「ちょっと待ってよ。僕が何をしたっていうのさ」
「とぼけても無駄だぜ。俺の弟をよくも豚箱にぶち込んでくれたな」
「豚箱」
首をかしげるガゼルスピアーに、ブルドリラーが「牢屋のことだ」と耳打ちした。
それで合点がいったのと同時に、ますますアクアヒルの因縁が分からなくなった。なにや、ウルブレード即位から十数体ほど牢屋に監禁しているのだ。まして、相手はほとんど無個性なモグーン兵。モグーン兵から文句をつけられるのならともかく、戦士にいちゃもんつけられる覚えはない。
「なんか、まだ分かってないみたいだから教えてやろう。お前、俺の弟を窃盗の罪で逮捕しただろ」
「えっと、そんなこともあったっけな。窃盗やらかしたモグーン兵ってけっこういるみたいだし」
戦闘に明け暮れているせいか、モグーン兵は性悪なやつが多く、窃盗程度の犯罪なら頻繁に発生する。残念ながら逮捕まで至らなかったケースもあるので、いちいち盗人のモグーン兵のことなど覚えていないのだ。
「これでもまだ分からないか。ほら、つい最近牢屋に入れたやつだよ」
「つい最近って。まさか、数日前じゃないよね」
「そのまさかだ」
それならば、ガゼルスピアーに身の覚えがあった。謎の凄腕モグーン兵の力によって、泥棒のモグーン兵を捕まえたことがあったのだ。
「あのモグーン兵はやたらと足が速かったけど、もしかして君の弟なの」
「そうさ。本来ならあの弟が転生の儀を受けるはずだったんだ。だが、独房に入れられるやつに戦士の資格はないとして権利は剥奪。そのまま第二候補である俺に権利が回ってきたんだ」
ウルブレードは静かにうなづいた。この判決を下したのは他でもない彼である。
「それによって、俺が転生できたのはまあいいとしよう。でもな、弟のへまで転生できたとか、散々な言われようだ」
モグーン兵の言葉は、カタコトながら判別できるが、確かに儀式の前にそのようなことを言っていたやつがいた気がする。
「あの弟が簡単に捕まるはずがない。ほんの出来心で犯罪を起こしたことについては謝っておくが、それ以上に、俺達兄弟が受けた辱めをこの場で晴らさせてもらうぞ」
あまりに滅茶苦茶な理論だが、獣刃大将軍に恨みを持っていることは確かだ。そんな彼の激昂を知ってか知らずか、べアックスはのっそりと起き上がるのだった。