5月ともなれば花が咲き乱れる小さな美しい街で彼女は暮らしていた。
彼女は裕福な家の娘だった。何一つ不自由なく育ち無邪気な彼女は街の人々の人気者だった。
婚約者は遠くの街に赴任していたが、しばしば送られてくる手紙には愛情が溢れていた。
立派な職業を持ち、自分を愛してくれる婚約者。彼女は幸せだった。
ある日彼女は、街の人々とは異なり、文学を語り合える旅行者の青年に出会った。
若く知識に富み健やかな青年。彼女は屈託なく街を案内して、彼と楽しい時間を過ごした。2人きりで。
美しい街を旅行者に見せて歩くのに何の問題があるだろう。自分を含め街の人々は誰にでも親切なのだし、婚約者は自分を愛しているし、自分は人気者で誰とも仲良くなれるのだから。
その青年といると彼女はなぜか気分が良かった。他の人たちと同じように、彼女をまぶしく見つめるその眼差し。
けれど彼女は、それに特別な注意を払っているわけではなかった。その眼差しは余りにも見慣れたものだったから。
婚約者がようやく街に戻って来ると、その旅行者は突然いなくなってしまった。なぜだろう。彼女は少し物足りなさを感じた。
ロマンチックな手紙がつないでいた婚約者。今はいつもそばにいる。そして結婚式。ロマンチックさは実際の結婚と言う煩雑さに取って代わった。
もはや明るく無邪気な娘ではいられない。人妻となったのだ。人々の目には完璧なカップルとして映っているが、彼女の心には説明のつかない空虚さが広がっていた。
再び旅行者の青年が街にやってきた。自分を見つめていたあの眼差し。あの華やかな時代。彼女は青年に惹かれる自分を止めることができなかった。
彼はすっかり憔悴していた。自分に恋い焦がれていたのだ。彼がそんな風になったのは自分のせいだ。甘やかな痛み。
しかし自分はすでに結婚した身。彼に惹かれてはいけない。私はなんと罪深い女なんだろうか。彼女は葛藤した。
しばらく家には来ないでくれと彼に告げた。
一方夫は彼の恋心を早くから知っていた。しかし騒ぎ立てずに問題が解決することを願っていた。ところが男は戻ってきてしまった。愚かな妻は揺れ動いている。もはや傍観してはいられない。青年を寄せ付けないよう、妻にはっきりと言い渡した。
青年もまた、彼女への想いを断ち切ることはできなかったが、自分が彼女のそばにいてはいけないことを悟り、二度と現れないと彼女に告げた。
それを聞いた彼女は彼にすがって言った。
そんなことを言わないで。以前のように友として仲良く過ごしましょう。だけど線は超えないで。
断ち切れない思いを断ち切ろうと必死に別れを告げた彼は、自分から離れないでほしいと頼む彼女の言葉に混乱した。
彼女はそばにいてくれと言う。しかし彼女を自分のものにすることはできない。夫に銃を向けるが撃てるわけでもない。彼にできるのは自分に銃口を向けることだけだった。
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NAVER TVの〈ウェルテル〉を観ました。
ウェルテルも軟弱ではあるけれど、引き返そうと努力はするのよ。どう考えてもロッテが性悪。(ごく個人的な解釈です)
キュヒョン氏もよく泣いてましたが、ジヘちゃん泣きすぎちゃいますか?ロッテを演じる側としても泣きまくって押し切るしかなかったのではないかと、だって共感できないでしょ?と思ったのはこれまたごく個人的な解釈です。すみません。