〈こんなに普通の Normal Like This〉観覧 | 韓国ミュージカルを 訳しまくるブログ

韓国ミュージカルを 訳しまくるブログ

韓国ミュージカル
全ては自分の予習復習のため
(注意: 目標はネタバレ100%)
近頃はメモ付き写真アルバムとしても使用中。

総6回観覧。同じようなキャスボばかりと思うなかれ。全て違う組み合わせなのである!

 


① 9月13日

 

私たちが今見ているのは

もう消えてしまった星の光なの
 
初っ端の、このセリフのあたりから既に、油断すると涙が出そうになる。
 

1番上からパチリ。(開演前は撮影可)

 
今回の3演は、無機質な箱の連なる初演の舞台と、現実味のある再演の演出の中間…よりは初演寄りな気がする。再演は分かりやすいし、綺麗な背景の映像が好きだったので実際に見てみたかった。
 
前方の客席両側の壁にブリキのような星々や月があしらわれている。単なるオブジェかと思ったら照明に照らされて客席にまで宇宙が広がる。極端に前方の席じゃない方が綺麗に見えるかもしれない。(ちなみに6列目までは段差が少なく、7列目からがおススメされている。)
 
再演は2人が暮らす部屋が具体的に存在してたけど、今回は箱に囲まれた空間。映し出される風景もリアルではなく、どこかデフォルメされている。引越しも、カップ を片付ける程度であっさりと。心拍数も病院でよく見る折れ線ではなく、連なる点線の赤い照明で表現される。
 
象徴的な演出が多いので、全てが脳内で再生されている記憶のような感じがあって、場所や時間に縛られず感情の流れに集中できる気もする。
 
初演で、演出家が舞台上の空間を「記憶の部屋」と呼んでいたから、基本に戻ったのだろう。
 
けれども2人の気持ちが微妙に食い違っているのはしっかり示される。魅入られたように遠くの星々に視線を向けるジェイと、一緒に空を見上げる地上の2人をいとおしむウンギ。悲しい
 
 
「普通」って言うのは「日常」ってことで、「日常」ってのは「手の届く所にいる存在」と言えそう。
 
「同じ時間を過ごす触れられる存在」となった「偽物」の前で、「本物」は以前は本物であったとしても、今は実体のない「虚像」になってしまったんだろう。
 
夕暮れの紫がかった淡い空の色のような美しい音楽が、そんな切なさをキリキリと感じさせる。同時に癒しにもなって、気が付くと涙が流れていたりする。
 
初演から続投のヨヌ/フィペアは、感情のすれ違いや痛み、苦しみ、驚き、切なさ、そしてその土台にある愛の深さを惜しみなく表現してくれる。たとえ愚かで間違った選択だったとしても、その行動は十分理解できるし、だからよけいに切なく哀れだ。
 
2人のすれ違いが頂点に達するナンバー「君を愛するのと同じくらい」で、あふれ出す感情が圧巻だった。映像よりももっと!(2)の50:05くらいから。
 
これに続いて、ウンギが出て行ってから棚の上のニースの写真に気づいてジェイが嗚咽するシーンがある。胸の痛む、重要シーンだ。今シーズンは白く光る箱の見えない側から紙1枚の写真をぺらっと取り出すだけなので、観客側の想像力も要求されるなと思った。
 

 

宇宙に出るとか、コピーロボットが存在するとか、そんなびっくりな設定がなくても、事故や病気で大切な人を失うのはいつ誰にでも起きうることだ。喪失の痛みを受け入れること。そう考えると、とても普遍的な物語なのかもしれない。
 
終演後に差し替えられるキャストボード。「タシ」と「チョウム」はジェイとウンギのお互いを愛する心だけが残った存在で、過去も未来も関係なく、ただ毎日の「普通」を生きて愛を深めていくのだろうな。
(何となく、「ずっと幸せに暮らしました」的なイメージでいたのに、誰もメンテナンスに責任を持たなければ2人の時間は思ったより短いだろうというトークを聞いて、ちょっと悲しくなってしまった。おとぎ話のようにはいかない。でも、だからこそ2人は一瞬一瞬を大切にして、その日の普通を生きるのだそう。だから、限られた時間は一層輝くのかもしれない。)

 

 

*Welcome大学路のシアター選定作になっていて、タイトルが〈ごく普通の〉と訳されていた。なるほど~。
 

 

② 9月27日

どこかしらが美しい作品が好きなのかもしれないと悟った。

美しい舞台、音楽、俳優。

美しい愛、痛み、喜び、希望、

そして美しい悲しみ。

 

美しい痛みなんてものは、それが本当の痛みである限りあり得ないと思うけど、美しく表現された痛み、はあり得るようだ。

 

〈ワイルドグレイ〉の時は、疲れる椅子なので暗転になると一斉に腰を伸ばす音が聞こえたけど、〈こんなに普通の〉は一斉に涙を拭いて鼻を啜る現象が現れる。

 

本物ジェイは宇宙行きの前後で、偽物ジェイはニース前後+別れた後で佇まいが変化するから、5役に匹敵する変化がある。それを演じ分けるイェウォンさんの演技力に感服。演技は上手いし、見た目以上に声は綺麗だし。この役をやってくれてありがとう。

