令和4年司法試験の出願状況の速報値は、下記のとおりです(令和4年2月 9日現在)。
出願者数等 3,367人
※出典:法務省
昨年の受験者数は3754人だったので、前年を100とすると、今年は前年の89.6に過ぎない。つまり、前年から10.4%の減少である。10年前と比較すると70%以上減っている。司法試験の出願者が3367人というのは尋常ではない少なさである。昭和24年が2570人、昭和25年が2806人、昭和26年3668人なので、いよいよ昭和26年の水準を下回ったことになる。昭和36年に出願者は1万人を超え、昭和45年に2万人を超え、平成15年には5万人を突破した。結局、司法制度改革や過払い金バブルで司法業界は活気づいたが一時的なバブルに過ぎず、すぐにバブル崩壊。法曹人気も沈静化し、わざわざコストかけ、リスクを冒してなる職業ではなくなってしまった。
新米弁護士の所得は、1年目で中央値が317万円(平均327万円)、3年目でも中央値426万円(平均476万円)である(「新米弁護士の所得は?」)。法科大学院を修了して、難関司法試験を突破して、弁護士として3年勤めて年収426万円に過ぎない。それに弁護士の年収が見かけ上はよくても、弁護士会費が自腹だと、弁護士会によるがおよそ50~100万円はマイナスになる。多額のコストとリスクを冒してこのリターンは投資からすると驚くほどに割に合わない。もちろん、司法試験を上位合格して裁判官・検察官に任官されるとか、四大法律事務所勤務はまだエリートとといって差し支えないと思うが、それに入れるのは一握りである。一部の稼いでいる弁護士をみて、弁護士が稼げないのは嘘という人もいるが、典型的な生存者バイアスである。
東京都が都庁職員の年収モデルを出しているが、35歳課長代理620万、45歳課長で1017万円である(LINK、この想定はだいぶ理想的だと思うが・・・)。東京都は物価が高いの物価調整分高いが、地方都道府県庁や政令市も幾分目劣りするものの遜色ない水準である(地方は物価も安い)。実際、滋賀県庁のモデル年収をみると、部長1153万円、課長924万円であり、50歳の課長補佐でも738万円である(LINK)。大卒公務員は、22歳で採用され給与を得られ、かつ、解雇リスクもなく、退職金も潤沢であり、年功序列で昇進するし、受験のときは併願可能なのでリスクも低い。
正直、弁護士になる労力を考えると、それを公務員の勉強に注いだ方が投資効率は良いと思う。ちなみに、公務員は民間給与への準拠を基本としている(LINK)。つまり、そこそこの大手企業だと年収は同じようなものだし、当方の勤め先は外資系なのでもっと割りが良い(おまけに在宅勤務だしフレックスで勤務時間も自由度が高い)。よほどの熱意がある場合や超優秀層を除くと、「司法試験にかかるコストってペイするの?」と誰しもが思うだろう。
おまけに犯罪は減少傾向が止まらず、交通事故も減り続けている。自動車は、「特定の条件下で運転を完全に自動化する」水準の「レベル4」」も実現しつつあり、2030年頃にはそこそこ普及するだろう。自動運転を待たずしても安全性能は高まっているので、今後も交通事故は減少傾向が続く。何より人口が交通網の発達した大都市に集中すると必然的に自動車保有率は下がるので交通事故も減る。要は弁護士の食い扶持は減る。離婚訴訟も弁護士の食い扶持だが、非婚化傾向なので、離婚も増えるわけがない。つまり、弁護士の食い扶持は減る。少額訴訟では司法書士が勢力を拡大し、知財分野では弁理士がいる。一方で、弁護士は今後も増え続けて2035年には6万人を超す。単純にマーケット規模でみても、2050年に人口は2割ほど減る予測だからいまから弁護士になっても、広がらないパイの奪い合いである。製造業は国内マーケットが縮小すれば海外の販路を強化すればいいが、弁護士はそうはいかない。ドメスティックな仕事だからだ。
需要と供給・市場規模で考えれば、弁護士に明るい未来があるとは言えない。予備試験合格で弁護士になるならまだしも、法科大学院経由で司法試験を目指すのはコストがかかる割にリターンが期待できず、なかなかリスキーだろう。司法試験合格率は上昇傾向だが過半数は不合格の試験である。2~3年費やして目指して、その後の就職・待遇を考えてコストに見合うのかは、よく検討されるべきだろう。