友人の話。

彼は幼年期を山中の実家で過ごしたのだが、時々不思議な体験をしたのだという。
夜寝ていると、屋敷の外より動物の鳴き声が聞こえてくることが時々あった。
ヒヒーンという馬の嘶き。天空を飛んでいるかのように、遙か高みで馬が鳴いている。

 トビコンマの鳴く夜にゃ出歩くな。お空の上へ攫われんゾ。

彼を寝かし付けていた祖母は、子守歌代わりにそう話してくれたという。
今はもう、天から馬の声が聞こえることはなくなった。
空を飛びながら嘶いていたモノが、どこへ去ったのか誰にもわからない。

よくあるパターンなんだけど、波間に頭だけ出ていて
「おーいおーい」っていう霊は結構頻繁に見たらしいよ。

太平洋のどまん中でさ。オヤジが当直に立った時とかも、
何度か見たって言っていたよ。いきなり「おーいおーい」だもの。

最初は慌てて「漂流者だ!」ってみんなを呼んだりしたらしいけれど。
古参のひとは航路のどこでそれが出現するか知ってるらしく、
「ああ、またか・・」って言うんだって。

当時の船は、レーダーとかも無かったのかな?いやあったのかも
しれないが精度がイマイチだったのかもしれない。そのせいか、
船首と船尾に立って、毎日交代で航路を見る「ワッチ」という当直があったらしい。そういう時に出るんだって。

太平洋の、激戦地の近くとかでよく見たって言ってた。
きっと戦時中の船が多く沈んでるのかな。

その「おーいおーい」を見た後は、船のみんなでオニギリや酒、タバコなんかを海に投げ入れてやるんだって。


怖いって言うよりも、同じ船乗りとしてすごく悲しいんだって。
だから「日本に一緒に帰ろう。この船に乗れよ」って心の中で必ずみんな言ってたそうだ。




皆さんは『夜さで』ご存知ですか?
多分、うちの方言なんでしょうけど、夜にニナ貝やら子サザエやらを浜辺に取りに行くんです。
夜になると、昼間深めの所に潜んでいる貝やらが、浅い所に上がってくるんです。(何でかは知りません)

そんな、『夜さで』に出かけた時の話・・・

私や弟は子供だったので、やっぱり海に入ると「泳ぎたい!」と思ってしまい、懐中電灯片手に暗い海に頭までつかり、大物を狙うわけです。

真っ暗な海中を探るというのは、スリルがありました

ここからは父の話な訳ですが

父はその時、自分の身長位の深さの所で海藻をかき分けて、大物を狙っていました。
潜りながら髪の毛のような細い海藻をかき分けているうちに、
「ガリッ」
と何かに咬まれたそうです。

「チッ、海蛇かアナゴか!?」
とその咬んだものの正体を突き止めるべく、ライトで照らすと・・・

海中に揺らめく髪の毛の真ん中に、目を見開いた『カオ』があったそうです。

それを見た父は、さっと私達を陸に上げ、とっとと家路についたのでした。

その時私達は、なぜ急に帰る命令が出たのか、と文句をたれて家に帰ったのですが・・・
父の人差し指には人間が奥歯で咬んだような咬み傷が残っていました。

「あれが、えべっさん(水死体)か、バケモンかは解らん。でも、あげなもん夜の海中で発見したら、心臓が止まるだら」

そんな父をみて、あんたの心臓が止まらなくてよかったよ、そして見たのが私じゃなくてよかったよ、と思う私でした。