言語:日本語、公開:2009(平成21)年、製作国:日本、時間:119分、監督:篠原哲雄、出演者:玉木宏、北川景子、堂珍嘉邦、益岡徹
主人公でイ-77・潜水艦艦長の倉本少佐(玉木宏)
「真夏のオリオン」は完全フィクションです。あらすじは一言でいうと、昭和20年8月の終戦間際に繰り広げられる、日本海軍の潜水艦・イ-77と、米海軍の駆逐艦「パーシヴァル」の決戦です。
脚本がガンダム小説を書いた福井晴敏氏のせいか、話がリアルというよりSFチックになってしまった感があります。つまり描写があまり現実的でない。
物語自体は戦争を知らない人が見たら、良い話だ~、と感動すると思います。確かに話自体はソツなくできているのですが、昭和20年に見えないんです。
私には役者が昭和20年の軍服を着て、現代人がそのまま演じているようにしか見えませんでした。ファンの方には申し訳ありませんが、出演者の外見や振る舞いが華奢、優しすぎで、もうちょっと気骨のある帝国軍人らしく見せてほしかったです。
忙しいため戦闘食でない普通の食事を、立ったままかき込んで食べる艦長(中央)。
昔の世代の人は「立って食べるのは行儀が悪い」とうるさく言いますが、本当にこんな食べ方をしていたのでしょうか。
イ-77の前方には倉本艦長の親友である、イ-81潜水艦の有沢艦長(堂珍嘉邦)が先行していましたが、米駆逐艦の雷撃を受け海底で沈没してしまいます。
生き残ったのは有沢艦長一人だけ。そこで彼はスパナ で壁を叩き、後方のイ-77の倉本艦長に、SOSをモールス信号で送ります。
イ-77の倉本艦長(中央)は海中から伝わってくるスパナ音に気付きました。それが親友の有沢からだと知ると、我慢できなくなった倉本は部下の制止も聞かずに壁をモールス信号で叩き、助言を返しました。
こんなことをしていたら、米軍の駆逐艦に音が聞こえてしまいます。 実際に米駆逐艦が音をキャッチして近づいてきます。
倉本は部下の信望厚い艦長として描かれています。しかし生き残り一人を救うために、イ-77の部下100人の命を危険にさらしており、なぜこれで乗組員たちに信頼されるのか疑問に思ってしまいます。
この場面を見て英国将兵を救助した、駆逐艦「雷」(いかづち)の工藤艦長を思い出しましますが、あの場合も遭難者が二百数十人いて周りに敵艦がいなかったのですから、状況が違うと思います。
実際の戦闘状況の中で、イ-81の有沢艦長のように、危険地帯に一人取り残された状況に陥ってしまった場合は、一人を見捨てて多勢を生かすしかありませんし、そのような実例が多いです。非情ですが、戦争とはそういうものだと思います。
この映画は感動させるため変に情けをかけて、話の展開を実際にあった状況とは程遠いものにしてしまっています。あまりにも現代的にアレンジし過ぎるのも、話が嘘っぽく見えてしまい考えものなのでは?
米軍の駆逐艦艦長の言葉。
「日本海軍は世界で最も誇り高く、戦うに値する敵のはずだった。」
これも違和感が・・・艦長が戦闘中に部下の士気をそぐような、敵をほめたたえる言葉を述べるだろうかと疑問です。アメリカ人は今でもジャップとか言っていますからね。もちろん全員ではないですが。
沖縄でよく米兵が変な犯罪を起こしますが、何でああいうことが起きるかというと、やはり心の底では日本人を馬鹿にしているからでしょう。でもこれも私はアメリカ人全員でなく、何割かだと思っていますが。
それは倉本(中央)の親友である有沢(右)の妹、有沢志津子(左・北川景子)が、出港間際に「必ず戻ってきてください」という願いを込めて、大事にしていた楽譜を倉本に手渡しました。その曲が「真夏のオリオン」という題名でした。
このお二方、白の二種軍衣がなぜか不思議なほど合いません。サイズがフィットしてないのか、何か撮影の仕方に悪意があったのではと思えるほど似合わないのですが、なぜ・・・?
「真夏のオリオン」の楽譜。
イ-77の乗組員は絶体絶命の状況下にあった時、戦争終結の報がもたらされ、日米両軍は戦闘から解放されました。で、めでたしとなります。
「俺たちは死ぬために戦ってるんじゃない。生きるために戦ってるんだ。人間は兵器じゃない。たった一つの命だ。もったいない」
これは倉本艦長が部下である回天の特攻隊員に語った言葉です。現代人から見ると感動の言葉ですが、この時代は昭和です。戦闘中にこんなことが果たして言えるのか・・・?
私はどうしても史実と比較してしまいますので、この映画には違和感を持ってしまいました。現代的なヒューマニズムを前面に出すより、「連合艦隊」のように悲壮感を出すことで戦争の悲惨さ、哀しさを表現したほうがよかったのでは?これは個人的見解ですが、ちょっと残念でした。
結論:現代の価値観に浸食され過ぎて、話がSFになってしまった。
■真夏のオリオン 予告編(01:36)
http://www.youtube.com/watch?v=izr0vpE7CDs
キーワード:海軍、潜水艦、米軍・駆逐艦、フィクション、回天、特攻