また走る。走る、走る……振り返る。
木の陰に白い着物。さっきよりも更に近い。
「ううううう……!」と、恐怖でうめき声が漏れた。
“だるまさんが転んだ”を連想してもらえば分かり易いだろうか。
走りながら後ろを振り返ると、さっき振り返った時より近い位置に立っている。
全力で逃げてるのに、振り返った時、
そいつは今まで走っていた素振りもなく、さっきよりも近い位置に立っているのだ。
もうすぐ麓の民家がある集落へ出る。
また振り返ると、3メートルくらいの位置に立っていた。
一瞬だが顔が見えた。目元はべったり張り付いた髪で隠れていて、口がモゴモゴ動いていた。
前を向いて、走る、走る。
もう振り返る勇気は無かった。
次に振り向いたら、俺の背中ぴったりのところにいるんじゃないか。
ゼヒュッ、ゼヒュッ、と呼吸困難寸前になりながら、集落へ。
最初に目に付いた家に飛び込み、呼び鈴を狂ったように連打した。
「誰か!!誰か!!」
俺が騒いでいると、家の中からおばあさんが出てきた。
「なんだいな。どがぁしただ?(どうした、の意味)」
俺の様子を見て驚くおばあさん。
そりゃそうだろう、いきなり大の男が息を切らしてやってきたら。
「すいません 、……あの、俺の後ろ、何かありませんか?」
「…なんもあらあせんがな」
言われて恐る恐る振り向くと、確かにあの女の姿は無かった。