ヴィンセントが殺された。
殺された理由は同性愛嫌悪犯罪。
一夜にして息子のヴィンセントを失ったアニタは、深い喪失感と共に彼が明らかにすることを拒否した隠された性アイデンティティと向き合う。
毎日繰り返してみても疑問だらけだ。
その時、家の前をうろつくデイビーに出会う。
デイビーはヴィンセントが死んだ現場にいた唯一の目撃者だ。
アニタはデイビーと一緒に物語を始める。
ヴィンセントの死には
どんな秘密が隠されているのだろうか。
8月6日
9月7日
9月14日
分からない。
共感できなくて分からないのではなく、
共感したいのに
想像がつかなくて分からない。
3ヶ月前
同性愛者が愛を交わす場所として有名な
荒れ果てた駅のトイレで
1人息子が惨殺された
息子を殺された上に
同性愛者を息子に持つ母親として
後ろ指をさされるアニタ
息子が同性愛者だなんて認めたくもない
バスの終点まで行き
知らない公園のゴミ箱に捨てたのは
近所に捨てることができない
息子の部屋に隠されていた雑誌だ
彼女の周囲をうろつく謎の少年は
逃げるように引っ越した先にも姿を現した
犯人の1人だろうか?
家に呼び入れると
死んだ息子の発見者だと言う
通報者は少女だったはずなのに
「発見したのは自分だが
通報したのは婚約者」
「壁に飛び散った大量の血と
雪に覆われていく死体が
脳裏から離れない
些細なきっかけで泣いてしまう
被害者の母親と話をしたら
頭の中の彼が立ち上がり
出て行ってくれるかもしれない
だからあなたと話したい」
そう言うのは17歳の少年デイビーだった
ガンで余命僅かな母親を喜ばせる
それだけのために幼馴染と婚約したデイビー
妻帯者と付き合って妊娠し
1人で息子ヴィンセントを産んだアニタ
次第に語ることに没頭していく2人
多くのことを語り合ううち
奇妙な接点が浮かび上がる
デイビーはアニタが気づくよう
ヒントを与え続ける
ヴィンセントとデイビーは恋人同士だった
「その夜」のことを語り出すデイビー
ヴィンセントが殺されたのは
2人がトイレで逢っていた直後だった
人目につくのを恐れ
少年を先に出て行かせたヴィンセント
その後にやってきた酔っ払いたち
遠くから事件を見ていたデイビー
トイレから聞こえた暴行の音
暴徒たちが慌てて逃げ出していくのに
ヴィンセントだけが出てこなかった
立ちすくんでいたデイビー
ようやくトイレに戻り
ヴィンセントが死んでいるのを見るが
恐れに負けて逃げ出してしまう
翌日になっても発見された気配がなく
婚約者を家に送る口実で通りかかったフリをし
婚約者に通報させたのだった
ついに明かされる息子に関する真実を
凍りついたようにじっと聞くアニタ
その内面では
デイビーの告白が細胞を打ち砕いて
立ち尽くすしか無いようにも見える
無言で荷物を片付け始めるが
やがて長く叫ぶと
その後は一言もなく
黙って少年の身なりを整え
上着を着せて静かに送り出す
息子が襲われるのを傍観していた少年なのに
恨んでいる様子はない
彼の肩を両手で包み込み
ねぎらっているのか
これからしっかり生きろと応援しているのか
彼の背をさすりながら
黙ってドアから送り出す
あるいは微かに頷いて送り出す
そして空虚な表情で
アニタがソファーにかけると
暗転して幕。
分からない
分からない
自分が知らなかった息子に関する真実を
デイビーから聞くのはどんな気持ちなのか
愛する息子が惨殺された様子を聞いた母親が
叫んだだけで
なぜ取り乱さないのか
作者はアニタに
どんな感情を持たせたかったのだろう
アニタも
どんな感情を持つべきなのか
すぐには分からなかったのかもしれない
感情が無いかのように座っていたのは嵐の前の静けさで
これから何ヶ月も
あるいは何年も
様々な感情が
彼女を揺さぶり続けるのかもしれない。
(後日、PlayDBの月曜ライブを見たら、アニタ役の俳優さんが、偏見を乗り越えて癒しを得る物語だと言っていた。確かに最後のシーンで、3人のアニタの中で彼女だけが頷いていたので、癒され度が深いアニタだったのかもしれない。だが正直、観覧後私に残った感情に癒しの要素は探せない。)
そうか。
肝心なのは「許し」なのかもしれない。