仲良きことは… 新婚さんの電話の話 | 還暦を過ぎたトリトンのブログ

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団塊世代よりも年下で、
でも新人類より年上で…
昭和30年代生まれの価値観にこだはります

 

 私が愛読するブログに「まあすけのブログ」がございます。それがしとは住処もご近所らしく、実に仲の宜しいご夫婦の生態、いや日常を赤裸々に描いてをられます。

 

 

 かういつた熱々のご夫婦、仲睦まじいのは誠に羨ましい限りでございますが、何事にも「中庸」といふものがあり、時にはそれに水をさしたくなるのも人情でございます。

 

 前回お話しした、新神戸の印刷会社に私が在籍してゐたころ、同僚に新婚ほやほやのY君が居りました。会社の定時は午後6時ですが、繁忙期になりますと午後8時や9時になつてしまふ場合もございます。

 

 午後6時半を過ぎますと、毎日必ずY君の奥様から旦那様に電話がかかつてくるのです。まだまだ携帯電話も無い時代ですゆへ、プライベートな電話でも会社にかけるしかございません。また、家庭用の「子機」もまだありません。このあたりは、現代の若い方々には想像もつかないと思ひます。

 

 外線がかかると、まづ仕事場全部の電話機に着信音が鳴り響きます。最初に受話器を取つた事務員さんが「Yさん、電話ですよー」と取り次ぎますと、Y君は周りに気を遣ひながら、皆の前で奥様に「今日も残業やねん」と言ひつつも、ひそひそ声で話を始めるのでした。初めの頃は10分程で終はつてゐた電話も、次第に横着になり、30分に及ぶ日が出て参ります。

 

 残業とは言へ、勤務時間中です。上司も「仕方ないなー」といふ感じで、最初の頃は大目に見てをりましたが、数ヶ月を過ぎても毎日となりますと、同僚仲間の士気に関はつて参ります。

 

課長「おーい、トリトン君。Y君の電話、何とか言ふたつてくれへんかー」

トリトン「仕事中の私用電話は必要最小限に…と課長から注意されたらどないですか」

課長「いやー、ワシが言ふたら角が立つやろ」

 何の事はない、課長は自分が悪者になりたくないのです。

 

 そこで一計を案じた私は、課の同僚に協力を求め、翌日から実行することに決めました。

 

 今日も午後6時半になると、Y君の奥様から電話が入ります。話が10分を過ぎますと、私の合図で、同僚仲間が全員で手拍子を始めます。さうです、宴会場の雰囲気を演じるのです。

 「アウト、セーフ、よよいのよい!」

 「あちゃー!また負けたがな」

 「脱げ脱げー」「飲め飲めー」

 Y君、最初は片方の耳を塞いで、話し込んでをりましたが、当然「宴会」のはしやいだ様子が奥様の耳に入つてしまひます。

 

 

 「あなた、本当に残業なの? 騒がしいようだけど!」

 Y君はもう、しどろもどろになつて必死で説明しますが、奥様は半信半疑のご様子です。

 

 今日はそそくさと電話を切るY君、顔を赤くしたり青くしたり。

 「トリトン先輩、ひどいやないですか!」

 「すまんすまん、奥さんには俺から謝るわ。でもまぁなー、独身のもんもいっぱい居るんやし、あんまり刺激してやらん方がええでー」

 

 Y君は、その翌日から電話を5分で済ませるやうになりました。

 

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