「フーディー」を知っているだろうか?「フーディー」とは、美食家・食通の意味の言葉だが、現代的な「フーディー」には世界中を飛び回り食を楽しむ意味合いが含まれる。本書の著者はまさに「フーディー」であり、南極から北朝鮮まで、世界127カ国・地域で食べ歩いた世界でも最高クラスの「フーディー」である。1年は365日しかないが、年間800回以上を外食しているというから、その食道楽ぶりには驚愕である。

 

ただ「美食」とは、必ずしも贅沢なものではなく、「ガストロノミー(Gastronomy)」に近いものだ。ガストロノミーとは、食事と文化の関係を考察することをいう。料理を中心として様々な文化的要素で構成される、食や食文化に関する総合的学問体系をいう。本書はそうしたガストロノミーの視座から食文化について多面的に語っていく。教養書ではあるが、エッセイと思って読んだ方が、すっきり入ってくるだろう。

 

それにしても1食数万円のコースもある食事を年間800回をしているというから庶民からするとその資金力に驚かされる。著者は日本出身だがイェール大卒で証券会社に勤務していたから「一山当てたのかな?」と思ったが、実際はそうではなく、親は公務員で引き継ぐ財産もなく、なけなしの貯金も世界一周で溶かしたので、現在はとにかく収入のすべてを食事に全振りしているのだという。独身で、高級ブランドも興味はないし、車も興味ないそうだ。とはいえ、平均2万円としても年間800回も外食すれば1600万円にもなるので、裕福であることには違いがない。稼いだお金を全て1つの趣味に捧げられるのはすごい。ただ幸福なのは(?)、お酒が苦手らしいことだ。お酒も好きでワインにもはまっていたらそれこそ破産していたかもしれないという。

 

ただ経済的な負担以外にも著者ほどのフーディーは体力的な困難さも伴う。レストランは大都市エリアになければ何時間もレンタカーを走らせるし、昼と夜でコース料理を連日で食べるのは胃にもかなりの負担である。著者は体を酷使しつつ、食への探求が止められないのだ。ネジが飛んでいると書いているが、その通りだと思う笑。

 

ちなみに、私は映画も好きだし、旅行も好きだし、食も好きだし、音楽も好きだし、ピアノ演奏も好きだし、お酒も好きだし、芸術も好きなので、本書の著者のように1つに全振りは無理だし、こんな生活をしたらまず破産だなぁと思いつつ読み進めた( ̄▽ ̄;)。ちなみに、美食をテーマの映画も多いが、本書を読んで、背景事情などが分かったので、本書は美食系の映画好きにもぜひおすすめしたい。つまり、フレンチコメディの「シェフ! 三ツ星レストランの舞台裏へようこそ」、サスペンス映画の「ザ・メニュー」、ドキュメンタリーの「料理人ガストン・アクリオ 美食を超えたおいしい革命 」や「エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン 」などの映画である。

 

それにしても食事は歴史的な背景や、土着の風土などの影響を受けることは自明だが、科学的な視座にたって料理を分析する「分子ガストロノミー」の概念は面白かった。調理を物理的、化学的に解析した科学的学問分野のことだ。たしかにドキュメンタリーの「エル・ブリ」を見たとき、科学の実験のようだったのだが、料理を科学的に分析していたのかと視聴した当時の自分の浅学を感じた。

 

食事は栄養摂取の面もあるが、本書を読めば食とは総合芸術のような多面性があることが分かるだろう。1つのことを極めたフーディーの著した本としておすすめしたい一冊であった。

 

約90分ぐらいで終わるフレンチコメディは大好物なのだが、本作は元フランス大統領のジャック・シラクの妻のベルナデット夫人を主人公にしている。

ベルナデット夫人は日本ではほとんど無名に等しいが、フランスでは人気があり、実は自身も地方議員(県議会議員)を務めていた。貴族令嬢と劇中に出てくるが、実際、公務に従事する歴史ある貴族家系の出身で、ナポレオン三世によって一族は世襲男爵に列せられているそうだ。

ベルナデット夫人と旦那のジャックや娘さんとの家族関係がどこまで真実でどこからが創作なのか判断がつかないが、自由に脚色していることが聖歌隊によって最初にアナウンスされているので、あくまでフィクションとして観るべきだろう。ちなみに、愛犬のマルチーズの名前「スモウ」は事実である(ちなみに、劇中に描かれているわけではないが、スモウはその後ジャックに何度も噛みついて牧場送りになっている)。政治をテーマにしているもののコミカルなタッチで普通に笑えるシーンが随所にある。

ベルナデット夫人を演じるのはカトリーヌ・ドヌーヴだが、実際のベルナデット夫人よりもパワフルでエレガントで、さすがカトリーヌ・ドヌーヴだ。劇中にカール・ラガーフェルドが出てきたが、結構再現度が高い。一方で、サルコジの再現度が低くて笑った。

当時の女性のおかれた立場等に胸を痛めるシーンもあるが、逆境にもめげないベルナデット夫人の力強さにパワーを貰える名フレンチコメディだった。フランスのウィットの効いたユーモアが好きならおすすめしたい。

 

★ 4.2 / 5.0

 

 

最もチケットが取りにくい日本人ピアニストの1人である反田恭平。ショパンコンクールでは日本人としては最高位の第2位に入賞し、注目を集めた。しかし、日本音楽コンクールで優勝してから演奏家としてキャリアを重ねており、もともと売れっ子のピアニストでドキュメンタリー番組「情熱大陸」で2016年に特集されている。最近は指揮者に経営者にと活動の幅を広げている。ようやくそんな反田さんのチケットの抽選に当たったのでサントリーホールへ行ってきた。ちなみに、奥さんは小林愛実さんで同じ回のショパンコンクールで第4位に入賞しているピアニストである。

