UNHCR主催の難民映画祭が日本各地で開催されているーほぼ毎年私は観に行っている。難民に関する、ドキュメンタリーや映画が無料で観られる ー 寄付制。難民というと日本にはいないんで理解がほとんどされていない。難民とは「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた」人々のことをいうー難民の地位に関する条約の定義。よくより良い生活を求めて個人的事情で不法移住する人を難民と誤認している人がいるが、勘違いである。

 

本作は、第68回カンヌ映画祭でパルムドールを受賞している。スリランカからのタミル人の難民が、家族を装ってフランスに移住したが、新たな暴力にさらされてしまうという話である。フランスのテロのさいに、そうしたことを予見していたと話題になったそうだ。スリランカの内戦は2009年に終結しているが、人々の心には癒えない傷を残している。暴力の連鎖は悲劇を生み続けてしまう。しかし、映画のラストで対立が融解し、いままでの重々しい風景が一変し、暖かい陽の光に包まれる光景はなんとも美しい。

 

難民映画祭は東京は16日まで開催されており、この後、大阪でも開催される。ぜひ難民問題を考える一歩として一作品でも見て欲しいものである。

 

NHK元記者で現在はフリージャーナリストで、東工大専任教授でもある池上彰氏と、ノンキャリの元外務省職員だが鈴木宗男事件で有罪判決を受けた佐藤優氏との対談本である。佐藤優は食わず嫌いで彼の本は読んだことがないが、彼は鈴木宗男事件を機に文壇に登場し、その膨大な知識や、同志社大神学部及び同大学院出身という特異な経歴とともに注目を集める人物である。本書が指摘するように、ポスト冷戦も終わり、90年代のグローバル化も終わり、現代は「新しい時代」を生きているのである。

 

中東・欧州などの世界情勢を非常に平易に読み解いている。非常に幅広く話が進むのだが、興味深かったのはトルコの動向である。トルコのエルドアン大統領は壮大な官邸を建て、イスラム化にとって邪魔な軍幹部を更迭し、あたかもかつてのオスマン帝国の復活を目論んでいるのではないかという指摘。かつてのペルシャ帝国だったイランと、イスラムの覇権をめぐって対立が始まっているという。また、アメリカはかつての勢力を失い、AIIBでは英国にまで裏切られもはや世界に軽んじられているという。オバマ大統領は「弱いアメリカ」の象徴と化し、「強いアメリカ」を唱道する現在のトランプ人気が生じているという。トランプの対抗馬はヒラリーであるが、夫も元大統領だった。米国は民主主義国であるが、ケネディ家にはじまり、ブッシュ家・クリントン家などにみられるようにもはや”王朝化”しているという。また、欧州を巡る動きでは、やはり「ドイツ帝国」に触れている。欧州は強大なドイツをどのように封じ込めるかの歴史だったという見方はもはや国際政治の常識化している。佐藤氏が、ドイツが手を組むとすればロシアだという指摘は鋭い。ロシアは人口1億4000万いるが、輸出できるものはエネルギー資源ぐらいで、外需を求めているドイツと相性が良いという。ロシアといえば、最近の活発な活動が気になるが、これはNATOが拡大し過ぎによるロシアと欧州との緩衝地帯を侵害していることへの反発であり、ソ連崩壊後に米国などに譲歩してきたのにそれに相応しい待遇を受けていないことへの抵抗であり、ロシアは別に帝国主義を目指しているわけではないという。ここらへんの欧州に関する指摘は、本書でも引用されているE.トッドの見解とほぼ同じである。

 

二人の対話を読めば、知識の広さに驚かされる。正直、私は中東情勢はさっぱりなので勉強になった。ただ佐藤氏がところどころで新自由主義が悪いというのだが、理由がさっぱり分からない-佐藤氏の知識は細かくみるとラフなことが多いらしいので、ご愛嬌というところだろうか。とりあえず、教養として佐藤優氏の「国家の罠」「自壊する帝国」ぐらいは読んでみようかと思った。

 

 

エマニュエル・トッドの新刊「問題は英国ではない、EUなのだ」を読了。ソ連の崩壊を予見し注目を集め、さらにはリーマンショック、アラブの春、ユーロ危機を予測し、さらには今回の英国離脱も言い当てていたフランスのユダヤ系の人口学者・歴史学者である。かの有名な哲学者・作家だったポール・ニザンの孫である。

 

