
蛇行しながら航行する軍艦
之字(のじ)運動とは何か?
俳優で元陸軍少尉だった池部良氏の軍隊体験記、『ハルマヘラ・メモリー』に之字運動の記述がありましたので、これを引用します。
海軍大尉を演じる池部良。
(陸軍将兵を乗せ、南方に向かって航行中の輸送船の中で)
池部少尉「三時間もすれば、私たちの船団は、アメリカ潜水艦が、うじゃうじゃいるらしい海域に入るんだ。之字(のじ)運動で航行しないと」
じゃが芋顔の少尉 「之字運動って、なんだ」
池部少尉「右へ行ったり、左へ行ったり、之(の)の字を書くように航行して、敵の目を眩ますんだ」
じゃが芋 「幹候(大学上がりの幹部候補生)の貴様なんぞに教えてもらう必要はない。黙ってろ
」
と言って、胸倉を押された池部少尉は、背後にいた6,7人の将校の中に倒れ込みました。(°д°;)
要するに之字運動とは、潜水艦の攻撃を避けるため、「之」(の)の字を書くようにわざと進路を曲げ、ジグザグ航行をすることをいいます。(下図参照)
潜水艦には弱点があります。潜水艦が潜航している時に敵の艦艇の近くへ行くと、水中聴音器で発見され爆雷を受けます。
従って駆逐艦が護衛している船団を攻撃する際は、潜水艦は船団の針路を読み取り、発見されないように一旦浮上し、全速力で先回りをして、船団が来ると予測される未来位置に潜航、艦艇が近づいてくるのを待ち伏せし攻撃します。
潜水艦が一度海上に浮上するのは、潜航するよりもスピードが出るためです。
従って之字運動でジグザグ航行を行っていれば、潜水艦も艦艇の針路をつかむことはできません。しかしそれでも1日や2日潜水艦に追尾されると、船団の進行方向がわかってしまうと言われます。
そのため之字運動の進み方は上記で挙げたほかにも数種類あり、いくつかを組み合わせてカモフラージュしながら航行していました。