愛に生きた王 | 気づけば更新されてるかもしれない雑多な何か

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※キャラクターを変に貶めるつもりはありませんが、そのように読み取られた方がいた場合、この場で謝罪申し上げます。

最近、仮面ライダーキバを見返しています。
平成仮面ライダーシリーズ九作目、音楽と愛の物語……。

この作品、悪い評判のほうが多く聞きます。
実際私も、諸手を上げて良作かと言われると、答はNOです。
出すだけ出して回収されなかった裏設定、尺を無駄にとるグダグダな展開、強烈すぎる昼ドラ展開……。子供受けは悪かっただろうなぁと思います。

ですが、私はこの作品が好きです。
内気で気弱な主人公に共感を覚えますし、ライダーのデザインが秀逸で、まさに芸術品のような精巧なデザイン……。
人を選ぶとは思いますが、私にとっては好きの部分が強すぎて悪い面を覆い隠し、半ば色眼鏡状態です。


さて、前置きが長くなりました。
今回書きたかったのは、仮面ライダーキバの登場人物、キングについて。

キバの世界における怪人、ファンガイア。それを取り仕切る四天王、チェックメイトフォーの一角にして頂点。
劇中では圧倒的な強さで主人公たちを苦しめました。

では、彼が一体どうしたのかというと……。


凄い理不尽な最期を遂げてるんです。

キングの妻、クィーンは人間に寝取られ、王の鎧である闇のキバの鎧は、その所有権を持つ部下のコウモリ・キバットバットⅡ世が離反することで失われ、絶対的な権力の象徴・ザンバットソードと王の居城・キャッスルドランは間男の子供に継承されました。そして自分は……間男とその子供に致命傷を与えられ、無理心中を迫った挙句実の息子にとどめを刺される。

持つもの全て奪われ、死んでいった過去キング。その気持ちは如何ほどの物だったのやら。

そして、『キバ』を見返して気づいたことが一つ。


これ、過去キングは何も悪い事してなくないか?


確かに、彼がしたこと自体は非道です。
クィーンの浮気相手である人間、紅音也に少しずつプレッシャーを掛け、最後には「寝取り」&「同胞を殺した罪」(チェックメイトフォーには各々の役割があり、キングはファンガイアに敵対するものを滅ぼす、或いは人類の進化を妨害する役割がある。)を裁くために「命を吸い取る刑罰」を設けます。
音也を助けに来たクィーンを蹂躙したうえでファンガイアの力を抜き取り、人間としての生を与える代わりに、同胞から狙われるよう仕向ける。
挙句、赤子だった我が子を人質にとって音也と別れる事を強要。
更には、未来から来た音也の息子、紅渡をも抹殺しようと図ります。

やっている事自体は極悪で、許されないことも多いとは思います。


しかし、人間側の視点だけでなく、ファンガイア側からの視点も含めてみたらどうでしょう。

15世紀頃、ファンガイアは世界征服のために種族間闘争(キバの世界には様々な種族の怪物が生息していた)に明け暮れていましたが、レジェンドルガという一族に劣勢を強いられ、一族存亡の危機に立たされます。
この時、危機を救ったのが……過去キングでした。完成間もない闇のキバの鎧(ダークキバ)を纏って、レジェンドルガとの戦役を集結させました。
この時、禁忌の技であるウェイクアップスリー・キングスワールドエンドを発動して、同胞を巻き込みながらレジェンドルガを一掃しています。仲間を巻き添えにしたとはいえ、レジェンドルガを滅ぼしたのは、一族の未来を守ったことになります。レジェンドルガとは他の魔族からも恐れられる集団であり、これを滅ぼし一族を守ったことは、ファンガイアから見れば大変に素晴らしいことです。
また、完成間もない闇のキバの鎧は、後々製作者であるファンガイアからもその強すぎる力を懸念されて、性能を落とさざるを得なかった代物です。そして、王のための鎧とは言え、鎧の力が強すぎて暴発する恐れも孕んでいる、まさに「歩く爆弾」です。それを纏ったこと自体が、最早英雄的行為です。

そして舞台は劇中へ。ファンガイアの脅威となるウルフェン、マーマン、フランケンと言った一族を次々に滅ぼし、同胞を殺したイクサ=音也を殺害しようとする。人間から見たら頭を捻りますが、ファンガイアから見ればキングとしての職務を全うしているだけです。何も悪いことはしていません。


そして何より……キングはクィーン・真夜を愛していました。
彼は大分家を開けており、真夜が音也に浮気したことを聞いて帰ってきます。その後も「持っていたら殺してしまいそうで、愛していたことの証明になってしまう」としてザンバットソードを破棄してしまいます。愛情を隠してらっしゃる。
そして、音也を攻撃した時、それを庇って泣きながら音也に縋りつく真夜。その姿を見て、歯を食い縛り身を震わせます。そりゃ、自分の妻が下等だと見なしていた人間にほだされ、泣きながら庇ったら過去キングじゃなくても怒りますわね。
そして最期の時には「お前は俺の物だ」と執着心と嫉妬心が入り混じった愛情をぶつけます。報われませんでしたが。


これに対して、音也が取った行動は、真夜と恋に落ちたこと。実は彼には同棲している彼女がいるにも関わらず「魂が共鳴した」という理由で真夜に惹かれ、愛し合います。そして、彼女を過去キングから守るために戦います。
守るため、と書きましたが、守るというよりはお前自分の欲望のために戦ってるだけやんけ、という感じです。実際に見てもらえば、かなり熱いことを言っていますが、浮気です。過去キングが真夜に対してDV気味な事をしていたとしても……浮気は浮気です。

この辺は、同じ脚本:井上敏樹先生の『仮面ライダー龍騎』に通じるところがあります。「戦いに正義はなく、純粋な願いがあるだけである」……。
音也の「魂が共鳴した、愛した相手を守りたい」
キングの「妻を自分の下に戻したい」
二人の純粋な願いは、結局音也の方が強かったのかもしれません。

キングの愛の形は、確かに見え辛いものでした。所謂ツンデレです。しかし、長いこと放ったらかしにした上でいきなりツンデレを発揮されたら、少なくとも私は嫌になります。真夜もそうだったのかも……。
しかし、キングは、分かり辛かっただけで、真夜を愛していたんだと思います。もし、”真夜”ではなく”クィーン”が大事なら、力を抜き取るなり殺害するなりして、次代のクィーンを娶れば良かったんです。(既に子を成しているので、娶るという表現は不適切かもしれませんが)ですが、何としてでも音也から引き離し、自分のもとに帰ってきて欲しかった。

……なんともいじらしい王様です。
過去キングは、やり方は非道だったけど、ただの悪役ではなかったんです。
愛を否定しつつも、妻への情を捨てられず、愛に散っていった……。
下手な人間よりも、人間臭いファンガイアだったと思います。