彼の特徴的なアプローチは、家族構造から政治的なイデオロギーや国の文化を読み解くところである。日本はドイツと国民性が似ていると言われる。日本もドイツも「直系家族」という家族システムゆえに、メンタリティが似ているのである。直系家族の特徴は、親は子に対し権威的であり、兄弟は不平等なところである。親は子供を厳しく育て(権威性)、長男が跡取りであり他の兄弟よりも優遇される(不平等性)。そうした家族システムで育つと、生まれながらに見えざる序列があるのだと、権威には従うものだという、権威主義と不平等を内面化しながら育ち、それが政治イデオロギーに反映されるのだという。ドイツと日本が人種に序列を見出して人種優越を唱えて世界大戦で連携したのは決して偶然ではないのである。中国、ロシア、キューバ、ベトナム等の共産主義圏に多いのが「外婚制共同体家族」である。親は子に対して権威的だが、兄弟間は平等である。これは、共産党の権威主義に対して、人民は平等であるという点で、共産国家体制と親和的だという。米国・英国・豪州などは絶対核家族」であり、子供は成人とともに親元から去るので、親からの束縛が弱く、個人主義・自由主義の傾向がある。家族類型を3つ紹介したが、全部で8つあり、家族システムからその国の文化などが規定されているという。経済という下部構造が上部構造である文化や道徳などを規定するというマルクスの思想を、下部構造を家族システムに置き代えたあたり、元共産党員らしい。

 

本書は前述のような家族システムからの説明は主ではなく、英国のEU離脱に関する国際政治のトピックについて、トッドのインタビューを文字化している。それにしても、英国のEU離脱は、ネイションに回帰しているのだという点は興味深い指摘である。EU離脱をきっかけに英国の分裂が起こるという人もいるが、そもそもスコットランドは英国の緊縮財政を嫌ったのであり、わざわざさらに過酷な緊縮財政を強要しそうなドイツの支配するEUに服従するわけがなく、現実的に考えても、分立独立勢力を抱えるスペイン等拒否権を発動させるだろうから、スコットランドが独立してEUに入ることなど考えられないという。

 

EUがドイツに支配されていると書いたが、英国離脱で、EUで随一の人口を有し、EUGDP25%を占めるドイツはEUの支配者であるという フランスも大国だが、GDPではドイツの7割ほどしかない。おまけに英国離脱で、米国はEU外交の窓口を失い、米国の関与の弱まりで、ドイツはさらにEUにおける存在感を増す。米国が及び腰で、英国・ロシアが傍観し、フランスはドイツに自主的に隷従している現在はまるで1941年だという。本書を読んで、ドイツの強さを再度認識させられた。しかし、ドイツは移民を受け入れて少子化による労働人口減少を回避しようとしているが、ドイツの移民政策は失敗するという。ドイツは従兄弟婚が禁止の外婚制だが、ドイツに多いトルコ人は従兄弟婚を認める内婚制である。内婚制は近親者との閉じた社会を形成しやすく、外婚制とは文化摩擦が生じやすく、社会統合を佐たまげるからだという。トルコ移民で失敗したのに、内婚制比率がさらに高いシリア難民の受け入れなど、社会混乱を生むだけだという。

 

また、本書で興味深かったのが、ロシアは米国の脅威ではないという指摘である。1億4000万人の人口で、日本とあまり大差なく、覇権を目指す余力はなく、最近のロシアの活発な動きは、中堅の大国として再台頭しているだけであり、ロシア脅威論はナンセンスで、ロシアこそ安定の極だという。中国脅威論もナンセンスで、人口学的にみれば、異常な人口ピラミッド、男女の人口比のいびつさ(一人っ子政策時代、女の子だと間引く家庭が多く、人口が男の方が多い)など、社会の混乱を生む要因が多く、教育水準も全体的には低く、悲観的なシナリオしか描けないという。

 

最近、エマニュエル・トッドの本が文春新書から次々出ている。本書はかなり読みやすい。トッドの考え方(観念論ではなく経験主義を好む)とか、いろいろトッドの本音が読めて面白い本だった。トッド導入本としては良いが、家族システムの説明がないので、初めて読む人はそこの説明の箇所はピンとこないかもしれない。

 

P.S.

そういえば2011年の学部生の頃にトッドのシンポジウムに行ったのを思い出した。もう5年が経つと思うと時が経つのははい。ついでに、過去に書いた「文明の接近」に関する記事はこちら

リッツ・カールトンなどを運営する米ホテル大手のマリオット・インターナショナルは23日、傘下にシェラトンなどを持つスターウッド・ホテルズ・アンド・リゾーツ・ワールドワイドの買収手続きを完了し、世界最大のホテルチェーンになったと発表した。
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日経新聞 2016/9/24 7:43

 

