ミュージカル〈こんなに普通の〉
スクリプトブックより『作家の言葉』
〈こんなに普通の〉は
私たちの周りによくある「愛」に関する話だ。
平行宇宙、複製ロボットと人間などの素材を扱いながらも、実は私たちが普段愛と呼ぶものは何か、実在と虚像、本物と偽物、選択と後悔に対するテーマを描こうと努力した。
毎回する度に、誰の観点でこの話を終わらせるべきか悩んだ。
愛する人が去ったという事実を悟っていくジェイの過程でもあり、本当の愛が何かを悟り選択に至るウンギの話でもある。
この過程で自分が、あるいは相手がロボットかどうかはそれほど重要ではなくなる。
結局は今この悪夢のような現実を一緒に泳いでいる横の人こそ、こんなに普通の瞬間を共有する今こそ、本物といえるのではないだろうか。
ー パク・ヘリム
[ジェイ]
この世に存在する数多くの宇宙の中で
ランダムに選ばれた私の宇宙
こんなに普通の瞬間を共有する
あなたと私が
本当の星、本当の光、本当の私。
[開演前のキャスティングボード]
レビュー動画を視聴後にじっくり見てください。
[公演後のキャスティングボード]
キャストが4人(2人と2体?)に変わっています。
キャラクターの名前に泣ける。
(訳)
このレビューはネタバレと個人的な意見を含みます
今日の作品は大学路yes 24ステージで公演中の「こんなに普通の」です。
前もって言っておきますがこの作品はネタバレを見てしまうと面白さが半減する作品です。この作品はネタバレなしにレビューするのは不可能なので、前回のヘドウィグのように、ネタバレ満載で進めます。ネタバレが構わない方は、この映像で美しく悲しい、反転まである物語を楽しんでください。
まずストーリーですが、何の背景もなく初めて見る方は混乱するかもしれません。だからと言って原作漫画を読んでからと言うのはちょっとお勧めしません。白紙状態でまず一度見て、それからまた2度目をご覧になるのをお勧めします。そうすれば、合間合間のヒントまでチェックできます。
この作品には宇宙飛行士を夢見るジェイと、ロボット技師をしている恋人のウンギが登場します。
最初は仲睦まじくて愛らしい姿を見せますが、諍いを引き起こす事件が起こります。一年間宇宙に行ってくることになったと通告するジェイ。
私はそこまで傷つくようなこと?そう思ったんですよね。んー。でもウンギの気持ちに入り込んでみると、ジェイが宇宙に行くから怒ったのではなくて、相談もなく一方的に通告したのに怒ったんですよね。でもどうだろう。若干、すぐすねる男みたいな気がしました。私は。
ジェイの立場は理解できる。ジェイの言う通り、自分のことじゃないですか。なのにどうして相談する?通告?
とりあえずこのくらいにして。
それからウンギが怒りながら家を出て行きます。この時音がして照明がウンギに当たって暗転します。
このシーンは少し不親切な演出じゃないかと思うんですが。このシーンは何?波の映像もなぜ出てくる?どういうこと?こう考える方がいると思います。
でもずっと見ているとウンギが交通事故にあって回復したというのが分かります。そしてジェイは宇宙に行かないでウンギのそばにいます。
この時ウンギが毎回海に落ちる夢のせいで目が覚めると言うんですが、ここでジェイが、私も全く同じ夢を見ると言います。
「ウンギとジェイが同じ夢」
この部分が重要ポイント1です。覚えておいてくださいね。
それから2人はニースに行きます。ホテルでジェイが足首をひねるんですが、自分の足首を触りながら何かじっと考えこみます。
この部分が重要ポイント2です。
ニースの海岸でジェイが膝枕をしてあげている時に、名セリフが出ます。
「あなたを愛するために生まれたのかも」
初見の方はそのまま受け取るでしょうけど、2度目以上の方はここで号泣ですよね。なぜ2回以上見るべきなのか分かるでしょう?
本当に名セリフ!それはなぜか?後から出てくる別の名セリフと関連しているからです。
そしてこの歌詞を自分の足首を触りながら言うんですね。ここが重要ポイント3です。
二ースから戻った2人、いや、正確にはウンギに大事件が起こります。ここで目玉が飛び出そうになりました。
なんと自分と一緒にいたジェイは、本物のジェイのコピー人間だったんですよ!
それじゃ1年間、本物ジェイはどこにいたんですか?宇宙に行っていたんですよ。びっくりでしょう?
コピー人間のジェイは、コピー人間居住地へ強制移動になり、本物のジェイが戻ってきて、ウンギに「会いたかった」と言いながら抱きつきます。
ここで本当に面食らった。
もし自分がジェイだったら、コピー人間は作らないと思います。いくら宇宙に行きたくても、コピー人間を作って出ていくなんて。それにどこかに自分のコピー人間がいるなんて嫌じゃないですか?
