抗がん剤投与のため、4度目の入院。

流石に回を重ねてくると病棟内の顔馴染みも増えて、「ただいま」という感じになってしまう。
仲良しの看護師さんは、ナースステーションの中から右手を小さく振って「おかえり」のサイン。
小太りのでっかいおっさんだけど、仕草はキュート。

病室に着くと、今日は何もすることがないので安静に過ごすよう言われる。
それなら明日の朝イチで入院させてくれてもよかったのでは。
個室代1泊分あれば、最近食指が動いているイワタニの炉端焼き器「炙りやⅡ」が買えたのに。


翌朝6時、採血。
お気に入りの看護師Hさんが来てくれて歓喜。
心が安心感で満たされていく。

オレがHさんを気に入っている理由は、注射がうまくて仕事が的確。
それに尽きる。

極端な話、オレはここへ病気を治すためだけに来ているので、看護師さんの人間性なんかは二の次だと思っている。
クソみたいな性格で無愛想でも、血管注射は一発で決める。そういう人の方が今のオレにとってはいい看護師。その上で人柄も良ければ最高だなと。

まぁ新人看護師のMさんにだけは、“育ててやりたい”という親心のようなものが発動して、
「何回刺しても怒んねーから、練習台だと思って遠慮せずにやればいい」
って言ってるけど。

午前8時半、診察前に主治医の青年T医師が回診に来て下さる。
先週受けたCTの結果、薬が効いてがんが縮小しているとのこと。

あまり考えないようにしていたが、気になっていた事柄だったので良い報告が聞けて嬉しい。
曇り空の隙間からひと筋の光が差し込んできたようなイメージが頭に浮かぶ。
すぐに家族と職場へLINEで報告した。


午前9時、日勤の看護師さんが「今日の担当です。よろしくお願いします」と挨拶にみえる。
気さくで人当たりのいい方。
でもオレの中ではちょっと警戒してしまうタイプの看護師さん。
とにかく詰めが甘いのだ。

今日も早速、持ってきた点滴薬を見て「あれ?」と首をかしげ、病室とナースステーションを何往復もしている。
もうこの時点でオレは内心モヤモヤ。
戻ってきてもやっぱりよく分からなかったようで、
「はじめの点滴から輸液ポンプ使ってましたか?」
って、最終確認はまさかのオレ?

幸い覚えていたので「使われてましたよ」と答えることができたが、前回と今回が同じかどうかも分からないのに、オレに頼られても正直困る。
“Hさんなら用意周到に全ての準備を整えてから来るのに”と、思わず頭の中で比較をしてしまう。

その後も、その看護師さんは点滴のセンサーを付け忘れていたり、交換する薬を持って来ていなかったりと小ミスを連発。
いつにも増して、今日は心ここに在らずな気がする。
左腕のCVポートに針を刺される時、緊張感はマックスに達した。

オレは今のところ声を荒げたり不遜な態度を取ったりすることはないけれど、他の病室からは時折怒声も響いてくるので、凶暴なおじいちゃんに怒鳴られ過ぎて彼女が心を病んでしまわないことを願う。

その前にもう一度原点に戻って、基本動作を確認しよう。
さっきは点滴前の本人確認もなかったぞ。


午後、院内の薬剤師さんが来室。
血液検査の結果、白血球数が激減とのことで、噂に聞いていた生禁を言い渡される。
生禁とは生もの禁止のことで、お刺身、生野菜など未加熱のものは摂取禁止。
何かに感染した場合、重症化しやすいそうだ。

退院したら行ってみたい海鮮屋を見つけていたのに残念。
漁港の市場食堂みたいなところでアジフライ定食ってのも味気ないしなぁ。



入院前日、孫のバブちゃん1歳のお祝いで1升のお赤飯を炊く。

この地域は、男の子はお餅、女の子は赤飯というのが慣わしとのこと。



1生(1升)食うに困らぬようにとの願いを込めて背中に背負うが、バブちゃんは大泣き。

かわいい泣き顔に皆の笑顔が溢れる。