 

ウンギとは同い年くらいの雰囲気あるけど、やっぱり彼よりはしっかり者のジェイ。

 

しかし意外に男性客がチラホラ。連れてこられたのかな。

 

 

③ 9月28日


やはり優男に勝るものなしラブ

 

ファン・フィ君はすごくイケメンなんだけど、どこか漏れがあるというか、緊張感のないイケメンな気がする。

 

そんな彼が演じる大きなウンギが可愛いったらありゃしない。

 

繋いでいたジェイの手が離れて空っぽになった自分の手、とか、宇宙から戻ってスタスタ歩いているジェイの足首とかを見て、時々に見せる表情がとても雄弁。

 

空を見上げるジェイに近づいて、手を握る切実な表情を見ると、ウンギってジェイに依存してたのかなと思うほど。

 

別れを告げてウンギが戸口に向かうシーン。ジェイの「行かないで」という言葉にウンギは振り返り、2人は言葉なく表情で対話する。

 

キャストごとはもちろん、日によっても変化しそうなこのシーン。どんな言葉を当てはめるかは観客の自由な気がするので、作家になったつもりで考えてみるのも楽しいかも!

 

 

④ 10月4日

当初の予定ならもう日本にいるはずだったが、終演後のイベント「過没入トーク」が気になって帰国を延期してしまった。(フィ君回は6日なので、さすがにムリすぎ。)

 

トークが始まったら全員立って右手を挙げさせられて、これはここだけの話と約束させられた。肯定的な内容で、これは是非観ないと、となる書き方の場合はこの限りでない…という但し書き付き。爆  笑

 

俳優としてではなく、個人としてぶっちゃけを語る企画。俳優の立場を離れて…と言ってもジェイとウンギはそんなにすぐに抜けないらしい。

 

「本物のウンギと1日過ごせたら何をする?どんな言葉をかける?」

この質問を聞くやいなや涙にくれて答えられなくなるヨヌさん。

 

愛する人の死を週に何度も味わう…、俳優さんたちのメンタルってすごい。

 

 

 

⑤ 11月4日

ウンギと本物ジェイは実は初対面だから、「別人のような君」なのは理屈に合うとフィ君がどこかのトークで言っていた。

そして自分は意識不明で、死別するかもしれないのにジェイは宇宙に行ってしまったのだと思っていると。

そうするとやはり、ウンギの心の中で何かが崩れても無理はない。

 

初ジヘ・ジェイ。

これほどウンギを愛しているのに、宇宙ばかりに目を向けるジェイ。いつもそばにいて安心してしまうと、貴重さを忘れるのが人の常か。

 

帰って来て、ウンギに受け入れてもらえず愕然としている。その後も不安さと切実さを押し隠して、無理に笑顔を作っている。


ヨヌさんによると、本物には「所詮コピー」という傲慢さ?があって、想定もしていない状況なのだそう。その後の辛そうな様子に泣ける。

 

他宇宙での実在を確認しなくたって、コピーウンギをそのまま愛せば良かったのに。思えば、ウンギには自分の記憶とDNAで作ったコピーは私と変わらない!と押し切ろうとしたんだから。そうは言っても、本物でないのを1番よく知っているのはジェイだからな…。

 

ところで、1ヶ月ぶりのフィ君の前髪が伸びてた。分け目から覗くオデコが可愛い。顔がジェイより小さいかも…。

あっさり涼しいフィ君の目鼻に比べて、ジェイの目鼻口のパーツが大きいからそう見えるのかな。お人形のようだ。ウインク

 

 

⑥ 11月5日

最後の〈普通の〉。初めて観るかのような気持ちで観よう!

 

あまりにも役に没入してプレッシャーな程と共演者からも評されるジュニョクウンギ。なんで最後の今日が彼の初めてなんだ!リピしたいのに!凄く良いよ!?

 

日程合わなくて今日になってしまったけど、せめて1回でも観られて良かった。

 

考えてみると事故の後の2人は、言ってみれば「チョウム」と「チョウム」。そこへ本物が割り込むのはそもそも無理だったのでは?

 

素直に受け入れないウンギに直面したジェイの混乱が痛々しい。

 

初演からウンギ寄りの見方をして来たけど、ジェイを理解するにつれて本当に哀れで…。間違った選択ではあるんだけど!

 

最後のナレーションが本物からコピーに向けた言葉と思い込んでいたけど、逆もありと聞いて意外だった。その解釈もまた素敵だ。

 

冒頭、心ここにあらずのジェイって、あくまでウンギのイメージで、実際はウンギというホームがあるからこそジェイは安心して活動できた気がする。ウンギにもう少し自信があったなら!

 

たらればの話だけど、ウンギも一応は宇宙行きにおめでとうと言ってるんだし、黙って出ていかせて気持ちの整理をする時間をあげれば、事故にも遭わずちゃんと宇宙に送り出してるんだろうな。

 

日々の言動で後悔するのが人間の常ではある。

 

ジェイの中のウンギが早く過去の思い出になりますように。