コロナが最初に猛威を奮つた令和2年(2020)に、私は父をその流行病で亡くしました。大晦日のことでした。
例年の大晦日ならば翌日の元日に備へ、大掃除やおせち料理作りに大忙しの時期ではありますが、この年はもうそれどころではありませんでした。母もコロナで入院(翌年1月11日死去)、父母の介護に当たつて感染し、私も兄も隔離入院と、初めて親や妻子と別々の正月を迎ゑることになつたのです。
さて今日の話題は、その年を遡ること三年の、やはり大晦日。
尼崎の父母の実家(其処は私の仕事場でもあります)で排水の不具合が起きました。早朝、天井から水がポタポタと落ちるのに気づいた母が、水道業者を呼ぶことになりました。皆様のお宅でもよく投函されてゐるでせう。例へば村松邦洋や長嶋一茂らが青い作業服を着て微笑んでゐる写真や、薄いマグネットに大書された電話番号が印刷されてゐる、あの広告物です。この電話番号の一つへ母が「家が水浸しなので、来てください」と連絡を入れたのです。
朝9時頃、二人の若い男性がすぐに訪ねてきました。この時、私は仕事場にて大掃除に取り組んでをりました。そのため、二人の男性と顔を合はせることは無かつたのです。水道管を取り替えるのか、補強するのか、いづれにしても2、3時間で終はる作業だらうと、父母も私も軽く考ゑてをりました。
午後3時ころ掃除を終ゑた私は、母へ「今日はもう帰るから」と声をかけるつもりで台所へ参りました。すると其処には、朝来た男性の一人が暇そうに洗面所に立つてゐるのです。訪ねてきてから既に6時間を経過してをります。
「おぉ、えらい長いこと作業してるんやなあ」と私が声をかけると、その男性はビクッと驚いたやうでした。そしてしどろもどろに「あぁ、部品が足りないので待つてるんですわ」と答ゑるのです。
母が不安そうに「修理が長いんやわ。台所工事やから、おせち作られへん」と嘆いてをりましたが、その時、私は所用で一旦帰宅することにしました。
帰宅はしたものの、私は少し胸騒ぎがしたのです。父も母ももう90歳を控ゑる高齢者、見知らぬ若い男性らと古い家に一緒に居るのは心細いに違ひありません。そこで実家に電話をかけて父と相談しました。そこで「正月の用意もあるし、水道修理はもう来年で良いから、今日は帰つてくれ」と彼らに申し渡すことにしました。
それでも不安を感じた私は、急遽ふたたび実家を訪ねることにしました。結局、最初彼らが尋ねてきてから約10時間が経過してをります。いくら何でも、時間が掛かり過ぎです。
私は親方らしき男(と言ふも40前くらひ)をつかまへ抗議しました。すると、彼はようやく低姿勢で「このままではご不自由でせうから、ひと通り水漏れせぬよう急ぎます」と答ゑました。それから1時間ほどで、細いアクリル製の管を継ぎ足したやうな粗末な排水管が出来上がりました。
今思へば、最初に訪ねて来た男性らは、老夫婦二人だけが住む3階建のビルを見て、何かしら悪巧みをせむと考ゑたのではありますまいか。仲間を集めてゐる最中だつたのかも知れません。それが午後になつて、突然私の姿を見て吃驚して予定変更の必要を感じたものと思はれるのです。親方は悪い人ではなさそうですが、それにしても簡単な水道の修復に10時間とは、余りに長過ぎます。
冒頭に「無料点検の罠」を警告する動画をご紹介しました。よく女性の声で「古い陶器や電化製品はありませんか?」と電話をかけてきて、相手を見てから家に上がり込み、品物を物色して買い叩く業者があります。さうでなくても、家の間取りを調べてゐる危険性も捨てきれません。
高齢者だけで住む世帯がとても増えてをります。ご多忙な年末、くれぐれもご注意のほど。そして皆様よき新年をお迎ゑ下さいますやう祈念申し上げる次第です。