カラスは嫌ひです | 還暦を過ぎたトリトンのブログ

還暦を過ぎたトリトンのブログ

団塊世代よりも年下で、
でも新人類より年上で…
昭和30年代生まれの価値観にこだはります

 本ブログのプロフィールにもありますやうに、私の本業は印刷・製版業。企画やデザインを尼崎市内にてささやかに営んでをります。インターネットの普及は、紙媒体の減少をもたらし、且つネット通販印刷が参入して安値競争が猖獗を極めた結果、町の印刷屋さんは出番そのものが激減してしまひました。無論、私自身の営業努力の不足もまた大きいのではありますが…。

 

 そのため、恥を忍んで申し上げますれば、とても専業では生活が成り立ち難く、昼間の本業以外にアルバイトとして、朝は運送屋さんの仕分け、夜は他の会社の宿直を勤めることにより、ようやく糊口をしのいでをる次第でございます。

 結果、眠る時間が著しく減少します。家族がそれぞれパート、学校等に出掛けますと、私が起床する頃に自宅には誰も居りません。朝食は独り侘しく麵麭(パン)や饂飩(うどん)を調理致すわけでございます。

 

 事件は昨年、晩秋のことであります。

 

 私の住まひは、伊丹市の某マンション最上階に在ります。

 宿直明けに24時間のコンビニで3個100円の饂飩玉を買つて帰宅致しました私は、冷蔵庫が家族の寝室に在ることから、皆を起こすことが無いやうに忍び足で気遣ひ、陽の当たらぬ自室の北面バルコニーを開け、その饂飩玉を室外に置いて眠り込んだのであります。

 

 翌朝9時頃、起床しました私は洗面を終へて、いざ食事の用意をせむと、くだんのバルコニー扉をがらりと開けました。

 すると、そこに在るべき饂飩玉が3個すべて無くなつてをるのであります。饂飩を盗むやうな盗人が居るでせうか…。面妖なことがあるものよと頭を巡らせば、同じマンションの隣棟の屋上に数羽のカラスが集ひをります。眼鏡をかけてよく見ますと、屋上の一面に白いものが散乱致しをります。その白いものこそ、おのが饂飩なりと気付くのに数秒を要しました。

 

 

 唖然と佇む私をあざ笑ふかのやうに、カラスどもは歓声を轟かせるのでありました。

 

 「トンビに油揚」といふ諺はよく耳に致しますが、「カラスに饂飩玉」といふのは聞いたことがございません。私はやり場のない無力感と、後悔と、空腹に囚はれるまま、無言で仕事場への道を急ぐのでありました。

 

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