マリオットがスターウッドを買収するという話はあったが、手続きも完了したそうだ。マリオットグル―プは売り上げが世界最大規模のホテルチェーンだが、この買収で売上高においてヒルトンをさらに引き離した。部屋数でもマリオットは2位のヒルトン(75万室)、3位のインターコンチネンタル(74万室)を引き離し、110万室以上を有し、世界首位の座を確立した。日本トップの部屋数を誇る東横インが5万室、2位のアパホテルが2.8万室だから桁が2つも違うといえばその巨大さが分かるだろう。ちなみに、2位のヒルトンといえば、おバカで有名なパリス・ヒルトンが思い浮かぶが、彼女は創業一族の令嬢である(ただパリスは自分の遊ぶお金はすべて自分で稼いでいるそう)。

 

◆2014年世界のホテル売上ランキング(企業別)
第1位 マリオット
第2位 ヒルトン
第3位 インターコンチネンタル
第4位 スターウッド(マリオットに買収済み)
第5位 アコーグループ

 

ただこの買収劇によってマリオットが有するホテルブランドは30にもなる。これからブランドの整理が起きるのではないかと思われる。ちなみに、部屋数が多いというのはそれだけ廉価な部屋も多いわけで(日本の1位と2位もビジネスホテルチェーンだ)、米国内だとマリオットといえばビジネスホテルのイメージが強いという --  ヒルトンも同じく。マリオットはスターウッドを買収し、スターウッドの高級ホテルブランドとの相乗効果で、海外展開を強化していく気だろう。

 

日本も東京五輪に向けて外資系ホテルの進出ラッシュで、京都にはマリオットの最高級ブランドのリッツカールトンや、高級ホテルに特化したフォーシーズンズなどが進出している。金沢には初の外資系ホテルのハイアットの新ブランドの「ハイアット・セントリック」が2020年に開業予定 ― ハイアットは世界の売上高が世界9位である(マリオットのスターウッド買収後)。奈良にもマリオットの高級ブランドの1つのJWマリオットが進出予定。外資系の進出で、日本のホテル業界も再編を迫られるだろうか。今後のサービスの向上に期待である。

名画座 早稲田松竹にて映画鑑賞。賈樟柯(ジャジャンクー)監督の作品2本立てだった。ジャジャンクー監督は、中国映画界の「第六世代」の代表格。中国映画史は下記のような時期に分けられる。第5世代は文化大革命後の停滞後に登場したため、社会主義リアリズムを忌避し、自由なアプローチで映画を撮った。代表格は陳凱歌や張芸謀であり、この時代に中国映画は世界のマーケットに出ていき注目を集め始める。第六世代はポスト天安門ゆえにリアリズム的な傾向があり、事件資本主義化の中で生じる社会問題をテーマにしたり、個人主義化する市井の人々を描いたりする。録画機器も手持ちのカメラなどの普及で撮影方法も多様化している。

 

〔中国映画史〕
・無声映画時代:第1世代
・トーキー時代:第2世代
・50~60年代:第3世代
(文化大革命による停滞)
・70~80年:第4世代
・80~90年:第5世代
・90年以降:第6世代

 

例に漏れず本作プラットフォームは、改革開放をいく80年代の中国の地方を舞台に、旅する若い劇団員たちに焦点を当てた作品。彼らの10年間の姿を通して、変化していく中国と、若者たちの感情の機微を美しい映像で紡ぐ。若者を主人公に、彼らの周りに社会や生活の変化を描写は見事である。パーマをかける若者、映画中に流れるテレサ・テンやジンギスカンなどが当時の時代変化を感じさせる。ジャジャンクー監督は油絵を専攻していたこともあり、映像がとても美しい。ただ、ストーリーテリングではないので、淡々と映像が紡がれるのだが、率直な感想としては2時間半は長い。10年間という「時代の変化の気配」を丁寧に描くのであればそれぐらいは必要かもしれないのだが・・・。

 

ついでに「山河ノスタルジア」も鑑賞。渋谷のBunkamuraで以前鑑賞済みだが、好きな作品なので二度目の鑑賞。プラットフォームに比べるとかなりとっつきやすい映画 ― 世界の映画市場に出ていく時、作家主義的な映画だと売れないからだろうか。急激に経済発展する中国の社会経済。その中にあって変わらぬ人々の内面を描く。映画のラスト、雪の中で、主人公が「Go West」をBGMに踊るシーンはあまりにも切なく美しい。

 

P.S

あと、どうでもいいのだが、映画で特徴的に使われる「珍重」 (葉蒨文〔サリー・イップ〕) の歌詞が映画とリンクしていることに今回調べて気が付いた。こちらのブログに歌詞(日本語訳付)が載っていた。「它方天气渐凉(あなたのいる地は寒いでしょう)  前途或有白雪飞(雪が降っているかも知れない)」という歌の箇所があるが、映画のラストの伏線だろうか。「Go West」といい歌の選曲が天才的だ。