就寝前に、些細なことから妻と口論になった。

妻は内容の如何を問わず、指摘を受けると即座にファイティングポーズを構えて臨戦体制に入る性格なので、明らかに自分に非がある場合でもけっしてそれを認めようとはしない。

オレは自分が何故嫌な気持ちになったのか、その理由を説明して分かってもらおうとするのだが、突破口を見出せず苛立ってしまう。

毎度同じ展開でこの先どうなるのか概ね予測がついているにも関わらず、言い出したからにはこの喧嘩に勝利して気持ちよく眠りたいという狭量な思いも相まって、無益な戦闘を開始してしまった。


オレ「何であんな意地悪をするんだ」
妻「意地悪だとは思っていない」
オレ「でも同じこと、自分がされたら嫌でしょ?」
妻「…(無言)、別に」
オレ「オレは嫌だったんだけど」
妻「で、あたしが何て言えば気が済むんだ」
オレ「気が済むとか、そういう話をしてるんじゃない」
妻「じゃあ何の話をしてるんだ?」
オレ「だから、なんであんな意地悪するのかなと思って」
妻「だから、あたしは意地悪したと思ってないんだってば!」
オレ「だから、オレは嫌だったんだってば!」
妻「だからどう言えばいいんだって!」
オレ「だからそういう話じゃないんだって!」

...見事なまでの泥試合である。

オレが30年以上保育園に勤務して得た真実のひとつに、“おばさんは言い出したら聞かない”というのがあるが、ウチに住んでいるおばさんがその最上位者であることは間違いない。

結局怒りと苛立ちを増幅させただけで戦闘は虚しく終了。
どうすればあのおばさんを懲らしめることが出来るか考えながら床に就く。



翌日は早番勤務。
朝5時前から起き出して身支度を始める。

オレは隣の部屋でまだ寝ている妻に気付かれぬよう注意しながら、昨晩布団の中で閃いた意地悪を仕込んで早々に出勤した。

7時過ぎ、職場に置いたオレのスマホが振動を始める。妻から大量のLINEが連続投下されているようだ。

「勝手に怒ってろ、バーカ」
とつぶやきながらスマホを開いたオレは、送られてきたメッセージを読んで思わず吹き出してしまった。

「あたしの座布団がショコラのおしっこでびしょ濡れなんだけど」
「あんたの仕業か」
「座布団の下のカーペットまで滲みている」
「これは昨夜の報復なのか」

オレが仕込んでいたのは、暖房を切り、窓を開けてリビングをキンキンに冷やしておくという、しょーもない嫌がらせだった。
寝室から寒風吹き荒ぶリビングに入った時の顔が見ものだと思ったのだ。見られないけど。
だが、チビ犬ショコラは昨夜の口論を間近で聞いていたため、それでは手ぬるいと考えて追加制裁を加えてくれたのだ。

尚も振動を続けるスマホから、妻の苛立ちが伝わってくる。

まさに会心の一撃。
ショコラよ、よくやった!

オレは終業後、スーパーに立ち寄って割引になっていた肉塊を購入。
感謝の気持ちを込めて小さな勇者に献上した。






ちなみに口論は、すでに床に就いていたオレが部屋を出て行く妻に、

「明かりを消していって」

と頼んだら、

「嫌だ」

と言ってそのまま逃げていったのが原因。


直前までは普通に会話。


どういう感覚?

誰か教えてくれ。