本日、主治医の青年T医師と糖尿病内科S医師のW受診日。

先に耳鼻咽喉科でT医師より、腎機能の低下が著しいため6度目の抗がん剤投与は見送る旨を正式に伝えられる。
根拠は無いが自分の身体は頑丈ですぐに回復するものと信じていたので、この現実をにわかに受け入れがたい。

T医師は、
「上限が6回というだけで、5回でもしっかり効果が出ていれば問題ない」
と言うのだが、予定していた回数を受けられなかったのは事実。
もっとも心は正直で、失望感とは裏腹に、あの辛い治療から逃れられた安堵感が錯綜する。本当は完走した達成感のようなものを味わいたかった。

「食事は摂れていますか」
との問いには、
「入院中よりは摂れています」
と答えた。

食べることに関しては、味覚異常で何を食べても美味しく感じられない一方で、味覚が異様に研ぎ澄まされて、今まで感じたことのない味まで分かるようになってしまった。

合成甘味料や化学調味料などの添加物は言わずもがな、例えば、パンのパッケージに貼られたシールの味や(シールの裏側に当たっていた部分のみ、合成糊の味がする)、コンビニコーヒーの紙コップのコーティング剤の味なども全て明確に感じられる。

一見、味覚が鋭敏なことは良いことと捉えられがちだが、実際は弊害も多い。

常に本物の味を求めて生活している訳ではないし、たまにはジャンクフードで食事を済ませたい時だってあるのだ。
カップ麺くらい美味しく食べさせてくれ(ちなみにカップ麺は、カップ本体よりも上蓋の紙の匂いの方がキツい)。


とりあえずCT&MRI検査の結果を見て今後の治療を検討する旨を伝えられ、青年Tの診察は終了。
懸案事項の糖尿病内科へ移動する。

現在この科で頂いているオレの診断名は「ステロイド糖尿病」というもの。
抗がん剤投薬時に吐き気どめとして使用されるステロイドによって引き起こされた、いわば二次的な副作用の一種である。

ただしこの副作用は、ステロイドの投与が終了した後も慢性的な糖尿病として一生引きずっていく可能性があるそうで、そうなるかどうかは個人差が大きいとのこと。
ポケットに隠し持った御守りを握りしめ、祈るような気持ちで医師の診断を聞いた。

結果は「血糖値の安定度から、今のところステロイド投薬時にのみ起こった一時的な症状と思われる」とのことで、心配していた慢性的な症状では無さそうだった。

前回入院時のやや感情的とも取れる返答以来、疑心暗鬼の念を持っているS医師だが、期待どおりの診察結果を伝えられると途端に良い人に見えてくるから不思議。
ついでにあの、
「病院食を摂らないのなら、血糖値に関係なくインスリンを注射する」
という言葉の真意を問うと、
「安全策で」
と、何となくはぐらかされたような返事だった。

まあいい。
言うことを聞かない患者にカチンときたのではなく、医師として冷静に対処して下さったのだろう。
そう思っていた方が、オレの心も穏やかだ。

病院を出ると、時刻はまだお昼前。
血糖値の心配が無くなったので、お気に入りの「まねき」に直行し、カツ丼うどんセットを食す。

化学調味料一切不使用の看板に偽りなし。

今のオレは引き出し昆布の技法で取った出汁の違いも見分けられる。




翌々日、たまたま仕事が休みだった三男に付き合ってもらい、例の廃線跡を散策。

実は家の廊下から部屋の中へ掃除機を移動させただけで、しばらくうずくまって立ち上がれないくらいに心肺機能が低下していて、1人で行く勇気が無かった。


案の定、歩き始めた直後から息が上がり、三男に支えられながら歩いたのだが、行程の半分を過ぎたあたりから身体が負荷に慣れてきたのか、楽に歩けるようになった。


気遣って「無理をするな」と、オレの病気を知っている皆さんが言って下さるが、多少の無理はした方がいいのではないかと思い始めている。