自宅謹慎7日目。
前回はそれなりに副作用のようなものが発動して投薬後4日間くらい寝込んだのだが、今回はドセタキセルの投薬量がセーブしてあるからか、或いはステロイド錠剤を服用しているおかげか、比較的軽症で済んでいる。
まあオレの場合、腎機能の低下や好中球の減少など内部的な問題の方が多いため、見た目は元気でも身体の中は大炎上って可能性もあるけれど、オレが寝込むと父親も寝込んでしまうので、(うわべでも)普通に過ごせるのはありがたい。
とりあえず、騙せるうちは騙し通してやろうと心に決めているので。
今日は投薬後1週間の経過観察で病院受診。
結果はいつもの「腎臓の数値が〜...」で割愛。
その帰り、A時計店という小さな町の時計屋に立ち寄った。
ここは1ヶ月ほど前に飛び込みで腕時計のベルト調整をしてもらった際、
「お代はいらない」
と言われて支払いをせずに出てきてしまったお店。
オレも、
「そういうわけにはいかない」
「商売でやっているのだから代金は取るべき」
「この店で買ったものですらない」
と粘ったのだが、最後は、
「時計屋ってそんなものなんだ」
という店主の言葉に押し切られてしまった。
普通なら「得した」で済む話なのかも知れないが、オレは義理と人情を重んじる渡世人なのでこのままでは済まされない。どうすればこの親父に恩義を返すことができるのか考えを巡らせる。
少なくとも何かを買って届けるというのは本末転倒というか、全く的外れだと思う。そもそも親父は報酬なんぞ望んでいないのだし、オレ自身もそんな安直なやり方は意に反する。
分かりやすく言うと、気持ちを具象化させたものがいい。
一瞬「出張肩たたき券」的なものが頭にモワモワっと浮かぶが、さすがにそれは無かろうとすぐに打ち消した。
今日はその答え合わせの日。
オレは店の扉を開けると、訪問した理由と感謝の念を述べた後、おもむろに自作の野菜が詰まった2つのナイロン袋を店主に差し出した。
ちなみに袋の中身は、玉ねぎ、キャベツ、ブロッコリー、スナップエンドウ、アスパラガス、ピーマン、なす、トマト。玉ねぎ以外は全て昨日畑から収穫してきたばかりのもの。
プレゼンでは恩着せがましくならないよう配慮しつつ、「気持ちを返したい」という部分を強調して伝えた。
デスクで腕時計の分解中だった頑固親父は、瞼に挟み込んでいたキズミ(傷見=精密機械修理用のルーペ)を置くと、こちらを見てニヤリと笑い、
「かえって悪かったですな」
と、ひと言。
察したオレは隣にいらっしゃった奥様に袋を手渡し、無事目的を果たす。
というか、これを突っ返してきたら頑固を通り越して「偏屈親父」に呼び名を変えようと思っていた。
それからしばらく親父と畑談義、時計談義。
話していて気になったので後で調べてみたところ、なんとこのお店、全国から時計修理の依頼が絶えない知る人ぞ知る有名店だった。
googleのクチコミを見ると、親父は足りない部品があれば自作して直してしまう凄腕職人とのこと。どうりでただ者ではない雰囲気を纏っているわけだ。
ちょうど時計をOH(オーバーホール)に出したいと思っていたところなので、次回はこの親父さんにお願いすることにしよう。
晴れやかな気持ちで帰宅すると、無造作に置かれた大量のらっきょうが視界に入る。
