元記事 (2019.9.24)
「私、宇宙に行くことになったの。1年間」
ミュージカル〈こんなに普通の〉は、人気ウェブトゥーン『こんなに普通の』を創作ミュージカルとして再誕生させた作品で、原作のエピソード2番目の短編作「ある夜、彼女が宇宙で」を基にしている。
ミュージカル〈こんなに普通の〉という作品を理解する前に、タイトルにある「普通」という概念の理解が必要だ。
ウェブ漫画原作者のキャロット作家は、「普通」というものが平凡に使われているが「普通」の生活を維持するためには非常に多くの努力が必要な状態だと述べた。キャロット作家はこの作品も男女間の恋愛を扱っているように、「お互いを愛し、愛を守ろうとして多くのことが起こり、苦しむ状況が起こる」とし、そんな愛を守ろうとする努力が繰り広げられる「普通」の日常を扱ったと説明した。
それでは公演について見てみよう。
変化のないステージと美しい照明
観客が劇場に入ると、最初に目にするのはレンガや四角ピクセルのように見える四角形だ。この四角ピクセルは、舞台の壁面に張り付いていて、星や重力など、さまざまなことを連想させる。この作品は照明が特別な役割を果たすが、ウェブトゥーン原作が宇宙空間で行われるだけに照明で美しい星座を表現したり、キャラクター表現などの雰囲気をバランスよく作り出している。
四角ピクセルの上に映し出される照明もなかなかの見物だ。視覚的な面で観客は必ず舞台の美しさを感じるだろう。
こうした舞台空間に対し、プレスコール当時のキム・テフン演出は「舞台を『記憶の部屋』と呼んでいる。一つ一つが記憶の箱という概念で公演を行っている」と舞台の壁の四角形を定義した。
ただ、公演が開かれるイエス24の3館は小劇場だから、さらに素敵な照明のための天井の高さが確保できない。空が開けているかのように照明が素敵に落ちるのも難しいし、もう少し大きな劇場に比べて左右が広いため、空間的な感覚効果を与えるのも難しい。今後、再演が行われるなら、天井の高い会場で空高くから落ちる照明を受ければ、公演がさらに盛り上がるのではないかと思う。
感性的な楽器編成と思い浮かぶミュージカル
この作品は弦楽器を通じてナンバーの大半を消化している。ミュージカルを見たという方は〈こんなに普通の〉の楽器編成や編曲から、ミュージカル〈もしかしたらハッピーエンド〉のメロディーを思い浮かべるかもしれない。 2つの作品を比較対象ではないが、簡単に説明するために例をあげたものと理解してくれたらありがたい。それほど〈こんなに普通の〉のナンバーは感性的で柔らかさがある。
あのさ、君と毎晩 空を見たいんだ
こんなにきらめく星を見ながら
一緒に眠りたい
その日あった 取るに足りない日常
ただそんな
普通の一日を 語り合いたい
➖ミュージカルナンバー「これほど普通の」より
また、男女の恋愛の物語を歌詞で聞くことができるので、公演を見ながら心温まるのは当然だ。ロマンス·ミュージカルらしく歌詞もとても叙情的で、 観客たちの胸に入りすぐには消え去らない。
「私たちニースに行きましょう」
男と彼の恋人である女。二人だけの旅を夢見て出かけた「ニース」だが、一緒にニースに行った彼女と同じ姿の女が登場し、私が本当の彼女だと話す現実にぶつかる男。
作品の構造はそれほど複雑ではないが、1人が2役として登場し、それまでの状況を頭の中でなぞらないと全体を理解することができない、そんな作品だ。そのため、特定の台詞が繰り返されたり、暗示場面がいたるところに隠れている。そのような面で創作陣や俳優たちが大いに悩んだものと予想される。作品自体がそのように見える。
記者本人が全幕を一度観覧した後、プレスコールでハイライト公演を観覧したら、「あ!」という場面や台詞があったのを見ると、結末のための暗示と台詞があちこちに散りばめられているのだと分かる。しかし2回以上の回転ドア客にならない限り、この作品が話したいストーリーと感情をうまく伝えることができるのかと心配したりもする。
2人だけの愛があり、葛藤を容易に解決してくれる他のキャラクターがいて、ストーリー的にもう少し親切だったらどうかという気もする。簡単でも容易で明確な情報が観客の理解を助け、混乱を減らしてくれる。公演を終えて階段を降りる観客が一緒に来た知人に「これがこうだったの?」と聞くのを意図したのかもしれないが、観客が「何となく分かる」よりは、もう少し分かりやすく説明した方が公演理解のための良い選択ではないかと思う。(回転ドアの観客を狙う意図だったかも知れない)初演の創作陣の方々は一度悩んでみてはどうかと思う。
簡単ではないが、普通の恋物語
観客が喜びそうな要素が満載の作品だ。ただ、公演の中に隠された暗示とそれぞれの台詞を、公演の観覧が1年に3回以下の観客が一度だけ観覧する時、ストーリー理解と音楽的鑑賞をすべて十分にできるかは疑問だ。
しかし、基本的にナンバーが美しく、星を表現するピクセルと照明も素敵だ。また「この作品はキャラクター同士の記憶を通じて本物の価値を見つける過程」と作品の演出陣の言う通り、作品は誰でも共感できる普通の恋人たちの愛の物語、そして絶対的な愛の価値と意味を考えさせる。