3週に1度のおつとめ(キイトルーダ投与)の日。


1階の中央採血室前で順番待ちをしていると、知り合いの看護師Mさんを見つけた。


Mさんは、ほんわかした雰囲気と愛らしい笑顔で常連客に人気のナース。

黒色のカーディガンを羽織ったMさんが現れると、それまでスマホに夢中だったおじさんたちが一斉に視線を上げて、目で追っていくのがおかしい。


オレは仕事がらみで親しくさせていただいてはいるが、病気の治療に関しては一切関わりが無いので、病院ではいつも知らん顔をしていた。


だが今日は、順番を知らせるモニターを見上げた瞬間、処置室から外来インフォメーションに戻ろうとするMさんとバッチリ目が合ってしまったのだ。


オレに気付いたMさんは、小走りで駆け寄ると空いていたオレの左側に体を寄せて座り、

「先生、お久しぶりです。お元気そうでよかったぁ」

と下を向いたまま小さな声で囁(ささや)いた。

オレもつられて、

「ありがとうございます。おかげさまで年明けから仕事も再開しておりますので」

とヒソヒソ声で答える。


Mさんは、

「わー、そうなんですね。ご病気のことはちょこっと耳に入っていたんですけど、でも本当に...、うん。お元気そうでよかったです」

と、オレの方を向き安堵の表情を浮かべた。


普段こんなに距離が近いことはないので、照れて左側を向けなくなったオレは、

「ところでMさんって、この外来の患者さんたちにすごく人気なんですね」

と唐突に反対側を向いてしゃべり出し、右隣の人をギョッとさせてしまう。

Mさんは意にも介さず、

「全然、全く、そんなことはないです」

首をブンブン横に振って全力で否定しながら、

「でもドクターからは、患者さんと接する時は顔が違うと言われます。だから今はきっと、よそゆきの顔をしているのだと思います」

と答えた。

そこで、

「じゃあ普段着の顔は?」

と問うと、Mさんが眉間にしわを寄せて怒ったような顔をして見せたので、オレは思わず吹き出してしまった。


ふと気が付くと、向かいに座っているおじさまが怪訝そうな顔でずっとこちらに視線を送っている。


オレはハッとした。

あぶないあぶない。Mさんは言わばこの外来のアイドルなのだ。

このままいちゃついていたら、ここにいるM推しのおじさま方に、後で足を引っ掛けられたり踏んづけられたりするかも知れない。


オレはいかにも採血の順番が回ってきたかのように立ち上がると、

「じゃ、今度は園の方で」

と告げ、右側の人にも軽く会釈をしてMさんと別れた。



その後はアイドルを独占した報いか、トイレから出た途端に「採尿してこい」と言われたり、エコー検査で苦手のつぶやき先生に当たったり、血圧測定で新記録の170を叩き出したりと散々で、やっぱりMさんは遠くから眺めているに限ると思った次第。


親衛隊のおじさま方の視線も痛かったし。



病棟へ移動する際、窓の外を見るとまた雪が降り出していた。


病院内での移動のしやすさを優先してスニーカーを履いてきてしまったので、帰る頃に積もってなければいいなと思う。



週末、裏山で孫のバブちゃん初そり遊び。

泣きじゃくっていたけれど。