私が通っている美容院の担当美容師さんから聞いた話です。

ある時、彼のお父さんが
真っ蒼な顔をして帰って来たそうです。
幹線道路から家までは、街灯もない、両脇が林の田舎道だそうです。

夏の夜、仕事が遅くなり真っ暗な中、
お父さんは窓を全開にして車を走らせていたところ、イキナリ開けた窓にかけていた腕を何かに掴まれ、物凄い勢いで引っ張られたそうです。

前後に車は1台も走っていないし、第一走っている車に追い付ける人なんている訳ありません。
反射的にこれはまずい! と思い、車の速度を上げたそうですが、一向に腕を離す気配がないまま、車から引きずり下ろされそうな勢いだったそう。

お父さんは必死で運転し続け、何とか力を込めて腕を振り払ったら、やっと離れて行ったと。
そこから家まで必死の思いで帰ってきたそうです。

そう云うものを全く信じていないお父さんに
思いがけず起きた出来事で、
お父さんは恐怖のあまり、
暫く口もきけないほどだったそうです。


あの日、1回だけ話して以来、この話は一切しないんですよ、余程怖かったんでしょうねと、
美容師さんは云っていました。


これは、私が中学生の時に体験した話しです。

始まりは文化祭の前夜だったのをはっきりと覚えています。
私の家と道路を挟んだ斜め前に「○○荘」という、昔からの木造アパートがありました。
おじさんばかりが住んでいる、とても古くて今にも壊れそうなアパートでした。

文化祭の前夜、家の外がやけに騒がしかったので窓越しに外を見ると○○荘が燃えていました。
おじさんやおばさん達が
慌てて消火していましたが、
建物が古く、火はあっという間に広がっていました。

逃げ遅れた人がいるようで、
助けに行こうとするおじさんがいましたが、とても入って行ける状況ではありませんでした。
火の勢いは激しく、近隣も延焼し、我が家も焼けるのではないかと、怖かったです。
消防隊の消火後、
やはり、おじさんが一人亡くなられていました。
火元はその方の部屋で、寝タバコが原因でした。

それからしばらく○○荘は
焼け落ちたままの状態で放置されていました。
私が見たのは火事から1週間以上経った夜でした。
その日は父の実家にみんなで行った帰り、車庫へ入る車から降りようと外を見たときです。
焼け落ちた瓦礫の中、
ポツンと一人で作業服を着て、
倒れた冷蔵庫に片足を載せ、
腕を組んで何か見ているおじさんがいました。

表情まで見えるくらい、はっきりと。
私は「あそこ、人がいる」とつぶやいてドアをあけました。
車から降りると、そのおじさんは音もなく消えていました。
母もその時同じ人を見たそうです。
緑色に淡く光るおじさんを‥‥。

それからすぐに○○荘の跡は
お坊さんが来て御供養され、片付けられました。
母によると、そのおじさんを見た人は何人もいたようです。
でも、お坊さんが来てからは
誰もおじさんを見てないみたいだと‥‥。
おじさんは何か
大事な物でも探していたのでしょうか?



思えば、30年近く前のことになります。
ある春の日、当時の彼と、
都内の高層ホテルに泊まった時のことでした。
その日は、とにかく帰りを気にせずに飲むぞと決めて
ホテルに泊まることにしたと記憶しています。

お店をはしごし、とどめにホテルのバーでまた飲み、部屋に帰ったのは夜中の2時を過ぎていたかと。
シャワーもそこそこに、
二人、泥のように眠りにつきました。
ふと、物音で目を覚ました私。
「あぁ、シャワーの音か‥‥」とまた眠り、どれ程経ったか、またシャワーの音で目が覚めました。
動きのないシャワー音とでもいうのでしょうか、ただ、濡れているだけといったシャワーの音に異変を感じ、「随分と長いし、変なシャワーだな、 見に行こうかな」
と思ったその時、
隣ですやすやと眠る彼が目に入りました。

物音が彼のものではないと気付いた時には、私の体は、かなしばりで身動きができず、
動くのは目だけとなっていました。
どれ程の時間が経ったでしょうか、キュっキュっと蛇口をしめる音が聞こえてきました。
シャワーの音は聞こえなくなり静まりかえる部屋‥‥
「まさか‥‥出てこないで」
と願った私でしたが、
小さくカチャっとドアが開く音が聞こえました。

数秒の後、静かに静かに女の人が現れ、じっと私と目を合わせていました。
それは、とても長く感じました。
目を合わせることに限界を感じた頃、静かにその女性は彼に視線を落とし、彼の方に進んで行きました。
そして、ひざまづき、彼の顔の横に頬杖をつき、じっと静かに彼の顔を見下ろしていました。
「その女性が関心があるのは、 私じゃないんだ、彼か‥‥」と
恐怖の中にも安心した気持になった、その時、
女性の伏せていた目が、
ギョロっと私の方に向いたのです。
恐ろしい、見開いた目でした。
あまりの恐怖に、私は気を失ったと思います。


それから、ホテルに一人で泊まることができなくなってしまいました。