
元外交官で作家の佐藤優氏による、NSC(国家安全保障会議)と特定秘密保護法に関する解説を4回に分けてご紹介するうちの最終回です。
■『くにまるジャパン』11月1日放送分2〈佐藤優〉
佐藤:私は特定秘密法って必要だと思う。それはどうしてかというと、国際基準でのインテリジェンス協力をする時においてはやはり秘密洩れたらまずい。その結果においてテロとか誘発するものがある。
そうすると特定の公務員に秘密保全の特に重いのを掛ける必要はあると思うんですよね。でも一般の国民に掛かるようにするべきじゃないと思う。
じゃあ何が秘密であって例えば、この人は秘密を漏らす恐れがあるってことを判断する機関はどこなのかっていうと、結局は警察になるわけじゃないですか。
ではその警察をコントロールするのは?検察がコントロールするんですか?検察にその手足ないですよね。という事はこの話はなにかっていうと、急速に警察の力がつくって話なんですよね。
そうすると、警察は旧内務省化していく可能性ありますよね、戦前の。だから外務省や防衛省の人たちは気付いてないわけなんですよ。権限争議になった場合、警察の様子をいつもびくびくしないと外交活動とか、防衛活動できないっていう状況になるんですよ。
そうすると今度防衛省の方から別のこと言いだすかもしれない。今の警務隊(情報保全隊)を憲兵組織にしろと。戦前は軍事機密は特高警察も触れなかったんですよ。国防保安法に関するものは基本的に憲兵だったわけなんですよ。軍法会議ありましたから。
じゃ軍法会議創ろうじゃないかと。そうじゃないと、今度は防衛省、自衛隊が安心して仕事できない。いつも警察の顔色見ていないといけない。軍のことは軍で自律的にやりたいと、こういう話になるかもしれない。ですから色んな事起きるんですよね。
――今、国会審議はどんどん進んでいますよね?
佐藤:いや、このままだったら通っちゃうでしょう。どうしてかというと、率直に言いまして国民の関心が低いテーマですよ。新聞の関心は高いけども、自分たちの取材に関わるから。国民ほとんど関心ないですよ。
――イメージからすると、戦争をやりますよっていうボタンは今まであった。ボタンの上には厳重なカバーが掛かっていた・・・。
佐藤:そのカバーが今ボロボロになりかけている。一見外れているような形に見えるかもしれないですけれど、すごく関係しているのは、宮崎駿さんのアニメ『風立ちぬ』、あれ結構評判いいですよね。この前僕も見に行ったんですけども、見ながら泣いている人も結構いましたよね。
あの『風立ちぬ』の最後の方でですね、主人公の堀越二郎の同期でライバルの本庄さんっていう技師が造っている飛行機の姿が一瞬だけ出てくるんです。これは九六式陸上攻撃機っていう海軍の爆撃機で重慶の無差別爆撃をした飛行機なんですよ。
この重慶の無差別爆撃っていうのがその後、世界初の無差別爆撃だってことで、国際社会から大変な指弾をされて、それが結局東京大空襲、広島・長崎の原爆であるとか、或いは沖縄那覇市の大空襲であるとか、正当化する議論に使われているわけですよね、軍事目的じゃなくて。
あの映画の中で、美しい戦闘機を造るんだ、美しい爆撃機を造るんだって中で、何が抜け落ちちゃっているかというと、これやはり戦争する機材ですからね、爆弾を落とされる側の視点っていうのが、消えちゃってるわけなんですよ。
あの映画の中で最後のとこに爆撃機いらないんですよ。その爆撃機が出てきて、それが美しい飛行機だっていう話に改修されちゃってて、みんなそれに違和感を覚えない。だから爆弾が落ちてくる側の視点がなくなっちゃってるわけなんです。
東京大空襲の経験があるにもかかわらず。こういう土壌の元だと、NSCとか、特定秘密法とか、簡単に通っちゃうんですね。
――戦争のボタンのカバーがボロボロになっている。ボロボロだから新しいカバーを掛けるんじゃなくて、ボロボロになったから捨てちまえってことですか?
佐藤:そういうことです、今起きていることは。それで国民も戦争のリアリティっていうのが非常に希薄になっちゃってるってことなんですね。
少なくとも負け戦のこと考えてない。自分たちがやられること考えてない。攻撃する側でしか考えていない。ここが僕は怖い所だと思うんですよ。
私はやはり外交官で、アフガン戦とか、チェチェン見てますからね。それによって誘発されているテロとか見てますから。やはり攻撃される側になるっていう事のリアリティ感の欠如ですよね。これ怖い。
それはサブカルチャーなんかも関係しているんです。サブカルチャーの所で軍事に対するリアリティが無くなる、攻撃されるリアリティが無くなるっていう事はすごく関係しているんです。
だから戦争が綺麗だとか、兵器が綺麗だっていう発想になってくるっていうのは、実は怖い事なんですね。忘れやすいんです、人間っていうのは。(終)