(まもなく照明が明るくなると、ジョンはソファーへ横たわっており、バイロンが小説を手に部屋の中に立っている。)
バイロン:歓迎しよう、現実にようこそ。
(ジョン、バイロンを見て驚き、それを見たバイロンはおかしそうに)
まるでヴァンパイアでも見たような表情だ。安心したまえ。私は本物のジョージ・ゴードン・バイロンだから。私の主治医、ジョン・ウィリアム・ポリドリ先生。
ジョン:あなたが、なぜここに…?
バイロン:君を打ち倒そうとやってきたんだが、既に床に無残に倒れていた。3年ぶりか?元気ではなかったようだな。
ジョン:そんなことを言いに来たんですか?
バイロン:一晩眠って目覚めてみたら、君のおかげでますます有名になっていたよ。
号外!時代の風雲児!スキャンダルの主人公!この時代の詩人、バイロン男爵が自身をモデルにした新作恐怖小説を発表した。タイトル…「ヴァンパイア・テイル」
(読み始める。)
「その頃のロンドンは冬だった。貴族たちが集まったパーティー会場は遊興で盛り上がっていた。その時、妙な雰囲気で目立つ男が入ってきた…」
♪♪♪
心臓が止まりそうな
冷ややかで 不気味な灰色の瞳
鉛色に染まった両頬
視線を奪う 魔性の貴族
「彼の名はルースベン。ほどなくして、もう1人の主人公がロンドンに到着した」
♪♪♪
正義にあふれる眼差し
浪漫に満ちた両頬
いつも親切な笑顔
天使のような青年
その名はオーブリー
誰も書いたことのない物語
全世界が注目した物語
ロンドンを 恐怖で染めた物語
鳥肌の立つような物語
バイロン:だがジョン、私は書いた覚えがない。
♪♪♪
(バイロン)
3年前のジュネーブ
湖のほとりの別荘で
冗談のように始まった 怪談の賭け
(ジョン)
参加者は5名
物語は3編
最も恐ろしくて奇怪な物語を
書いた者が勝利する賭け
バイロン:パーシー・シェリーとクレアは賭けに大した興味がなく、メアリー・シェリーは生命創造に傾倒した科学者の話を出してきた。
ジョン:私は窃視症の骸骨娘の話を出し、あなたは不死のヴァンパイアの物語を出した。
バイロン:そうだ。そして忘れていた。捨てたんだ!
♪♪♪
ヴァンパイア・テイル
彼らの物語
不死のルースベン
純粋なオーブリーを
堕落させ破滅に導く
私が書いていない 私の新作
ジョン:一体何が言いたいんですか!
♪♪♪
果たして誰が (物語の主人は誰なのか)
いったい誰が (5人のうちの誰なのか)
私のものを盗んで
書いたのは誰だ
ヴァンパイアのように蘇った
物語の主人は 誰だろうか
ジョン:そうですか。そのために来られたんですね。ええ、確かにこれは私が書きました。でも驚いたのは私も同じです。3年前にいたずら半分に書いた小説がこんなふうに発表されるとは。
バイロン:そうだろう。君が書いたんじゃないか。しかも私の名前で。だが、なぜ書いたんだ?ああ、出版社に渡すときの条件がそれだったのか?しっかり分け前を受け取って。
ジョン:違います!私が書いたものですが、投稿してはいません。私もあなたの名前で出版されたのを見ておかしくなりそうでした。
バイロン:そう言うしかないだろうさ。真実は言えないだろうから。
ジョン:真実です。天に誓って。
バイロン:誓いはむやみにするものじゃない。よく知っているはずだが?…それなら誰が投稿したのかな?
ジョン:分りません。一体誰が…。
バイロン:小説が自分の意思で自ら歩いて行ったのか?(雷鳴)いや、違うな。小説に自我があるなら、自らゴミ箱に歩いていくはずだ。
ジョン:言葉が過ぎます。
バイロン:この私をヴァンパイアごときに描写した本がゴミでないなら何なんだ!
ジョン:ヴァンパイアのルースベンはあなたではありません!単なる登場人物です。
バイロン:彼が登場人物に過ぎないと?すると、もう1人の主人公、オーブリーも同じということか。
ジョン:その通りです。
バイロン:「オーブリーは英雄談のように、美徳と信頼の為なら神の摂理に従って、悪徳を追い払わねばならないと信じていた。」
(バイロン、暖炉の横に積まれている英雄小説を手に取る)
ベオウルフ、キングアーサー。君も英雄伝を好きだったろう?オーブリーと同じように。
ジョン:英雄談を嫌いな作家がいますか?あなたも同じだったでしょう。
(バイロン、ローブに近づく。異国的な蝶の模様が描かれている。)
「オーブリーは衣服の柄と色彩に関心が高く、それらが芸術家にインスピレーションを与えると信じていた。オーブリーは詩人が夢見たことが実際の人生だと信じていた。(再演で追加)」
これでも違うと言うのか?若い紳士のオーブリーさん?
(ジョン、バイロンからローブを奪い取る)
バイロン:違うとは言えないだろう。君に多少なりとも良心と道徳があるなら。
ジョン:あなたからそんな言葉を聞くいわれはないと思いますが。