴシック様式が多いのだろう。明治学院のチャペル、慶應義塾の旧図書館、早稲田の大隈講堂はゴシック様式である。それは、大学が中世の修道院にその起源があり、その修道院・教会で発達したのがゴシック様式なのだ。
銀座にいくと服部時計店は角地に時計塔を持っている。新宿伊勢丹や日本橋三越も角地である。これは商業的に角地の方が適しているためだ。一方で役所はゆったりとした都市に建築できるので、左右対称で威厳のある建築が多い。帝冠様式が良い例だろう。早稲田大のシンボルである大隈講堂が、あえて左右非対称で時計塔を設けたというのは、お上の建築様式は用いないという反骨の校風の現れともとれるのではないかという。
何の変哲もない土地にもたしかに歴史・文化が潜んでいるのである。日本も成熟社会になり、スクラップ・アンド・ビルトの土地開発には終止符を打っても良いのではないだろうかと思う。現代は過去の集積である。合理的・経済効率的ばかりでは面白みがない。過去をふと垣間見れる趣のある小暗い小路が少しも残っていない情緒の無い都市など息苦しいだけである。

