若き頃に教えを受けた
哲学者の森信三先生(明治二十九年~平成四年)が
仰った言葉で、
繰り返し甦ってくるのは、
「民族生命の原始無限流動」
という言葉だ。
意味を理解しているから甦るのではない。
茫々とした悠久の彼方からの
日本民族生命の無限の流れが逆巻く音を
聴く気がするから甦るのだ。
その「原始」とは何処なのか分からない。
ただ、森先生は、
我らが光を当てて見える所の、
さらにその奥に
民族生命の「原始」が渦巻いていると直感されたと思う。
森先生の師である哲学者の西田幾多郎博士は、
昭和十六年一月の
昭和天皇陛下に対する御進講で、
次のように語った。
「歴史は、いつも過去・未来を含んだ
現在の意識をもったものと思います。
ゆえに私は、我が国においては、
肇國の精神に還ることは、
ただ古(いにしえ)に還ることだけではなく、
いつもさらに新たな時代に踏み出すことと存じます。
復古ということは、
いつも維新ということと存じます。」
ここで、西田博士が、
「復古」がいつも「維新」であると言われたことは、
我が国の「歴史と伝統」の中に
「普遍的で根源的な力」があるとされたことであり、
西田、森の両知的巨人の魂は一致している。
我が国が、
嘉永六年の黒船来航以来、
欧米列強の軍事的圧力にさらされる
国家存亡の國難に直面した時、
徳川幕府第十五代将軍徳川慶喜は、
慶応三年十月十四日、
大政を天皇に奉還し、
それを受けて、
同年十二月九日
「王政復古の大号令」が発せられた。
それは、まさに
「諸事神武創業之始二原(もとづ)キ」
とした「復古」の宣言である。
則ち、
「明治維新」とは「神武創業への復古」である。
世界の諸民族のなかで、
「太古」への「復古」によって
近代国家建設を達成した国が何処にあろうか。
近代国家を自認する欧米列強は、
還るべき「太古」を持たない国々なのだ。
森先生に十二歳遅れて生まれたとはいえ、
ほぼ同時期を生きたフランスの社会人類学者
クロード・レブィ=ストロース(一九〇八~二〇〇九年)は、
「われわれ西洋人にとっては、
神話と歴史の間に、ぽっかりと深淵が開いている。
日本の最大の魅力の一つは、これとは反対に、
そこでは誰もが
歴史とも神話とも
密接な絆をむすんでいられるとい点にあるのだ。」
と言った。
では何故、西洋は
神話と歴史の間に「ぽっかりと深淵が開いている」のか。
その理由は一神教が「唯一絶対の神」しか認めず、
欧州諸民族の神話(多神教)の記憶を抹殺したからだ。
その悲劇は、
西暦三九二年、
ローマ帝国がキリスト教を「国教」にした時から始まり、
欧州諸国がキリスト教の選民思想に基づき
地球の諸民族の領域を植民地にし尽くした二十世紀まで
一千六百年間続いた。
そして、
二十世紀半ばに、それを止めたのが、
キリスト教化されていない
唯一の近代国家、日本だった。
則ち、欧米のアジア・アフリカにおける
植民地解放と
人種差別撤廃を掲げた日本が、
大東亜戦争を闘って人類の惨害を止めたのだ。
我が国は「戦闘」では負けた。
しかし「戦争」では勝ったのだ。
戦争とは「手段を代えた政治」であるからだ。
これ、
人類史の偉大な転換である。
このこと
日本人が忘れてどうする。
では、その「日本の原像」、
「民族生命の原始無限流動の原点」は何処か。
昭和二十三年生まれの西村が振り返れば、
我々の中学高校の歴史教科書は、
日本の歴史は農耕が始まった弥生時代からと教えていた。
それ以前は、
縄文時代という「原住民」がいた歴史以前だったとされていた。
しかし、
その頃から始まった日本の高度成長期が、
道路建設や団地造成や工業地帯建設の為に、
日本国土の津々浦々を掘り返し、
期せずして、初めて明らかになったことは、
一万五千年前から二千三百年前までの
一万二千七百年間に及ぶ縄文時代(石器時代)に、
我が日本列島に世界人類史に類例のない、
自然と共存共栄した定住社会が存在したということだ。
この一万数千年の定住社会である縄文時代が
日本の源流(ルーツ)である。
ここから、
神話が生まれ天皇が生まれ日本が生まれた。
この時、
欧州を代表とするユーラシアの人々は、
移動採集の生活をしていた。
そして、後に、
農耕を行うようになって定住するようになると、
自然を征服して農地を拡大していた。
これに対して縄文時代の人々は、
豊かな森の続く里山と川と海の豊かな風土がもたらす
生物多様性の恩恵を受け、
狩猟、漁労、採集によって定住を果たし、
里山の自然を温存し手入れして豊かさを維持し、
しかも、
この生活を一万年以上続けていたのだ。
そして、
この縄文の人々は、
現在の我々の血の中にいる。
私は、昨年十二月、
世界遺産となった青森の山内丸山縄文遺跡の中に佇み、
森先生が言われた、
民族生命の原始無限流動の原点にいるのを感じた。
(以上は、森信三先生ゆかりの、堺市内で行われている
若竹読書会会報に投稿した原稿に加筆したもの)
ウルトラセブン アンヌ隊員 ひし美ゆり子さん⑱
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