もしウンギだったら。ものすごく裏切られた気がして衝撃を受けるでしょうね。1年間も自分が一緒にいた恋人がコピー人間だったら。あらゆる複雑な感情が湧いたと思いますね。
ウンギもそう感じたのでしょうか。コピー人間のジェイに会いに行きます。そして聞きます。いつコピー人間なのを知ったのかと。
その時彼女は足首をひねったときだと言います。さっきの重要ポイント2と3、覚えてますよね?足首に触れながら「あなたを愛するために生まれた」まで。
悲しくなかったのかと聞くウンギにこう答えます。
「自分があなたを愛するために作られたと考えたら平気になった」
このセリフ、最高じゃないですか?感受性の強い方だったら号泣ですよ。でも私は冷血なので心の中だけ泣いて涙は流しませんでした。
この後、もう一度目玉が飛び出ます。
ウンギがジェイに別れを告げるんです。自分はコピー人間のジェイの元に行くと言って。どういう展開なんだ!でも、どんな気持ちがわかるような気もします。
ウンギが言います。一年間君は僕がいなくても宇宙で元気に過ごしていた。君の人生に僕は必要ない気がする。だけど彼女のそばには誰もいない。
まあまあ理解はできます。何故かと言うとコピーのジェイはウンギから加算点を貰える状況ですから。
あんなに行きたかったニースも一緒に行ったし、交通事故の後辛かった時も一緒にいてくれた。コピーのジェイは本物ジェイより1年分思い出が多い上にさっきの2つで加算点も貰える。そばに誰もいない事まで加算点になる。
ジェイが彼女は私だと言うけど、ウンギは聞きません。
皆さん、私と私のコピー人間がいたら、そのコピー人間は私ですか?私はこの質問に答えられないです。なので私は、ここはウンギの味方です。
とにかくウンギはジェイの元を去ります。そしてジェイはコピー人間管理者に電話し初期化を要請します。
いくら恋人が自分のコピー人間のところに行ったとしても、ひどくない?と考えたところで、もう一度目玉が飛び出ます。もう3回も飛び出ましたね。
ウンギとコピージェイが話をしていると突然静寂が流れます。この時観客は当然コピージェイが初期化されると思ってます。しかも演出もそう誘導している。
突然コピージェイがこんなセリフを言います
「いっそ私を初期化すればいいのに」
だからここで、ウンギが初期化されたんですよ。つまりウンギもコピー人間だったってことです!前半の交通事故で助かって回復したんじゃなく、死亡して、ジェイはウンギを失いたくなくてコピー人間を作った。交通事故シーンとは違い、とても親切に観客に説明してくれます。
僕的にこの部分はちょっと。あまりにも親切すぎる感じ。
とにかくジェイはコピー人間をウンギのそばに置いて、自分は1年間宇宙に行ってたわけです。
しかも今度はコピーウンギの記憶まで初期化してしまうとは。これは…ちょっと…あれですね。
実はヒントも出てきていたんです。重要ポイントありましたよね。ウンギとジェイが同じ夢を見ていたってこと。この視点が交通事故以降じゃないですか。すなわち2人ともがコピー人間であるって事ですよね?だから2人が同じ夢を見るんですよ。
とにかくコピーのウンギとジェイは名前を捨てて
「タシ(再び)」「チョウム(最初)」 最初に戻って再び愛し合うという意味ですね。
次にジェイが宇宙旅行中に残したビデオレターが登場します。
初演時は本当の映像を流しましたが、僕が1番嫌いな演出技法です。幸いなことに今回はその映像がコンピューターから消えたみたいで、俳優が実際にナレーションします。
このシーンを見たらジェイの肩を持ちたくなる。さっきウンギがジェイに「一年間自分がいなくても平気だった」とか言ったじゃないですか。でも違ったんですよ。
ジェイは一年間ずっとビデオレターを残すほど、彼を忘れたことがありません。逆に早く地球に帰って会いたいと言っています。
実に切ないでしょう?結局2人の考え方の違いがこの結果を招いたんですね
ともかく、「再び」と「最初」は新しい愛を育てることになり、ジェイは1人残されウンギとの普通の日常を回想しながらこの劇は終わります。
間延びしないですっきりと90分で終わるから、ずっと集中して見られたと思います。余韻も残りました。
「こんなに普通の」は中間に拍手がありません。拍手するタイミングもなくずっと話が続きます。それがすごくよかったです。ずっと集中して観られるから。
「こんなに普通の」で外せないのがキャスティングボード。プレビューの時も公演の前後に写真を撮るのをお勧めしました。比較してくださいと。ここでもお見せします。キャスティングボードに感動したなんて初めてですよ。
次は舞台です。今回は再演ですが、初演とはかなり変わりました。今ご覧になっているのは初演の舞台です。何と言うか、抽象的な感じでしょう?
再演の舞台は完全に変わりました。今回の舞台は凄く好きです。中央はLEDを使用し両側は実際の舞台デザインになっていて、これを連結しました。大劇場ミュージカルで見られる舞台演出を小劇場でうまく使いこなしたケースです。
LEDの画質が驚くほどです。家の中を見ると、後ろに椅子や窓がありますよね。僕は本物の椅子と窓だと思ってましたが映像でした。とても素敵な舞台でした。
(オリジナル映像)