本日退院の日。
毎度のことながらフルオロウラシル96時間点滴を終えて、身体から管が外される瞬間の開放感が堪らない。
胸のあちこちに貼り付けられた心電図のモニターコードを外してもらうと、晴れて自由の身、という感じがする。
前回の入院では、退院前に2度も採血をされてなかなか帰してもらえなかったが、今回は「白血球数が減少している」と言われているにも関わらず検査はスルー。
別に針を刺されたいわけではないけれど、あまりの違いに少々戸惑う。
この差は一体何なのだろう。
妻にLINEを送り、迎えを要請。
看護師さんに尋ねたところ、
「準備ができたらいつ帰ってもいいけど、(夜勤が)日勤に仕事を引き継いだ後の方が助かる」
とのことで、午前9時半に来てもらうことにする。
日曜だったので三男も同行してくれた。
整理するつもりで写真やアルバム、書籍などを大量に持ち込んでいたのでありがたい。
エレベーターから通用口を抜けて1週間ぶりの娑婆へ出る。
ずっと病室にいたので気がつかなかったが、外の空気が秋のそれへと一変している。
朝方、雨が降ったのだろうか。駐車場のアスファルトには、ところどころ水溜りが残っていた。
思いのほか早く病院を出られたので、帰りにコメダ珈琲へ寄ってもらい3人でモーニングを喫食。
すごくお腹が空いている訳ではなかったが、隔絶された世界から世間の風に触れて少し気持ちが楽になったような気がした。
こういう感覚ってオレだけなのかな。
帰路の途中、ずっと気になっていた田んぼを巡回する。
車でぐるっと流してもらっただけだが、入院前に倒伏していた稲の範囲がさらに広がっていた。
倒れた稲の腰が持ち上がっていればよいが、根元から倒れてしまっていたら、きれいに機械で刈り取ることは難しい。
また稲が地面を覆ってしまっているため、土が乾くまでに日数も要するだろう。
いずれにしろ今年の稲刈りは困難を極めそうだ。
悶々とした気持ちで帰宅。
悶々とはするが、とりあえず今オレが優先すべきは回復に努めることだと思う。
自室の布団に横たわり時が過ぎるのを待っていると、娘から手のひらに群がる小魚の動画が送られてきた。
寮の近くに小さな水族館があり、ドクターフィッシュを体験したとのこと。
「通学路の途中にあったの」
「ガジガジ噛んでくる」
という微笑ましいメッセージと共に、その後も続々と送られてくるチンアナゴ、クラゲ、アリゲーターガーらの動画を観ながら、友だちと楽しく過ごしている娘の姿を想像した。
一瞬、副作用の辛さも忘れる清涼感。
ところが調子にのって、
「デート中?」
と送ったところ、
「まあ、そういうことで」
だって。
「いいねー」
と返した後、頭から毛布を被ってふて寝を決めこむ。
オレの悶々は、この日最高潮に達した。
