
佐藤優氏の2012年9月21日のラジオ対談の抜書きです。ここは時事問題ブログではないので続きは来週載せます。
【動画】2012-9.21 佐藤優 くにまるジャパン 尖閣問題
(25分)
【中国漁船を取締まれない理由】
1997(平成9)年11月11日に日中両国で署名された、漁業に関する日本と中国との協定がある。国会で批准もしているので国際的な拘束力を持つ。このため日本は中国漁船を取り締まれなくなった。
漁業は沿岸国の許可をもらって行わなければいけないが、この漁業協定では、尖閣周辺では中国国民への日本国の法令を適用しないという取り決めをしてしまった。厳密には日本から中国への一方的意思表示で、中国と合意しておらずサービスとしてやってあげるということ。
小渕外務大臣から東京の中国大使に手紙が出ていて、中国国民に尖閣諸島周辺の排他的経済水域において法律を適用しないということを、日本政府は一方的に意思表示してしまっている。つまり日本は取り締まりを放棄してしまった。
同時に同じ日に中国大使から小渕氏宛てに「日本国民に対して、中国の法律を適用しない」という一方的意思表示の手紙が来ている。
ここにごまかしがある。相手の手紙に合意してしまったら、日本が中国の管轄を認めることに、中国は日本の管轄を認めることになる。だから互いに一方的な手紙を送り、それで引き分けみたいな感じにしている。
これは例えれば東京都においては中国国民に対して軽犯罪法を適用しないということ。つまり交番の前で立小便を中国人がしても捕まえられない。それと同じことを漁業に関して日本はやっている。
だから実際700隻が日本の排他的水域内で操業しているが、小渕書簡というものがあるため何の取締りも出来ない。では何故そんなことをするのかと言うと、係争地だからなのは明らかである。
係争地はないというのが公な立場だが、日本は実質的には法的な管轄と言う国家主権の重要な部分を放棄している。これは国際社会の中で明らかに問題がある。だから国際社会において「領土問題は無い」と言っても嘘つきだと言われるだけ。
この一方的な手紙は私(佐藤氏)が調べるまで誰も気付かず、日中両国の外務省が双方の国民を騙すようなことをしていた。一緒に悪事をすることで、国民を騙しておきましょうと言うこと。それで中国は鄧小平(尖閣は棚上げ)で行くんだと、日本は領土問題は存在していないとごまかしていた。
以後の対応としては、小渕文書の撤回を求める。例えば漁船が700隻も一度に来たら海洋生物資源が乱獲されるから前提条件は崩れたと主張する。しかし文書はやはり文書で書いて撤回しないと効力は消せない。

【米国の出方】
抑止力とは意思と能力。能力としては既に尖閣に米軍が行く能力がある。問題は意思で、クリントン国務長官も尖閣は安保条約5条の適用範囲になると述べている。しかし主権の問題に関してはどちらの政府の立場も支援しない。米国は条約文に書いている通りに解釈している。
例えば北方領土や竹島は日本領土だが、日本の実効支配は及んでいない。そういう所は安保の適用になっていない。それと同じで尖閣は日本領だが、日本の実効支配が無くなってしまったら、アメリカは関知しないと言うこと。要するに主権の問題に関して米が中立だということは、トラブルがあっても介入しないという意味。
日米安保条約の中に書かれていることは、日本の政治の影響下にある尖閣諸島に関しては、米国としては考えるところもある。しかし万が一中国が強硬に尖閣に上陸してそこにバリケード等を造った場合、当然日本の実効支配が及ばない。そうなると安保条約が適用されない地域に尖閣はなったということで米国は出てこない。
【国際社会の見方】
そうすると自分の国は自分で守らなければいけない。尖閣で中国軍と海上自衛隊が衝突すれば、海自が圧勝する。ただその後、圧勝してしまい国際社会からどう見えるかが問題。
平和憲法を持って軍隊を持っていない、交戦権も否定している。そういう国が武力によって問題を解決する。加えて日本は防衛だというが、国際社会がどう受け止めるかは別である。

【日本国内の問題】
さらに戦争を想定していないから戦争に関する法律がない。
それから戦時国際法を自衛官は理解していなければならない。(例:病院船はどういう色に塗るか、助けを求める時はどうするか等)
なぜなら日本が勝った後、中国は必ず日本は戦時国際法に違反したという問題を挙げてくるから。
日本国内でも「米軍は出てこなかった、では自主国防体制をとらなければ、状況によっては核武装せねば」という意見が強硬になってくる。そのため国際世論は、日本がまた侵略的な体質を持ってきたんじゃないかと警戒心を抱く。そして日本は国際的に孤立する。
【佐藤氏の結論】
私は外交ではタカ派に属するが、今戦争で物事を解決しようとか言っている人たちは無責任。しかも彼らは高齢者が多い。どう間違えても自分は戦場に行かない人たち。戦場に行くという覚悟を持たない人たちが戦争で解決しろと言うのはよくない。
勇ましいことを煽るのは簡単。そうでなくて現実的な問題を解決する。解決策は漁業協定にカギがある。協定に日中漁業委員会と言うものがあって、何かあったらそこで協議することができる。何故日本政府は今も協議しないのか?
今は巡視船と海洋監視船、その外に海自のP3Cと中国の軍艦が出て来て、どんどんエスカレートしている。このままだったら偶発戦争になる。政府はすぐに中国へ行くという意思を表明して欲しい。意思だけでもよい。
領土問題はあると言ってもよい。領土問題は存在しないという言い方を今後はしてはいけない。これを政治的に決め、いかなる問題についても前提なしに協議する。
尖閣は中国の物だといえば、日本はそれに反論する。しかし討議が続いている間、お互いの結論が出るまでの間は中国は尖閣の領海内に入ってこないし中国人は一切上陸しない、こういう約束を取り付けること。これだったら今の外交でできる。
これは決して弱腰外交ではない。日本の立場では正々堂々と主張する。今までは領土問題は存在しないという立場だったが、話し合いましょうということに変える。これを私は譲歩ではなく、現実的な解決策だと思う。
私(ルビー)は外交交渉でうやむやにしておいて、解決を次世代にゆだねるのが、現時点で一番シルバーバーチの理想に近いのではないかと思います。そうすれば両国の道義心も時代を経るに従い上がってきますので、さらに良い決断を下せます。
またこのやり方は、先進国間での領土問題をとりあえずしのぐ常套手段だそうです。
シルバーバーチを長年研究されている方にもお聞きしましたが、やはり同じ事を述べておられました。