大本営の報道部員の実態は単なるスポークスマンにすぎなかったのですが、それでも様々な手段で危機にさらされることもありました。
以下、その危ない目にあった体験談をご紹介します。ちょっと下ネタ入っているのもありますが、戦時中にこのような出来事もあったという一例としてご覧ください。(^_^;)
■謎の芝居の切符
ある日報道部員Aの所に、差出人の無い歌舞伎座の一等席の切符が送られてきた。Aの芝居好きは有名だったので、誰かが送ってきてくれたのだろうと気楽に考え観劇に出かけた。
第二幕の幕あいに席を立ち戻ってきたところ、座っていた場所に寿司折り位の包みが置いてあった。誰かが弁当を差し入れてくれたのかと思ったが、それにしては中身が軽い。不審に思い確認してみると、中には札束がぎっしり詰まっていた。
Aはもう芝居どころではなく、慌てて劇場を出てK憲兵分隊へ駆け込んだ。そしてK憲兵分隊長に会って一部始終を話し、包みを預けて自宅に帰った。
■謎の酒代
「Bは酒好きだった。(中略)酒量がある量に達すると、そばに他人がいようがいまいが、ごろっとひっくり返って一眠りするらしかった。(中略)
Bは決して泊らなかった。そんな風だったから、毎月の料亭に支払う金額もたいしたものではなかった。しかし、どちらかというと、ノンキ坊主だった彼は、その数か月間、料亭からの請求書が来ないまま、支払いもしていないことに気がついた。料亭で酒を呑む頻度を少なくした覚えもなかった。次の機会に、Bはおかみにそのわけをただした。
『Bさん、いやですね。今日はもう酔っているのですか』
おかみのいうのには、いつか一緒に飲んだ連中の一人が、『Bさんは寝たから、あとはよろしく』といって、『これは今夜の分、お釣りはこれから先のBさんの飲み代の前払いとして取っておいてくれ』ということで、すでに過分にいただいております、あと二、三回はいただくわけにはゆかないという。
その夜、Bは苦い酒を味わされて、酔いもまわらず、例のゴロ寝もせずにそうそうに帰宅した。」
市ヶ谷の大本営
■謎の女
「Cは、毎日、満員電車にもまれて市ヶ谷まで出勤していた。まだ寒いころだったので、C は釣鐘式の陸軍の将校マントを着ていた。
電車が信濃町をすぎて、四谷のトンネルに入ったとき(そのころトンネル内でも車内は点灯されなかった)Cの左側にならんで立っていた女性の右手が、マントの中にしのびこんでくる気配を感じた。ときにすでに遅く、平時編制のだらっとしていた彼のシンボルは、ズボンの上からしっかりとつかまれていた。
出勤後、部内はその話でもち切りになった。たまたま早番で、報道部員室にいたM新聞社の記者は、だまって記者クラブへとって返した。そして一時間もたたないうちに、その記者は『号外!号外!』と叫びながらガリ版刷り印刷物を配って歩いた。
『四谷に女痴漢あらわる』という見出しで、『本日午前八時半ごろ、満員の電車の中で、報道部員C少佐は突然女性痴漢に襲われ、所持物を握られたが、平時編制であったために無事、もしこれが戦時編制の態勢だったら、多少の損傷は免れなかっただろうと当局は胸をなでおろしている』と・・・。」