夕食時、唐突に父が、
「若い頃からずっと記念硬貨を集めてきたのだが、それを引き継ぐ気はあるか」
と尋ねてきた。
オレは、
「ないね」
と即答した。
父が硬貨や古銭を蒐集しているのは子どもの頃から知っているし、面白いコレクションだとも思っているが、コレクター用に造幣局が販売しているプルーフ硬貨(特殊加工が施されている観賞用硬貨)や、乱発される記念硬貨なんて、オレから見ればぼったくりもいいところだし、そんなものに年間10万円以上支払うのも馬鹿げているというのが素直な感想。
そもそも記念硬貨といっても日本の通貨である以上、500円硬貨は500円で、1000円硬貨なら1000円で“両替”されるのが本筋だと思うのだが、現在は額面の30〜35倍くらいの価格で“販売”されているのが実情なのだ。
父親は喜んでオレが引き継ぐと思っていたのか、落胆と不満が入り混じったような表情で、
「昭和30年代からずっと続いてきたコレクションが途切れてもいいのか?」
と迫ってきたが、
「それはじいちゃんのコレクションであって、オレのコレクションではないからな」
と切り捨ててやった。
チラと隣に目をやると、“ショックです“オーラを隠しもせず、うつむき加減で食事を続ける父の横顔。
鬱陶しいので、
「じいちゃんは自分が楽しむためにコインを集めてきたんだから、後のことなんか考えずに死ぬまで楽しく集め続ければいいんよ」
と慰めの言葉をかけたのだが、打ちひしがれた父の耳にオレの言葉は届いていない様子だった。
だが、父に吐いた言葉はそのまま自身に向けた言葉となる。
実はこの日記で触れたことは一度もないのだが、オレは膨大な量の仮面ライダーグッズを所有する、筋金入りの仮面ライダー蒐集家なのだ。
当然、仮面ライダーは歴史あるコンテンツなので、世の中には数多のコレクターがいることと思う。
それらのコレクターの中にはオレが足元にも及ばない強者もいるだろう。
ただしそれは、ある特定のジャンルに限って。
ジャンルというのは、例えばトレーディングカードに特化したカード系コレクター。或いはフィギュアを中心に集めるフィギュアコレクター。またはポピー社のソフビ人形やライダースナックのおまけカードを集める骨董系コレクターなどのこと。
その中でオレが筋金入りと自負する理由は、仮面ライダーにかかわる全ての物、玩具、フィギュアはもちろん、雑誌、非売品の番宣ポスターや映画館に置かれていた等身大POP、放送台本、俳優の直筆サインから、仮面ライダーソーセージの空き箱に至るまで、ジャンルを問わず「仮面ライダー」と印字されたありとあらゆるものを高レベルでかき集めてしまった点にある。
中には懸賞当選品の、世界で2体しか存在しない「装着変身」スケルトンモデル(当然非売品)や、レインボー造型(撮影用スーツや着ぐるみの製作会社)製のレプリカマスクなど激レア品も紛れているけれど、それ以上に価値があるのは、それらがひとまとめにまとまっているということなのだ。
手前味噌だが、オレのコレクションはその時代にタイムリーで入手していなければ、後追いで手に入れるのは極めて困難なライブ感の強い物が多数。
フットワークの軽さと人脈を駆使して蒐集したアイテムの数々は、ジャンルの幅広さでいえば国内外問わず右に出る者はいないと思う。
なにしろ当時、世に出回ったほぼ全てのものがここにあるのだから。
そんなわけで発病以降、オレの頭の片隅には「このライダーたちをどこに着地させるか」という難問が常に渦巻いている。
息子に託そうという気持ちはないが、ここまで集結したものを散逸させてしまうのは流石に惜しいと思っているので。
数年前、作家の村上春樹さんが同じ理由で自身のレコードコレクションを母校の早稲田大学に寄付したというニュースを見たけれど、オレのライダーコレクションもどこか一手に引き受けてくれる公共施設かギャラリーがあれば喜んで寄贈するのに。
候補として考えていた、倉吉市の「円形劇場くらよしフィギュアミュージアム」に問い合わせたところ、最初は大変乗り気だったのだが、全体の量を
「大小合わせて700から800点くらい」
と伝えたら、
「保管場所が限られているため目玉展示になり得る貴重な品のみの引き取りになるかも」
とのことで、オレの意図とは真反対の回答だったため丁重にお断りした。
オレは散逸させたくないんだよ。
ちなみに村上氏のレコードは早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)内のオーディオルームにて、不定期で再生会が開催されているそう(出入り自由)。
オレもコレクションの総仕上げとして、私設ミュージアムを建設するしかないのだろうか。

