をとらない精霊や、あるいは遠く離れた生物を召喚して使役するのが召喚術である。
魔王なども魔物や魔獣を召喚するが、直接契約対象と印を結んで契約を行えば、例えば人間でも魔物や魔獣を召喚する事は可能である。エスメラルダが行うのは精霊召喚であるが、これは莫大な魔力を消耗するため、普通は一瞬、あるいは精霊の一部を使役するのが精一杯である。
だが彼女は神にも近いとされるボレアスを使役して、なお維持していた。これは当代随一の召喚士である彼女ならではの芸当である。
そのボレアスが新たな敵を認識し、唸る。財布 革
「その醜悪な化け物を引き裂け!」
「ブオオオオオ!」
ボレアスの出現に一同が驚く暇もなく、エスメラルダの命令に忠実にボレアスはその4本の爪をバーサーカーに向けた。そして巻き起こる爆風。同時に辺り一面には緑色の血飛沫が飛んだが、ラインは冷静な視線を崩さない。
――それくらいじゃ死なないよ――
突然耳に入ったラインはその声にはっとした。周囲を見渡すが、どうやら誰にも聞こえなかったのか、彼らは一様に化け物の行方を気にしていた。
「(なんだ? この戦場に、まだ何かいる?)」
ラインが周囲を見渡し続けると、彼は城壁の高い所にネズミが座っているのを見つけた。なぜそのように小さいものが目に入ったのか。それはそのネズミの異常なまでの存在感か。この騒ぎの中、ネズミは逃げるでもなく高い位置から自分達を見下ろしているのだ。そして遠目だが、ラインにはそのネズミが笑っているように見える。まるで楽しい劇でも見物しているかのように。そう思った瞬間、ラインの怒りは頂点に達したのだ。
「ふざけるなよ」
ラインはその瞬間、倒すべき敵が誰かわかった。元凶はあのネズミ。本当にネズミであるわけがないのだから、それを操っている誰か。あいつを倒さない限り、何も終わらない。何度でも同じ悲劇は繰り返されるだろう。
「てめえっ!」
「ライン?」
走り出そうとするラインを止めたのはラスティの叫び声ではなく、猛烈な殺気。あるいは邪気。はたまたただの強大な力の塊と言い変えてもいい。
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「気を付けなさい!」
叫んだのはエスメラルダ。だが彼女が叫ぶまでもなく、大方の者が恐ろしいまでの殺気を感じとっていた。
「ぬう」
「これはいけませんね」
ドガロフだけでなくピッカートもいつになく真面目な顔をする。そうさせるだけの殺気が、邪気が、圧倒的な力が周囲を威圧する。
「こいつはやべぇな」
ラインですら背中に冷たい物が流れた。そして全員を脅かし、驚愕させ、その心胆を寒からしめるモノ。あまりに簡単に死を連想させるそれは、ゆっくりと潰れた芋虫から這い出て来る。紫の泉から這い出るそれは、どこか妖しい雰囲気をたたえている。
例えるなら。
死ぬとわかっていても飛び込んでしまう。そういった妖しさを、その光景は放っていた。だがその泉の中から出てきたのは、よく見知った顔であった。誰であろう、ムスターである。
「ムスター?いや、違うな」
「ラインか?」
ムスターがゆっくりと答えた。だがもはや、先ほどラインが一瞬たりとも親近感を覚えたムスターではない。ラインの細胞一つ一つが警告を発する。『こいつは危険だ』と。今だかつてここまで全身が警報を発する事態に出会った事は、ラインの記憶では数えるほどしかない。
「ははっ。魔王の軍隊の中に分隊一つで取り残された時より、よっぽ
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