 

(曲目)

前半

・ショパン:幻想ポロネーズ 変イ長調 Op. 61
・ラヴェル:夜のガスパール

 

後半

・ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」

 

アンコール

・トロイメライ(シューマン)

・幻想即興曲(ショパン)

 

曲目は最初に幻想ポロネーズを配し、次いでラヴェルの難曲組曲「夜のガスパール」、後半はムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」。アンコールでは人気の2曲を演奏してリサイタルは幕を閉じた。

 

演奏は派手さはなく、静寂の中にしっかりとした線で緻密に奏でる。全てが絶妙。曲を客観的に分析し、思索し、そしてその自らの理解をリサイタルの場で、精緻に演奏する。非常に落ちついて、一切の乱れがない。静寂の中で精妙に響く演奏は、目を瞑って演奏を聴くと、京都の龍安寺の石庭を想起させる。気品があるというより、厳粛で凛とした印象を受ける。

 

一曲目の「幻想ポロネーズ」は想像していた演奏と異なったのだが、その奥深い演奏に引き込まれていった。そして、ラヴェルの「夜のガスパール」の一曲目の「オンディーヌ」の美しく儚い響きには感嘆した。そしてムソルグスキーの「展覧会の絵」はロシアの画家ヴィクトル・ハルトマンの死を悲しみ、作曲家が彼を偲ぶ展覧会を訪れた際の散歩(プロムナード)の様子を曲にしているが、様々な情景の絵にインスパイアされた多様な曲想を様々な音色で奏でており、誠に見事である。最後の「キエフの大門」は、荘厳さと気品を備えた圧巻の風格だった。打って変わってアンコールの「トロイメライ」はなんとも儚くも愛らしい。柔らかく繊細な音遣いに溜息が出る。

 

とにかく唸らざるを得ないほどの見事な演奏だった。ただ蛇足だが、個人的に好きかというと、あまり好みの演奏ではなかった。ただ反田さんは実力者であるし、活動を幅を広げて、日本を代表する音楽家として今後も活躍し続けるだろう。

A new piece of music believed to be by the Polish composer Frederic Chopin has been discovered nearly 200 years after it was written.The unknown waltz was unearthed in the vault of the Morgan Library and Museum in New York.

The rare manuscript - dated between 1830 and 1835 - was discovered by curator Robinson McClellan while he was cataloguing new collections.

 

 

なんとアメリカでショパンのワルツの新曲の楽譜が発見されたらしい!もとはTIMESの記事だが登録しないと記事が読めないので面倒ゆえBBCの記事を貼っておいた。なお、TIMESのサイトではランランの新曲の演奏も無料で視聴できる。ペンシルバニア大学ジェフリー・カルバーグ博士に鑑定を依頼し、本物だろうという鑑定結果だったようであるが、これから研究が進むだろう。

 

すでに動画サイトでは新しいワルツの動画もアップしているユーザーもいる。ちなみに、下記の動画にも。リンク先が貼ってあるが、楽譜は次のリンクからみれる。

 

構成も簡素で、技術的にも難所はない。1分~1分半程度で演奏可能で現在見つかっているショパンのワルツでは最も短いワルツであるが、音の色彩感がショパンらしく、ワルツ19番(イ短調 遺作)にも通じるところがある。ただショパン風を装った別人の作曲の可能性も否定できず(作曲家の作風は模倣が可能である)、楽譜の入手経路等含めて、今後の続報が待たれるところだ。

 

 

 

久しぶりに美術館で芸術を堪能してきた。

 

西新宿のSOMPO美術館で開催中の「カナレットとヴェネツィアの輝き」。ヴェドゥータと呼ばれる景観画の巨匠カナレットを紹介する日本で初めての展覧会とのこと。当時、英国の上流階級の裕福な子弟は国外へ行き見聞を深めるグランドツアーが一般的だった。そこの訪問先で人気だったのが魅惑の都市ヴェネチアだった。現在では人気観光地ぐらいの印象かもしれないが、ヴェネチアは中世では屈指の軍事力を有し、莫大な富を有した裕福な都市国家だった。しかし、大航海時代に喜望峰経由の経路の発見等で海運都市としての力を失い徐々に衰退し、1797年にナポレオンに侵略され崩壊。オーストリアの支配下に入るが、重要視されなかったため衰退。1866年に普墺戦争が始まると宣戦布告し、結果的に現在のイタリア王国に編入され、イタリアの一部として現在に至る。

 

さて、本美術展では、名画家カナレットによる緻密かつ壮麗なヴェネツィアの描写を通し、18世紀における景観画のあり様を紹介しつつ、その後継や新しい画風を開拓していった19世紀のモネなどの画家たちの作品も紹介されている。今回の美術展を観て、かつての栄華を描写した絵画の数々に思わずため息がこぼれる。

 

※下記写真は撮影可の作品のみ。

 

 

シンプルな感想であるが、凄い綺麗。グランドツアーの際に思い出に購入する上流階級の子弟が多く、写真のような精緻な描写が好まれたようである。当時は写真がなかったので、写真の代わりということである。

 

 

 

モネの「サルーテ運河」。本当に素晴らしい。淡い色彩と揺蕩う詩情がたまらない。

 

シニャックの「ヴェニス,サルーテ教会」。点描の画風が興味深い。

 

オブスキュラ(カメラ・オブスクラ)。実物を初めてみた。写真の原理による投影像を得る装置で素描のための機材であるが、実は精緻な描写はこうした科学的な機材が補助的に使われていたようである。実はフェルメールも使っていたという説があり、写真のような描写はオブスキュラのおかげだったとも言われる。

 

やはり美術展に来ると良い刺激になる。老後は年1~2度、欧州を周遊する人生を送りたいな。